2003.03.18
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危機管理で何を守ろうとしているのか?

あなたが考える学校の危機管理において「守るべきもの」は何ですか?危機管理の専門家が語る危機管理を上手に行うための考え方とは?

すこし古い話になるが、「危機管理」と言う言葉が新聞紙面を多く飾った事件に「雪印事件」がある。「雪印事件」は皆様もご存知のとおり、2000年7月、大阪を中心に雪印乳業の製品を飲食した多くの消費者が食中毒になった事件である。事件は数件の食中毒事件から始まり、当時の雪印社長の「私も寝ていないんだ」発言など一連の対応のまずさによって、企業としての社会的地位を失うことになる。なぜ、雪印は対応を誤ったのであろうか。
 
 それは企業の危機管理を行ううえで「守るもの」を見誤ったからである。当時の雪印経営陣たちは「利益」や「面子」を守ろうとしたのではないだろうか。彼らは、そのため「危機管理」において大切な危機対応初期の段階で情報を開示せず「大事にさせないで済ませてしまう」など積極的な対応をしなかったため多くの二次被害者、三次被害者を出すことになった。

 企業における危機管理で守るべきものは「利益」でも「面子」でもないのである。「企業の守るべきもの」それは自社製品を買ってくれる「消費者」であるべきだと私は考えている。

 さて、ここまで読まれれば前回の問題の答えはお分かりいただけるであろう。前回のコラムで最後に出したのは以下の問題であった。

「生徒を守ることは学校の危機管理になるが、学校の危機管理は生徒を守ることにはならない場合がある。それはどんな状況で何故であろうか。」

これを先ほどの雪印事件に例えると、
「消費者を守ることは企業の危機管理になるが、企業の危機管理は消費者を守ることにはならない場合がある。それはどんな状況で何故であろうか」になる。

 危機管理を語る上で必ず出てくるのが「タイレノール事件」という事例がある。米国において治療薬「タイレノール」に毒物が混入され、消費者に死者が出るという事態がおきた。そのとき本製品を製造していた米国の製薬会社ジョンソンアンドジョンソンは事件が拡大することによって消費者の安全が損なわれると考え、自社の損失を省みることなく市場から全製品の撤収を行った。その積極的な行動が消費者の信頼を勝ち得ることになり、一時的には大きな損失が出たものの、その後、業績は回復することになる。この事件はいまでも危機管理の書籍やセミナーで必ずといって良いほど見習うべき事例として挙げられている。

最近はさまざまな場所でセミナーを開かせていただいているが、質問のときに良く聞かれるのが「どうしたら危機管理がうまく出来るのか」である。その答えには必ず「何を守るのかをよく考えること」と答えるようにしている。雪印やリコール隠しを行った三菱自動車、牛肉偽装事件の日本ハムにおいて守るものは「利益」や「立場」だったに違いない。しかし、「利益」や「立場」を守ろうとしたためにこれらの企業は本当に守るべきものを失い企業としての存続が難しくなった。

 学校においても危機管理が重要と考えられ始めている。その危機管理は果たして何を守ろうとしているだろうか。学校の「利益」や先生の「面子」、「立場」になっていないだろうか。学校関係者の方々には自分自身に問いかけていただきたい。また、保護者は学校や先生が危機管理で守るものをなににしているのかをきちんと見定める必要がある。

 私は学校の危機管理において守るものは「児童・生徒」であると考えている。もし、それ以外のもので最優先に守るものがあればお教えいただければと思う。

 次回からは「学校の安全対策」についてお話しする。

(イラスト:たかまひびき)

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