2010.10.26
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台所今昔 【食と暮らし】[小4・社会科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第五十一回目の単元は「台所今昔」。昔と今の台所の様子を見比べて、暮らしの変化に気づかせましょう。

私たちの暮らしの変化は、食において顕著に表れます。たとえば、昭和の頃の台所と比べてみると、“かまど”から“キッチン”へと変わる過程には、台所の構 造や電化への変化による家事労働の軽減だけでなく、食生活の変化や薪炭から石油・ガスヘの転換などのエネルギー変化までも見えてきます。現在の台所と比較 することで、道具の発達や暮らしの変化に気づかせる活動を、4年生社会科の時間に1時間ほど取り上げてみました。

台所にあるものは何?

「みんなの家の台所にはどんなものがありますか?」
この言葉から授業はスタートしました。
「冷蔵庫があります」
「ガスコンロがあります」
という意見が出ます。

 次に、
「みなさんのおじいちゃんやおばあちゃんが子どもの頃の台所にはどんなものがあったのだろう?」
と聞くと、
「田舎のおばあちゃんの家には井戸があったよ」
「火を燃やしてご飯を炊いていたよ」
という声があがります。

「では、今から昔の台所の絵を見せます。今の台所と違うところを見つけようね。見つかったら付箋紙を貼っていくんですよ」
と説明します。
今回の資料は、東京書籍『新編 新しい社会3・4下』から使用しました。同教科書内にある挿絵をA3の大きさに拡大コピーし、2.5 cm×7.5cmの付箋紙と共に各班に配ります。絵から昔と今の台所の違うところを見つけて、その箇所に違いを書き込んだ付箋紙を貼ります。同じ意見の場 合には付箋紙を貼ることができませんから、付箋紙を増やすためには注意深く探さなければなりません。子どもたちはどんどん付箋紙が増えていくことが楽しい ようです。

昔と今の違うものを見つけた!

子どもたちが見つけたことを発表します。意見は、今の台所にはないものと、昔の台所にはないものの両面から発言するので、次のように発言を受けて問い返します。

「かまどがあります」
「そうですね。今の台所だったらなんだろう?」
「コンロです」

「蛇口がありません」
「そうですね。昔はその代わりに?」
「井戸がありました」

「ニワトリがいます」
「そうですね。今なら?」
「……? 先生、なんでニワトリがいるの」
「卵を産ませるんだよ」
「そうか、だったらスーパーマーケットだね」

 子どもたちの経験には差がありますから、
「火吹き竹があります」
「えーっ、それ何?」
「火吹き竹というのはね……」

「おひつがあります」
「何だ?」
「おひつは……」
こうしたやり取りを繰り返しながら発表が続きます。

 発表がひと段落したところで、昔の台所で使うものは何から作られているかなと聞きます。
「木や竹」
「あっ、そうだガラスがない、プラスティックもない」
「壊れたら直しやすいものが多い」

「どうやってご飯を炊いているのかな?」
「木を燃やして」
「今はガスや電気」
「冷蔵庫も電気」
「今は、ミキサーや電子レンジや電気製品が多い」
「だから電気代がかかる」
「そうですね、今は電気代がかかりますね。でも昔は、ご飯炊くときに煙で目が痛くなったり、ずっと見張っていないと上手に炊けなかったりしたんだよ」
そんなことを話しました。

違いからわかること

「みなさんのおじいちゃんやおばあちゃんが子どもの頃の台所と今の台所は、こんなに違っていました。この違いからどんなことがわかるかな?」
と聞きます。
「昔は、はしや火吹き竹のように木や竹でできたものが多いので、自然をうまく使っています」
「自然に優しいと思います」
「電気製品がないので、電気代もかからずエコです」
「確かにそうですね。昔はかまどで燃やした薪は、再利用していたそうです。燃えた後にできる『おき』を『消し壷』に入れて、火を消して炭を作っていました。この炭はすぐに火がつくので便利でした」
「すごいね」
「工夫していたんだ」

 こうした意見を受けて違う見方も出されます。
「でも、危ないこともあると思います。かまどはやけどをするんじゃないかな」
「そうそう、野口英世が子どもの頃に……」
今度は、安全性という視点から話し合いが始まりました。井戸や石臼など危険な個所を指摘します。
「でもね、みんな使っていたから使い方がわかっているし、危なくないんじゃないの」
「そうだよ、お手伝いもしているし」
「そうか、教科書の絵では子どもが石臼を使っているよ」

 こうした意見を受けて、次のように問いかけます。
「子どもたちはよくお手伝いをしていました。ところで、今の台所で便利になったところはどこかな?」
「ご飯を炊くこと」
「水じゃなくてお湯が出る」
「そうですね。冬の洗い物はずいぶん楽になりました。井戸から水を汲まなくても、蛇口をひねれば水が出ますし、『家事』といいますが、楽にそして安全になったんだよ」
と説明を加えます。

「あれ、冷蔵庫の代わりはどうしていたの?」
「家の中の涼しい場所に置いたり、保存のできる食べ物を作ったり、それに近くの畑で採れた野菜を……」
「取ってきて食べる!」
「その通り。家で味噌を作ったりお漬物を作ったりもしていました。だから今とは食べる物も違っていたんじゃないかな」
「私もそう思います。だっておばあちゃんの好きな食べものは、私と違うよ」
「ケーキやチョコレートもなかったと思う」
そんな食べ物への関心も出てきました。

授業の展開例
  • 「黄な粉飴」や「麦焦がし」など昔ながらのおやつを作って食べてみましょう。
  • かまは、お米を炊くために使った昔の道具です。ご飯をおいしく炊くための工夫を高齢者の方に聞いてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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