2005.05.03
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

【天文シリーズ】天の川銀河の「地図」作り

過去3回にわたり、私たちの住んでいる地球は10万光年という非常に大きい円盤状に分布した天の川銀河とよばれる星の集団にある事、星までの距離を測定するには三角測量の原理で測定する事、三角測量で測れない遠くの星に関しては、星の色と明るさから推測する例をとって、経験則を用いながら距離を見積もる事を述べました。ここでもう一度簡単に星の距離の測定について整理しておきたいと思います。

三角測量は太陽の周りを地球が回る事を利用して異なる2箇所から星を見る事で星の位置が微妙に変わる事を観測するので、直接的であり、非常に信頼性が高い方法です。しかしその反面、星は太陽の回りを地球が移動できる距離に比べてあまりにも遠いため、この方法で測定できる星までの距離はそれほど遠くありません。三角測量で測定困難な遠方の星に関しては三角測量以外の方法を用いて距離を見積もりますが、それらの方法は三角測量で求まった星たちを頼りに法則を見出し予測した距離なので、三角測量に比べて信頼性は低くなります。

◆「三角測量」でどこまで測れているの?

地球の軌道の直径の長さは、3億キロメートルと十分に長いのですが、それでも星までの距離は相当に遠いので、この方法で測ることの出来ている距離は、せいぜい数百光年程度です。一方、始めにお話したように天の川銀河のサイズは、10万光年程度あります。従って我々が直接的な方法である三角測量で精度よく測ることの出来ている星までの距離は、太陽系の近く数百光年というほんのわずかな範囲であり、天の川銀河全体の大きさと比べて数百分の1程度の距離です。私たちは、天の川銀河の、星までの距離をほとんど測ることが出来ていないといっても過言ではありません。遠い天体までの距離というのは「実際に測った距離」ではなく、経験則や物理的な考察のもとに見積もられた距離なのです。

銀河全体のサイズ10万光年に対して数百光年程度までしか測定できないのは、あまり大した事ではないと思われるかもしれませんが、この数百光年の距離を測定するためには1000分の1秒角、すなわち、0.0000003°という非常に小さな角度を測定せねばなりません(月や太陽の見かけの角度は0.5°)。これは今から10年程度前に初めて地上からの観測ではなく、ヒッパルコスとよばれる人工衛星にて観測し、得られた現在の最高精度であり、天文学の発展に大きく寄与しました。

◆これからの「三角測量」

非常に信頼性の高い三角測量で精度良く計られている星は数百光年、銀河全体のサイズの数百分の1程度までですが、現在、銀河全体の半分以上に及ぶ領域、距離でいえば、3万光年に及ぶ星を三角測量で測定し、天の川銀河の「地図」を作る計画がヨーロッパや日本をはじめ、世界中で進められています。日本での計画はジャスミン計画といいます。現在、進められている衛星計画で初めて、今まで「推論」していた星までの距離を直接的に天の川銀河全域に渡り「測る」事になります。しかも、数百光年から数万光年へと今までに測定できていた距離の100倍も遠くまで精度良く測定する事になります。

こういった測定をするためにはどのくらいの精度の観測が必要なのでしょうか。 角度で言いますと10万分の1秒角という小さな角度、すなわち、0.000000003°を見分ける必要があります。言いかえますと100km離れた場所から0.005mmの違いを区別する必要があります。例えて言えば、東京から富士山にいる人の髪の毛の太さの十分の1以下のずれを区別する事になります。これは非常に高精度の観測が必要になります。 このような非常にチャレンジングな観測ができるよう衛星を作って観測する衛星計画がおよそ10年後をめざして進められています。

◆最後に

今私たちは技術革新により、直接的に三角測量で測定できる距離を何桁ものばし、天の川銀河の星々を直接三角測量で測定しようと努力をしており、近い将来、このような高精度測定が実現しようとしています。
この計画が成功し、10万分の1秒角という高精度で星の位置を測定できれば、3万光年先ぐらいまでは、非常に正確に距離を測定することが可能で、天の川銀河の大部分を測定できます。そうすることで、天の川銀河の全貌が明らかになり、今まで不十分だった理解が深まるでしょうし、今までに知られていなかった発見があるかもしれません。いずれにしても、このような計画が成功を収めれば、私たちの太陽系が存在する天の川銀河に対する新たな見地が開かれることになります。

執筆:矢野太平

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

pagetop