水晶とは石英の中の美男・美女!?
ところで、水晶の正体は「石英」という名前の鉱物です。石英は、酸素とケイ素という2つの元素からできています。酸素とケイ素は、それぞれ地球の表層部で1番目、2番目に多い元素であるため、それが結びついている石英も、ごく当たり前に見つかります。例えば、石材としてよく見られる花こう岩(みかげ石)の中に必ず含まれています〈写真5, 6〉。
その石英の中でも、規則的な外形を示すものを水晶といいます(たとえば〈写真1~4〉)。石英自体はごくごく当たり前の鉱物ですが、形が整い、かつ大きな水晶は珍しいものです。いうなれば、町を歩くと大勢の人々に出会うものの、見とれてしまうような美男・美女と出会うことはめったにない、ということでしょうか。
それほど美しい水晶を見ると、思わずそこに神秘の力が宿っていると信じてしまう人々の気持もわからなくはありません。けれども、くれぐれも科学的には根拠のないことをお忘れなく。残念ながら、恋愛成就や金運アップなどの神秘パワーはありません。とはいえ、筆者は、小学生の時に見た水晶に魅せられて、そのまま大学で地学を専攻してしまった人間です。水晶の整った形や透明な美しさに、普通の石とは次元の違う、何か強く惹きつけられるものを子ども心に感じたわけです。これは水晶パワーのなせる業だったのか???
シリコンは水晶からつくられる!?
さて、それではまず「シリコン」と水晶(石英)との関係から解き明かしていきましょう。
皆さんは、シリコンという言葉を聞いて何を連想されますか?
「ハイテク」、「シリコンバレー」、あるいは「弾力があってブヨブヨしたもの」、「豊胸手術に使うもの」……、といったところでしょうか。
実は、前の2語と、後ろの2語とでは、その意味する「シリコン」が違ってきます。
まずは、前の2語から行きましょう。「ハイテク」、「シリコンバレー」のシリコンとは、英語で「silicon」とつづり、水晶(石英)を形づくる元素である「ケイ素」を意味します。他の元素と結びついていないシリコンは、水晶(石英)と違って黒っぽく、金属のようなつやがありますので、「金属シリコン」と呼ばれることがあります〈写真7〉。
しかし、シリコンは金属と違って電気を通しにくく、かといってまったく電気を通さないわけでもないという性質を持っています。このような物質を「半導体」と呼びます。シリコンは代表的な半導体です。現在のコンピューター産業は半導体を基板に用いた大規模集積回路なしでは成り立ちません。アメリカのシリコンバレーは、グーグル、ヤフー、アップル、インテルなど、世界をリードする半導体企業やコンピューター企業が集中している地域として国際的に知られています。
つまり、「シリコン」という言葉には、現代社会におけるコンピューターと、それを支えるシリコンの重要性を象徴するイメージがあるといえるでしょう。
このように重要なシリコンは、水晶(石英)から酸素を除くことによって工業的に生産されます(天然にも存在しますが非常に稀です)。シリコンの素は水晶(石英)なのです。
一方、「弾力があってブヨブヨ」していて「豊胸手術」等に用いられる「シリコン」(まずこちらを連想された方のほうが多いかも?)は、プラスチックの一種で、silicon、つまりケイ素を原料としてつくられています。
「シリコン」と呼ばれてはいますが、これは俗称です。正しくは、「シリコーン(silicone)」または「シリコン樹脂」と呼ぶほうがよいでしょう。半導体のシリコンとは別のものなのです。
乾燥材のシリカゲルも水晶が原料!?
お菓子や海苔の乾燥剤としておなじみの「シリカゲル」。あの無色透明で丸っこい粒々も、驚いたことに水晶(石英)と関係しているのです。
「シリカ(silica)」とは、酸素とケイ素(silicon)の化合物の英語名。つまりは水晶(石英)と同じものなのです。〈※注1〉
シリカゲルは、塊~砂状の水晶(石英)を原料にしてつくった水ガラスといわれる物質に酸を加え、沈殿・乾燥させて製造します。このようにして製造したシリカゲルは、成分はもとの水晶(石英)とほとんど同じですが、目には見えない小さな穴が無数に開いた構造になっています。その小さな穴に湿気を吸着することによって、乾燥剤の役割を果たすのです。
〈※注1〉 前段のsilicone(シリコン樹脂)は、「silica ketone(シリカ ケトン)」の略称です。前半の「silica」はこのシリカのことで、後半の「ketone」は、siliconeが属する化合物のグループ名です。
クォーツ(Quartz)時計の正確さは水晶のおかげ!?
クォーツ時計の心臓部には、1個の水晶から小さな音叉のような形に切り出した「水晶振動子」が組み込まれています。この水晶振動子は、電圧をかけることによって、1秒間に32,768回も規則的に振動します〈図1〉〈※注2〉。このように、規則的かつ高精度の振動をする性質を利用したクォーツ時計の誤差は1ヶ月に15~20秒程度です。
クォーツ時計登場以前の機械式時計の誤差が、(1ヶ月ではなく)1日に10~20秒程度だったことを思えば、クォーツ時計がいかに精密なものか、そして、今や日本で生産される腕時計の99%以上がクォーツ時計であるという事実を、容易に納得できるかと思います。
水晶振動子をはじめ、水晶を用いたさまざまな部品は、クォーツ時計だけではなく、パソコン、携帯電話などさまざまな機器に用いられています。ほかにもどんな製品に水晶が入っているか、調べてみると面白いですね。現代社会を支える電子機器類は、水晶なしでは全く機能しません。世間からの注目度は低いけれど、実に必要不可欠な存在なのです。
このような用途には、天然の水晶ではなく、人工的に合成した水晶〈写真8〉を利用します。人工水晶は、品質・供給ともに天然の水晶よりも安定しています。人工水晶は、天然の水晶(石英)を原料にして製造します。
〈※注2〉 電圧を加えると振動する性質を「逆圧電性」、逆に力を加えて変形させると電気が発生する性質を「圧電性」と呼びます。これらの性質は、水晶をはじめいろいろな物質に見られます。圧電性は、ジャック・キュリーとピエール・キュリーの兄弟によって1880年に発見されました。ピエールは、キュリー夫人の夫です。
今回のまとめ
水晶は、主要な造岩鉱物の石英として(中学校理科第二分野、高校地学)、代表的なケイ素化合物、あるいは代表的な共有結合性結晶として(高校化学)、教科書のところどころに顔を出します。また、人工水晶やシリコンは、情報教育になくてはならないパソコンや携帯電話に不可欠な存在です。
半面、天然の水晶から人工水晶、そしてその利用までといった、一貫した情報を得る機会は、あまりないのではないでしょうか。今回は、一見して無関係なものが、ある共通の何かによって実はつながっている、ということを水晶をキーワードにお伝えしました。ここでは、地学と化学の学習内容でしたが、古墳時代の水晶製の勾玉や管玉等の話に言及すれば、歴史にまで内容を広げることもできるでしょう。
そのような見方をして、異なる科目へ発展させることで、学習はよりおもしろくなることと思います。
文・図・写真撮影・標本所蔵 : 春名誠 イラスト:みうらし~まる
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