2003.07.15
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「訓練」~成功すれば安心と考えていませんか?

今回は訓練についてお話します。訓練はすべての学校でなにかしら行っていることでしょう。地震が発生したときに備えて避難訓練、火災が発生したときに備えて初期消火訓練、侵入者が発生したときに備えて防犯訓練などなど、ほぼ全ての学校が何らかの訓練を行っているはずです。さて、その訓練の効果はいかがでしょうか。

訓練のシナリオ通りに進まない現実

多くの学校で行っているのが成功を経験するための訓練でしょう。火災や、地震、最近では不法侵入が発生したという事前に知らされたシナリオにそって被訓練者が動いて体験し全員無事に終わりましたというものです。この訓練の良さは多くの被訓練者が、実際に発生した場合に動きを事前に身につけて成功体験することによりパニックを起こしにくくなる点です。生徒に行う訓練としては一般的なものであり、大変効果があるものと思われます。しかしながら先生をはじめとする教職員、PTAの方々が行う訓練としてはどうなのでしょうか。

 危機管理のマニュアルについてのコラムで危機はマニュアル通りに発生しないとお話しました。同じことが訓練シナリオにも言えます。実際に体感型の訓練と同じようなシナリオが発生することはほぼ無いと言えます。火災が非常口付近で発生して非常口が使えなくなるかもしれませんし、地震が発生した場合は訓練で使っている非常階段が壊れてしまうかもしれません。また、不法侵入も最初に発見するのは生徒かも知れません(きっと多くの学校の不法侵入対応訓練はまず、先生が侵入者を発見しているはずです。)

大事なのは「想像力」と「決断力」

危機管理を行うものたちに対する訓練で重点的に訓練することは二つあります。一つは想像力、そしてもう一つが決断する思考です。上で話したように事前にどんなに危機を想定していてもその通りに発生しないのが危機なので、発生したときにその後どうなるのかを先読みできる想像力が重要になります。また、危機が展開されたときその時々でどうするのかを決断しなければならない場面が多く発生します。その時どうやって決断するのかは事前に訓練をしておかねば難しいでしょう。ですので、成功シナリオを事前に知らされる成功体験型の訓練は先生が行う訓練としてはあまり効果がないと思われます。

 では、どのような訓練を行うといいのでしょうか。それは失敗を経験するための訓練です。実際に起こりえるシナリオが想定され、それを事前に知らされること無く訓練が開始され、パニックや混乱を体験する成功体験型の訓練の対極にあるものです。なぜ、このような訓練が効果的なのでしょうか。それは、失敗が発生することにより組織の欠点や対応の仕組みの欠点がわかり改善が図れるのと、パニックや混乱の中で対応策を考え、決断する実際の危機管理の現場を経験できるからです。

 PTAの方々を含めた訓練も同じことが言えます。現在の緊急連絡網はいざという時、本当に使えますか。生徒を受け取りにくる時はどのようにして受け渡しを行いますか。これらを訓練で実証しておく必要があるでしょう。ですが、実際に行うには実働訓練は難しいと思います。その点、机上訓練は想像力と決断を訓練するには適していますので一度試されてみてはいかがでしょうか。

訓練で失敗を経験しておこう

失敗することが恥ずかしい、見栄えが悪いと思われるかたもおられるでしょう。事実、日本では失敗を経験する訓練はあまり行われません。しかし、訓練で失敗しても仮想の被害者は出てしまいますが、実際の被害者は出ません。訓練で失敗しておけば、実際に起きた時に同じ失敗はしないですむはずです。

 少し話が逸れますが、最近、訓練中に盗難に遭うケースがあるそうです。防犯訓練中に盗難ではしゃれになりません。くれぐれもお気をつけください。

 最後に、「学校の危機管理」というテーマで半年もコラムを続けてきましたが多くの方に支えられなんとかここまでやってきました。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

(イラスト:たかまひびき)

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