2003.04.20
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マニュアルは役に立たない?

学校で作成した「危機管理マニュアル」これって本当に必要なものなのでしょうか?実際に危機が発生した時、役に立つの?そんな疑問に危機管理の専門家がお答えします。

今回からは危機管理の実務的なお話をいたします。今回は「マニュアル」についてです。大阪の小学校での事件以降、多くの学校で危機管理マニュアルを作ったことでしょう。マニュアルそのものを作るのはそんなに難しい話ではありません。最近は多くの危機管理の書籍があり、その中には危機管理マニュアルのプロトタイプなどがありますし、それ以外の資料も数多くありますので、一日もあれば立派な危機管理マニュアルが出来てしまいます。しかし、それら資料を切り貼りした危機管理マニュアルは本当に役に立つのでしょうか?学校ごとによって周辺環境や学校の施設の状況、文化が違います。これらを考慮したその学校独自の危機管理マニュアルを作らなければ意味が無いのです。

 また、危機管理マニュアルを「危機発生時に活用するマニュアル」として作っても役に立ちません。その理由は二点考えることができます。

1.危機発生時にマニュアルを読む時間はない
2.危機はマニュアルどおりに発生しない

 危機発生時は大抵の場合、混乱しますし、大変早い状況の変化が起こります。そのような状況の中でマニュアルを読む時間はありません。また、マニュアルに記載されている危機対応は標準のものであり、その通りに危機が発生することもまれですので、実際の危機発生時に役立つマニュアルはないと言えるでしょう。では、「危機管理マニュアル」は役に立たないのでしょうか?---実は「危機管理マニュアル」は危機発生時に役立てるものではなくて、平時に役立てるものなのです。

危機発生時にはマニュアルを読んでいる時間はありません。ですので、事前にマニュアルを読み、危機対応の基本的な方針や動きを理解しておく必要があります。また、危機管理マニュアルに載せている危機と同様の事態が発生することはまずありえませんので、違う事態が発生しても対応できるよう、応用力を養う必要があります。これらの目的のために危機管理マニュアルを作ることに意義があるといえるでしょう。

危機発生時に役立つものとして何かを作りたい場合は、マニュアルではなくチェックリストを作成することをお勧めします。危機が発生した時に最低限取らなければならない行動や、連絡先などを箇条書きにしたものを用意しておいて、実際に危機が発生した時にはその箇条書きにしたものをチェックしながら作業をしていくと混乱して、思考能力が低下している状態であっても抜けなく危機対応ができるというわけです。例えば、不法侵入対応チェックリストであれば、

・警察に連絡したか
・子ども達の安否を把握しているか
・救急車を呼んだか

などの行動や、警察や近くの病院の連絡先を整理して作成すればよいでしょう。このように危機発生時にとるべき行動を箇条書きにしておけば、たとえ混乱していてもチェックリストを読めば、誰もが行動することが可能となります。

 最後に学校の危機管理マニュアルを保護者に公表すべきかどうかについてです。私が見る限りでは、多くの学校が危機管理マニュアルの存在を保護者に公表していないようです。これは危機管理の目的を考えると間違っていると言えるでしょう。学校における危機管理の目的は確かに、児童・生徒を守ることが第一ですが、保護者を安心させることも学校危機管理の重要な部分なのです。危機管理のマニュアルの存在を知らせても、何の損にもならないはずです。保護者を安心させるためにも危機管理マニュアルの存在は公表すべきでしょう。出来ることならその中身についても要約して、公表するところまで出来れば、より完璧と言えるでしょう。

(イラスト:たかまひびき)

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