2012.06.19
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

釣り針のひみつ 【食と道具】[小5・社会科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十回目の単元は「釣り針のひみつ」です。

食育では実物を見る、触る、体験する、食べるなどの体験がとても重要です。しかしながら、本物に触れる体験が難しい場合もあります。例えば、漁業の学習は農業などと比べあまり身近でなく、実感を伴った理解は難しいものといえます。実際に子どもたちが魚を釣り上げる体験をできればよいのですが、その機会を作ることはなかなか困難です。

そこで、釣り針という道具を通して本物の体験に迫ってみました。5年生の社会科「水産業」の導入の1時間目の事例です。

釣り針から連想する

カツオ漁の釣り針

カツオ漁の釣り針

写真のような1本のカツオ漁の釣り針を子どもたちに提示し、
「これは何でしょう?」
 と聞きます。子どもたちからは、
「毛が付いている!」
「疑似餌!」
「釣り針」
 など様々な声が上がってきます。次に、
「これは、ある魚を釣る釣り針です。何の魚を釣る針でしょう」
 と聞きます。すると、
「大きいから、マグロ」
「カツオじゃないの」
「カジキマグロ」
「わからない」
 など、知っている大きな魚の名前を発表する子もいます。

「もっとよく見てごらん、みんなが知っている針と違うところがあります」
 この問いかけには、
「針が大きい」
「どうして色が付いているの?」
「先が何にもない」
「かえしがないんだ」
 といった声がどんどん出てきます。
「そうです。かえしがありませんね」
「かえしって何ですか?」
 と、子どもたちから質問が出たところで、釣り針には針先が向いている方向と逆の方向にとがった部分の「かえし」があり、えさが外れたり針が魚の口から外れたりするのを防ぐ役割があることを説明します。

「かえしがあると、釣った魚が逃げなくていいんだ」
 と子どもが反応します。そこで、
「この針はカツオの1本釣りの釣り針です。この針で漁師さんはカツオを釣っているのです。かえしがないと答えた人がいましたが、かえしがないということは魚がすぐに逃げてしまうということです。カツオ漁にはどうしてかえしのない針を使うのでしょう?」
 と問います。子どもたちから
「すぐに魚が外れるようにするため」
「テレビで見たことがある」
「カツオが空中で外れて、次の魚を釣ることができるようにするんだ!」
「きっと次々に魚が釣れるようにしているんだ」
 などの意見が出ました。
「答えは、釣ったカツオから素早く針を外すためです。カツオの群れがいる間に効率よく釣り上げるための工夫なのです」
 と説明します。

(※カツオ漁の釣り針は、釣具店やネット通販などで購入できます。)

実際にカツオ漁を体験しよう!

カツオの1本釣りを疑似体験

カツオの1本釣りを疑似体験

次に、漁師さんから借りてきたカツオ漁の釣り竿を見せます。そして、授業用の釣り竿に、砂を詰めて本物のカツオと同じくらいの1,700gにしたペットボトルを下げて、カツオ漁を疑似体験してみます。子どもたちからは
「重い! 上まで上がらないよ」
「一人では無理!」
「漁師さんは大変だ」
「こんなの毎日できないよ」
「漁師さんの苦労がわかりました」
 といった声が聞かれました。
(※授業で使った釣り竿は、高飛び用の竹のバーにガムテープを巻いて作りました。2~3本を用意すると、1時間で全員が体験できます。この授業は、体育館などの広い場所で行いました。)

カツオ漁には1本釣りと巻き網漁がある

「みんなが今体験したカツオ漁、これは1本釣りと呼ばれている漁法です。そしてもう一つが、2~3艘の船で網を巻いて行う巻き網漁という方法です。どうして二つあるのでしょう?」
 と問いかけます。すると、
「1本釣りは重労働だから、機械を使う」
「1本釣りだと(獲れる)数が少ない」
「でも1本釣りだと魚に傷が付かないよ」
「たくさん獲れた方がもうかる」
 などなどたくさんの意見が出ました。
 そこで最後に、次のように話しました。
「カツオ漁の主流は、魚を傷付けることが少なく鮮度も保つことができる『一本釣り漁』から、網を引き、魚を群れごと捕獲できる『巻き網漁』へと変わってきています」。

子どもたちの感想です。
「漁師さんの苦労がわかった」。
「漁師さんは大変だと思いました」。
「こんな大変な仕事を毎日しているなんてすごいと思いました」。
「これから学習する水産業が楽しみになりました」。

本物を体験することで社会科のねらい「水産業で働く人びとの工夫や努力について調べる意欲をもつ」という単元の目標に迫り、さらに食育の目標である「感謝の心」や「食文化」にも迫ることができます。

授業の展開例
  • 魚を三枚におろしてみましょう。生産に関わる人の努力や感謝の心に触れることができます。
  • 魚は、骨があるから苦手だという子どもがいます。骨のある場所を知っていれば食べやすくなります。焼き魚を使って正しい骨の取り出し方を学びましょう。

江口 敏幸(えぐち としゆき)

東京都杉並区立三谷小学校栄養教諭、並びに杉並区学務課保健給食係兼務

平成20年より国産食材だけで給食を作る国産給食の実施、国産給食を教材に5年生社会科で日本の食料自給率について実践。
理科、生活科と関連づけた年間栽培計画を作成し1年間を通して栽培活動を実施。
そのほか、ケチャップ、梅干し、みそ、たくあん作りに取り組んでいます。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文:江口敏幸/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop