2012.04.17
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アジの解剖! 味は同じ? 【食と科学】[小6・理科・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第六十八回目の単元は「アジの解剖! 味は同じ?」です。

理科の教科書で解剖実験を取り扱わなくなって数年になります。しかしながら解剖の実験は、わくわくどきどきしながら対象への理解を深めることができる有意義な活動です。今回は、魚屋さんが朝市場で仕入れた新鮮なアジを使って、アジの消化器官、呼吸器官などの体の仕組みや働きをじっくり観察することで、ヒトの体のつくりと動物のつくりを比較し、生命の持つ仕組みの素晴らしさを感じ取らせようとしたものです。6年生理科の「ヒトや動物の体のつくりとはたらき」の発展として取り上げてみました。

「ヒトの体のつくり」を振り返る

解剖の授業の始めに、「ヒトや動物の体」について、でんぷんによるだ液の実験、気体検知管による呼吸の実験などで実証しながら、ヒトの体のつくりを中心に学習を進めたことを児童に想記させました。その発展学習としてアジの解剖を行うことにしました。

解剖実験で、生物の素晴らしい仕組みを理解

実験前、特に女子児童は予想通り、
「こわい」
「気持ちが悪い」
 などの消極的な言動や解剖に対する不安な様子が多く見られました。
アジの解剖実験に夢中になる子どもたち

アジの解剖実験に夢中になる子どもたち

ところが、実際に実験が始まると最初は遠巻きで傍観している児童もありましたが、いざメスが入って、各消化器官が見えてくると、興味深げに手を出し始め、最後には何の抵抗もなく積極的に参加していました。そのメスさばきは見事で、内臓一つ一つを丁寧に切り離し、わかりやすく区分して見せてくれました。

予想以上に、児童が抵抗なく実験できた理由の一つに、ゴム手袋を装着させたことがあると思われます。安心して触れるようになったのでしょう。

解剖中、アジの胃や腸の中身を取り出し、実際に消化が行われている様子も確認させました。児童は、すべての臓器は生物が生きるためにうまくできていることを学び、生物の素晴らしい仕組みを理解することができました。

児童の感想を紹介します。
「胃はちょっぴり堅かったけど、腸の方が少し柔らかかったです。先生が胃の中身と腸の中に入っているものを出してくれました。消化させていく様子が実際に目に見えてよくわかりました。びっくりしました」。

「始めは血の臭いや内臓の生臭い臭いがぷんぷんして臭くてイヤだったけど、後になってくると臭さより興味のほうが上になり、どんどん解剖ができました」。

調理実習で、命をいただく

理科でアジ解剖の授業をした次の時間は家庭科の授業として、「アジの唐揚げ」を作りました。このアジは解剖で使ったものではなく、改めてまるごと新鮮なアジを使いました。

普段当たり前に食べている料理ですが、児童は実験で一つの命の仕組みを目にした「アジ」を実際に調理して食べることで、「食べるとは命をいただくこと」と、いまさらながら痛感したようです。

<調理の手順>
(1) アジは三枚おろしにする(アジはしっぽの近くに堅いウロコがあることを教え、それを除く)。
(2) 塩こしょうをする。
(3) 片栗粉をつけ、油で揚げる。

児童の感想を紹介します。
「今、実験で使ったアジと同じアジだけれども、調理してしまえばいつも通りおいしいと思って食べてしまいました。お店で売られている魚は、内臓を取り出してあって、すぐに調理しやすい形になっているので、魚の命を感じることなく当たり前のように食べていたように思います。アジのフライだけでなく、私たちが食べているどんな料理も、命をいただいているのだと改めて思えました」。

「魚を三枚におろすことを初めてしました。うまくできなくて、骨にもたくさん身がついていました。もったいなかったです。さっき理科の解剖実験で見た同じアジなのに、メスを包丁に持ちかえると、気分がガラリと変わりました。私たちの命をつなぐためにアジの命をいただいたと実感しました。これからは何でも残さず食べるようにしたいです」。

授業の展開例
  • 旬の魚について調べてみましょう。日本は海に囲まれた国で、昔から海産物をたくさん食べています。いろんな魚の旬についても学習をしてみましょう。
  • 魚の名前を漢字で書いてみましょう。「鯵」「鯖」「鰯」「鯛」「鯨」など身近な魚について調べてみましょう。

柴原由衣子(しばはら ゆいこ)

宍粟市立道谷小学校教諭、栄養士

10年以上中学校で家庭科を教え、5年前から小学校の教壇に立つ。兵庫県学校食育検討委員会のメンバー。食育の研究大会の研究主任を務めたことを機に、学校における食育の推進として、各教科の中でどのように食育を進めるかについて実践・推進している。山村の伝統食づくり継承のため、5年前からは糀を自分でつくり、味噌造りを楽しんでいる。今年も9kgの糀を自分で作って自家製味噌を寒仕込みした。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文:柴原由衣子/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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