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教育インタビュー

2008.05.27
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青山由紀 ~学ぶ楽しさを感じる授業のために(2) 筑波大附属小 青山教諭が語る、学力・授業・教師

筑波大学附属小学校教諭へのインタビュー第二弾は、青山由紀教諭(国語科)。先月の山本良和教諭(算数科)に引き続き、これからの子どもたちに必要な学力とは何か、そのために学校はどのような授業を目指すべきか、国語科の視点から語っていただきました。

思考を楽しむ活動を通じて、国語の力を育てる

友達と学び合うよさを生かした活動を通じて、国語科に求められる思考力を育てたいとする青山教諭。
授業のあり方やICTの活用ポイント、基礎基本の定着に役立つ家庭学習まで、子どもの力を伸ばすさまざまなアイデアを提案していただきます。

「正解」よりも考える過程を重視して

学びの場.com子どもの読解力の低下が指摘されていますが、先生はこの問題をどうお考えになっていますか?

青山由紀読解力低下が指摘されるきっかけになったのは2003年のPISA調査の結果です。15歳児を対象にした調査結果を小学校に当てはめることには大きな問題があるのですが、全般的な傾向として二つの問題点が言えると思います。

青山由紀一つめは、「AとBから自分の意見に近いものを選び、その理由を挙げる」といった設問の無回答率が高いことです。さまざまな要因があるでしょうが、学校では一つの正解を見つけるような授業が主体で、みんなで意見を出し合って練り上げていく活動や、寄り道を楽しみながら物事を考えるような経験が不足しているためかもしれません。  二つめの問題は、上位と下位の格差が広がり、読み書きの基礎基本が身についていない子どもが増えている点です。この背景には、授業時数の削減で、基礎基本を定着させるための活動時間が確保できなくなっているという現状があるように思います。  国語科で培う学力は、生きていくために必要な言葉の力(=読み書き)と思考力に大別されます。上の問題は、一つめは思考力、二つめは読み書きの力に関わるものと捉えることができるでしょう。

学びの場.comそうした課題も踏まえて、これからの国語の授業にはどんなことが求められるのでしょうか。

青山由紀集団で学ぶよさを生かして、思考力を育てるような活動がもっと必要だと思います。集団のなかでの自分の立場を意識しながら思考する訓練を、授業のなかに取り入れていくことが重要です。  たとえば低学年なら、「『おおきなかぶ』の主人公は、おじいさん? かぶ?」といった課題で、どちらかを選んで○をつけてみる。自分と他者の意見の相違が思考のスタートになるので、最初に自分の立場を明確にしておくと、「私はおじいさんだと思う」という友達の意見に対して、「あの子と私は同じ考えだな」といった聞き分けがしやすくなります。  学年に応じて、理由も説明する、教科書の本文や挿絵から客観的な根拠を示して説得するという言葉のやりとりへと発展させていきます。こうした思考訓練で、友達の意見を聞いて自分の考えが揺れたり変わったりする、寄り道をしながらいろんなことを発見し、考える過程を楽しむ経験を積むことは、言葉を身につけるだけでなく、知的好奇心を高めるうえでも重要だと思います。

「学習のつながりを意識した授業づくりを

学びの場.com授業づくりではどんなことがポイントになりますか。指導の工夫として、ICTなども活用されているのですか?

青山由紀もっとも重要なのは適切な課題設定です。何の手がかりもない場所で子どもは思考できませんから、これまでの学習や体験を活用できるようなしかけが必要です。「あのときに勉強したあの読み方が、今回も使えるかもしれない」という気づきから考えを深めていけるような課題ですね。  たとえば4年生で説明文を扱うときに、2、3年生の説明文で子どもが何を学んだのか振り返ったり、高学年ではどんな教材に取り組むのか見てみることも大事です。教材単体ではなく、学習のつながりを俯瞰することによって、いま子どもに考えさせるべき課題が見えてくると思います。次の学習指導要領では、「習得・活用・探求」がキーワードになっているので、何を習得させどう活用させるかという「習得-活用」のつながりを意識した単元構想が、これまで以上に求められるはずです。  ICTの活用では、話題の共有や思考の視覚化といった点を意識しています。子どもが教科書から根拠を示して発表するとき、各自が手元の教科書を見るより、本文や挿絵を提示して全員で見たほうが話題を共有しやすいですし、子どもたちの思考を集約し視覚的に整理するといった操作も、模造紙などよりはるかに手軽にできます。  デジタル教科書のような教材があれば、「前の年の教科書にこんなことが書いてあったから」と子どもが発表したとき、該当の教材を提示して説明を手助けしてあげるといった使い方も可能です。そのときの子どもの思考に合わせて授業をデザインできることもICTのメリットだと思います。

「家庭でできる読み書きのトレーニング

学びの場.com冒頭で、基礎基本のための活動時間が確保しにくくなっているというお話がありましたが、こういった点は家庭でも補えるものでしょうか。

青山由紀読み書きの基礎基本は繰り返し訓練して身につけるもので絶対量が必要ですから、学習のさせ方を工夫すれば、家庭での取り組みにも大きな効果があると思います。  一番手軽なのは音読です。題名の横に「○」や「正」の字を書いて読んだ回数をカウントします。保護者が聞いてあげるときは読み間違いや読み飛ばしをした箇所に鉛筆で線を引いて、あとで教えてあげる。次は線の引いてあるところに注意して音読し、正しく読めたら線を消していくと、上達が目に見えるので自信がつきます。低学年なら物語の登場人物を親子で役割分担して、一緒に読んであげるのもいいですね。 また、視写も家庭学習に適しています。筆速を鍛えられますし、語彙や漢字の定着、段落の意識をつけるといった効果もあるので、家庭で毎日10分くらい取り組むと力がつくでしょう。 ただ、子どもに無理強いをしても身につかないので、学習方法には配慮が必要です。同じ漢字を何十回も書くようなドリル学習ではなく、熟語をつくって俳句にするとか、漢字のビンゴゲームをするといった楽しく学べる工夫をすること。私は、こうした家庭学習のアイデアをまとめて保護者にアナウンスしていますが、学校と家庭が連携して子どもの力を育てるためには、こうした学校からの情報提供も重要だと思います。

青山 由紀(あおやま ゆき)

筑波大学附属小学校教諭
東京都生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。東京都の私立聖心女子学院初等科教諭を経て、現職。全国国語授業研究会常任理事。使える授業ベーシック研究会常任理事。著書に「話すことが好きになる子どもを育てる」(東洋館出版社)、「調べ学習を深める言葉の研究レポートの書き方」(学事出版)、「子どもを国語好きにする授業アイディア」(学事出版)など。

写真:言美歩/インタビュー・文:栗林俊晴

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