科学エッセイ:隕石の分類と太陽系のなりたち
科学エッセイ「科学夜話」では、理科の学習指導要領に掲載されているいろいろなモノや現象を入口に、少々掘り下げた内容や、思わず「へぇボタン」を押したくなるような知識をわかりやすく紹介します。授業の合間に、明日の授業に備える夜のひとときに、くつろぎながら読んでいただければ幸いです。ご案内は私、理学博士の春名誠。第3回のテーマは「隕石」です。
隕石は、宇宙空間に漂っていた固体物質が、地球の重力場に入り、落下してきたものです。隕石のほとんどは、火星と木星の間にある「小惑星帯」から来たものですが、火星や月を起源とするものもあります。隕石にはどのような種類があるのでしょうか? そして、隕石を研究すると、太陽系の何がわかるのでしょうか?
隕石の分類: 石か? 鉄か?
隕石には、主に珪酸塩〈※注1〉からなる「石質隕石(せきしついんせき)」、主に金属鉄(実際にはニッケルとの合金)からなる「鉄隕石(てついんせき、または隕鉄=いんてつ)」、および両者の中間的な「石鉄隕石(せきてついんせき)」があります。珪酸塩は、地球の普通の岩石、言い換えれば、私たちが見慣れた普通の石を形成している物質ですから、隕石の分類は、単純に「石が多いか、鉄が多いか?」ということになります。
石質隕石は、さらに「コンドライト」と「エコンドライト」とに分けられます。コンドライトは、「コンドリュール」と呼ばれる、直径が数ミリメートルに及ぶ独特な丸い粒を含むことで定義されます<写真1>。
一方のエコンドライトは、「エ(否定の意味)」「コンドライト」=「コンドライトでないもの」、つまりコンドリュールを含まない石質隕石です。月や火星起源の隕石は、エコンドライトに属します。
鉄隕石の切断面を観察すると、<写真2>に見られるような、格子状の「ウィドマンステッテン組織」と呼ばれる模様がよく見られます。この模様は、100万年に数℃という想像を絶する遅い速度で冷却したことによってできたと考えられています。
コンドリュールやウィドマンステッテン組織、石鉄隕石に見られるかんらん石と金属鉄の組合せは、いずれも隕石に特徴的なもので、地球の岩石には見られません。いかにも宇宙からやってきた石、という風情です。
<表1>に、隕石の分類表を示します。この表に示されているように、隕石の多くはコンドライトで、他のタイプは少なく、特に石鉄隕石は全体の2パーセント程度しか存在しません。
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〈※注1〉 シリコン(珪素)・酸素の2元素からなる基本ユニットと、他の元素が化合した化合物。地球上の岩石を形づくる鉱物の多くは珪酸塩です。例えば『科学夜話』第2回でご紹介した「かんらん石」は、代表的な珪酸塩鉱物で、シリコン・酸素のほかに、マグネシウムや鉄を含んでいます。
隕石はどのようにしてできたか、隕石から何がわかるか
なぜ、隕石にはこのような種類があるのでしょうか? まず、コンドライトについて見ていきましょう。
コンドライトは、化学的な性質の違いから、さらに細かくいろいろなタイプに分類できます。このうち、数パーセントに及ぶ有機物や水を含む「C1コンドライト」というタイプについては、興味深いことが知られています。太陽系を形づくった原材料であると考えられているのです。
<図1>は、C1コンドライトと太陽について、含まれる主要な元素の割合をそれぞれ横軸と縦軸に取って、グラフ化したものです。たくさん含まれる元素(酸素、シリコン、鉄など)と少ない元素(リチウム、ホウ素など)の量の間にあまりに大きな差があるため、横軸・縦軸とも対数目盛になっています。1目盛大きくなると含まれる量が10倍、2目盛大きくなると100倍・・・となっていくわけです。
また、グラフの左下から右上に伸びているのは、「C1コンドライトと太陽に含まれる元素の量が1:1、つまり同じ量」であることを示す直線です。この直線を境に、図の左上側に来る元素は太陽により多く、右下側に来る元素はC1コンドライトにより多いということになります。
さて、このグラフを見てみると、炭素、窒素、リチウム、ホウ素などを除き、ほとんどの元素が1:1の線近くに分布する、つまり、C1コンドライトと太陽を形づくる元素の割合はほとんど同じである、ということがわかります。これらのことから、C1コンドライトは、太陽と同じ起源であり、太陽を形づくった起源物質の残りがそのまま固まったものらしい、と考えられるわけです。なお、C1コンドライト以外のコンドライトは、固まる途中あるいは固まって後に、融けるほどではないものの、熱が加わって徐々に変化(熱変成)していったものと考えられています 。
それでは、コンドライト以外の隕石(エコンドライト、石鉄隕石、鉄隕石)はどのようにしてできたのでしょうか? 実は、これらの隕石は、コンドライトの母天体(もとになった天体。小さな惑星のようなイメージ)が、一度火の玉のように融けてからまた固まった母天体からやってきたと考えられています。その証拠の一つとして、<図2>に、コンドライト(上)とエコンドライト・石鉄隕石・鉄隕石(下)ができた年齢を示します。
上下の図とも、年齢を測定した隕石試料の個数を縦軸に、測定された年齢を横軸に取っています。図中の■1つが、年齢を調べた試料1つ分に相当します。さて、この図を見てみると、コンドライトはすべて同じような年齢(この図では今から45.0-47.5億年前)であることがわかります。一方、その他の隕石は、多くがコンドライトと同じような年齢を示しますが、ずっと新しい年齢を示す若いものもあります(この図で一番新しい年齢は、今から約25億年前です)。
このことが意味することは、今から約45.0-47.5億年前〈※注2〉に、コンドライトの母天体ができてから、その他の隕石の母天体ができるまでに、時間をかけて何かが起こった、ということです。そして、その「何か」は、コンドライトの母天体が衝突・合体を繰り返して大きくなり、一度融けて火の玉のようになり、その中で重い金属鉄が中心部に、軽い珪酸塩が表層部に集まり(このようなプロセスを「分化」と呼びます)、その後再び固まり、最後に破壊されて、エコンドライトや石鉄隕石、鉄隕石になった、ということだと考えられています。
このようなことが起こるまでの時間は様々で、コンドライトの母天体ができてから短時間(この図の横軸1目盛り=5000万年以下)ですむこともあれば、25億年前頃までかかる(あるいは25億年前頃に起こった)ことまであるわけです。
〈※注2〉 より正確には、約45.6億年前頃であると言われています。
以上、隕石の分類・研究からわかることに、その他の知見も加えて、太陽系の生成プロセスを述べると、以下のようになります(<図3>もご覧ください)。
(1) | 太陽ができてすぐ後、太陽系に残ったちり(塵)が、太陽の周りを回りながら集積し、たくさんの小さな天体(微惑星)ができた。これらの微惑星の内部は均質で、C1コンドライトの母天体になった。 |
(2) | 微惑星は互いに衝突・合体を繰り返して大きくなるとともに、衝突のエネルギーによって高温となり、熱変成を被った。 |
(3) | その中には、高温のために一度火の玉のように融け、重い金属鉄が内部に、軽い珪酸塩が表層部に集まった(分化した)ものもあった。 |
(4) | 母天体がさらなる衝突によって破壊された。このうち、(1)や(2)起源の破片が地球の重力に捕えられて落下するとコンドライトとなり、(3)起源の破片の場合、その他の隕石(エコンドライト、鉄隕石、石鉄隕石)となった。 |
いかがでしょうか? 隕石を分類し、それがどのようにしてできたか、ということを明らかにすることは、すなわち太陽系でどのようなことが起こったのか、を明らかにすることに他ならないのです。
それでは、最後にちょっとコワい空想話を・・・
もし、例えば他の惑星と衝突するなどして、地球が粉々になったとしましょう。そして、そのかけらがさらに他の惑星に落下したとしたら・・・ そして、そのかけらを知的生命体である誰かが拾ったとしたら・・・ その誰かは、地球の地殻やマントルだった部分を「エコンドライト」、核だった部分を「鉄隕石」、核とマントルの境界にあった部分を「石鉄隕石」と名づけるでしょう。
さらに知りたい方へのオススメ
「7億5千万年前ごろから、海面が少しずつ下がりはじめた」「その面積は、200万平方キロメートルにおよんだ」など、数値データを意識的に多く挙げてあるのも特徴です。全体として1つのストーリーとして書かれてはいますが、短い(2~5ページ程度)章から組み立てられているため、細切れ時間に1章ずつ読み進めることも可能でしょう。
多くの章の最後には「コラム」が付いていますが、これがまた「へぇ~」と言うようなおもしろいトピックや印象的なコピーで一杯です。
本書は、地質標本館(茨城県つくば市)のガイドブックという性格も持っているので、この本をご一読の上、地質標本館を訪れていただくと、地球に関する理解が進むと思います。地質標本館は、産業技術総合研究所の地質分野の広報窓口として、地球科学の普及、サイエンスコミュニケーションに努めている機関です。
地質標本館ウェブサイト: http://www.gsj.jp/Muse/
文章、写真撮影(3除く)、写真1, 2の標本所蔵=春名誠/図1~3:春名誠/イラスト:みうらし~まる
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