蓋が開かない 【食と科学】[小4・理科]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第四十六回目の単元は「蓋が開かない」。水蒸気が水に戻る性質を理解しましょう。
アルミニウムのボトル缶(キャップ付き)、ペットボトル(500ミリリットル)、軍手、丸底フラスコ、ゴム風船、お湯(熱湯でなく、ポットに入っているぐらいの温度でよい)
ボトル缶をつぶす
まず、ボトル缶にお湯を5分の1くらいまで注ぎます。次にキャップ(蓋)をきちんと閉め、よく振って全体を温めたら、お湯を全部捨て、素早くキャップをぎゅっと閉めます。
キャップを閉めてしばらくすると「バコッ!」という音がしてボトル缶がつぶれます。つぶれるまでの時間はボトル缶の大き さや気温などの条件で変わりますが、約10~30秒くらいが目安です。この時、手をかざして念力を送るようなポーズをすると、「えっ、超能力?」という演 出ができます。
「お湯を入れた時に、ボトル缶の中にいっぱいあった水蒸気が冷えて水に戻ったからだよ」
と、簡単に説明して次に進みます。
ペットボトルでもできる
ペットボトルを使うと、中に湯気が充満していることがわかりますので、水蒸気が冷えて水に戻る過程を実感しやすくなります。
ペットボトルの半分くらいまでお湯を入れて、キャップをはめずに2~3分間そのままにしておきます。次に、お湯を捨てて キャップを素早く閉めます。しばらくすると大きな音とともにペットボトルがへっこみます。ペットボトルは、炭酸飲料の入っていた容器のほうが急にへこみ、 且つ大きな音がして迫力があります。
ボトルがバコッとつぶれる時に、飛ぶようにして倒れることもありますので、あまり近くで見ないようにしましょう。大きな音にびっくりして、後ろに転んだりするかもしれません。注意してください。
風船が丸底フラスコに吸い込まれる
食器の蓋がぴったりとくっついてしまうイメージをつかむために、最後に次の実験を行います。
まず、丸底フラスコにお湯を入れてよく振ります。お湯を捨てて、膨らませていないゴム風船を丸底フラスコの口に被せます。
しばらくすると風船はしぼみ、最後は丸底フラスコの中で膨らんでいきます。急ぐ時には、フラスコに冷たい霧吹きをかけたり、水に濡れた布で覆ったりするといいでしょう。
ここまで実験を重ねてくると、水蒸気が水に戻って縮んでいくイメージと、給食の食缶や食器の蓋が開かないことが結びついていきます。
「容器の中と外の空気は、互いに押し合いをしてつり合っているのですが、水分が水蒸気になって水に戻ると、容器の外から押している空気がとても強くなるので、蓋が取れないのです」
と説明します。
秘密は大気圧
地面では、1平方センチに約1キロ、1平方メートル当たりでは10トンにも相当する重さの大気圧がかかっています。普段はこの大気圧を自覚できませ ん。お湯をボトル缶に注ぐと、中は水蒸気でいっぱいになります。この状態で大気圧とつり合っています。キャップを閉めてしばらくすると、水蒸気は次第に冷 えて水に戻っていきます。この時、中の気圧が下がり、周りの大気圧とのつり合いが破れて、ボトル缶はつぶされてしまうのです。
実験ではボトル缶が熱くなります。必ず軍手を使いましょう。つぶれたアルミのボトル缶はリサイクルに回しましょう。
授業の展開例
- 蓋付きお椀や吸盤の現象は大気圧の力による「マグデブルグの半球」という17世紀ドイツの有名な実験と同じ原理です。この実験について調べてみましょう。
- 度つぶれたボトル缶にもう一度お湯を注いでみましょう。蓋をしてよく振ると元の状態に戻ります。ボトル缶に充満した水蒸気が中から押し返して大気圧とつりあったのです。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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