漬物のひみつ 【食と科学】[小5・理科]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第五十二回目の単元は「漬物のひみつ」。野菜に塩を振る実験を通して、漬物が浸透圧を利用して出来ていることを理解させましょう。
ムラサキキャベツから色水を取り出す
・ムラサキキャベツ
・塩
・漬物
・塩水
(1) ムラサキキャベツを千切りにする
(2) 刻んだムラサキキャベツに塩を振る
(3) 数分待つと、キャベツから紫色の液体が出る
ムラサキキャベツに食塩をかけるとどうなるかを問いかけると、子どもたちは、
「紫色の汁が出てくる」
「キャベツが白くなる」
「おいしくなる」
「水分が出てくる」
と予想しました。やってみると、塩に紫色の汁が着色し始めたのです。
「なんだかしんなりしているのは気のせいかな」
「おいしそうだから食べてみたい」
と、子どもたちは興味津々です。滲み出てきた紫色の水はムラサキキャベツの中の水分が、色素と一緒に出てきたものです。
このように、塩分の薄い方から、濃い方に水分が移動する力を「浸透圧」と言います。浸透圧の作用には、全体が均一の濃度になるように、水分が塩分濃度の低い方から高い方へと移動し、また、濃度の差が大きいほど早く移動するという特徴があります。
一夜漬け(ハクサイ、キュウリなど)のような短期の塩漬けを始め、梅干し、調味しょうゆ漬け(福神漬けなど)、かす漬け などの長期にわたる漬物の下漬けまで、漬物全般にこの浸透圧の性質は利用されています。食材に塩を振って何時間か置き、食材の水分を抜き取るという、浸透 圧を利用した工程がどの漬物にも共通にあるのです。
漬物を塩水に浸すと…?
浸透圧の力を利用すれば、しょっぱい漬物の塩も抜くことができます。では、二つ目の実験を次のように進めます。
(1) 塩水(塩分濃度1%)を用意する
(2) 漬物(塩分濃度10%)を塩水につける
(3) 30分ほどしてから味見する
「ここに漬物があります。この漬物をさらに塩水につけます。味はどうなると思いますか?」
と質問しました。すると、
「塩水につけると、もっと味が濃くなる」
「塩辛くなる」
という子がほとんどでした。
実際に塩水につけたものを食べた子どもは、食べる時にかなり不安そうな顔をしていましたが、
「ちょっと薄い味だけどおいしい!」
「めちゃくちゃしょっぱいと思ったけど、そんなことなかった」
「塩水につけると塩が抜けるのが不思議。なぜ?」
と、疑問が次々に出てきました。
これも浸透圧の作用です。濃度1%の塩水に漬物をつけると、漬物の塩分濃度は10%前後ですから、漬物の中に水が移動するのです。すると漬物の味はちょうど良くなるというわけです。
塩辛い塩魚や漬物の塩抜きをする時、塩水で戻すことを「呼び塩」といいます。この時の塩水も食品よりも薄い塩分濃度であれば、水分が食品の方へ移動し塩辛さがなくなるのです。この呼び塩で塩抜きすると、風味が損なわれず、おいしく食べることができます。
もちろん塩水ではなく、ただの水を使っても早く塩は抜けます。しかし、表面の塩分が先に抜けてしまい、しかもうま味成分まで逃げ出して、味が水っぽくなってしまいます。このため、料理の塩抜きには塩水を使うのです。
一般に、呼び塩には塩分濃度1%の塩水を使い、半日ほど塩抜きをします。ただし、食品によって差があるので、味を確かめながら時間は調節します。
子どもたちの感想です。
「ムラサキキャベツは、塩をかけると、紫色の汁が出て来ました。食べるとおいしかったです。普通のキャベツでも同じことが起こるのかなぁと思いました」。
「ぼくは、塩水につけたキュウリを食べました。味がとても濃くなると思っていました。でも、味が薄くなっていたので、とても意外でびっくりしました」。
「ムラサキキャベツに塩をかけると、紫色の水が出てきました。キュウリの漬物を塩水につけると、味が薄くなりました。塩ってすごいなぁと思いました」。
今回の記事の内容は、筆者・藤本のプランにもとづいて実践した徳島県鳴門市立鳴門東小学校の大門正憲先生の事例をもとにしています。
授業の展開例
- キュウリを横に切って切り口に穴をあけて、そこに塩を入れます。しばらくすると、あけた穴の中に水がたまってきます。
- 野菜を水に浸けると、細胞内の液の濃度の方が高いので、外の水が細胞の中へ入り込んでいきます。このため細胞が膨らんで、歯切れがよくなるのです。他にも浸透圧を利用している調理法を調べてみましょう。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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