2004.10.05
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ケータイと教育の未来 東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学寄付講座第2回beatセミナー

ケータイと教育の未来

塾帰りの小学生が携帯電話を使う姿も珍しいものではなくなった昨今。さらに第3世代・高機能化により、携帯(ケータイ)は単なる電話から新しいメディアへと進化しはじめた。そこで、その近未来像と教育における新しい利用形態をテーマに、東京大学・山上会館にて開催された東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学寄付講座 第2回beatセミナー「ケータイと教育の未来」の模様を紹介したい。

 
 


モバイルメディアの有効性に前向きな質問が

■これからのモバイルメディアの教育利用

 今回、ゲストスピーカーとして招聘されたのは3名。まず、NTTドコモモバイル社会研究所 副所長の山川隆氏による「ケータイとコミュニケーションの近未来」と題した講演では、今後のケータイのあり方とモバイル社会のビジョン、モバイル社会におけるケータイの学習利用の位置づけについてが語られ、次に、イギリス、アメリカ、台湾など世界の教育現場におけるモバイルメディアの教育利用に明るい徳島大学工学部の緒方広明助教授が、ケータイをはじめとするモバイルメディアの教育利用の世界的動向を紹介。「ハンドコンピューター(PDA)を用いた海外での授業研究の結果、『受講生がアクティブになった』と90%の教師が有効性を認めた」と発表すると、会場から前向きな質問が数多く飛んだ。







 

 


 その流れを受け、最後に演壇に立ったのが、公立小学校の現場でケータイを利用した授業を実践・研究している千葉県柏市立旭東小学校教諭の佐和伸明氏である。氏が勤務する旭東小学校は、金沢大学教育学部の中川一史先生を主査に2003年から全国で行われている『携帯電話の教育活用プロジェクト』の参加校になっており、昨年は担任する6年生を、今年は4年生を対象に、佐和氏はケータイを利用した授業を進めているという。プロジェクト参加の目標に掲げられているのが、『ITを人と人とを結ぶ交流学習の道具にする』『ITを授業に有効利用する』こと。ITを通して児童たちの授業への関心・意欲を拡充、知識・理解を補充するツールとして有効利用し、ひいては遠距離の交流校や人々とITによって交流することで<関わり合う力>や<表現する力>をもたらしたいとの意図がある。参加校に与えられているケータイは、NTTドコモのFOMA2台。TV電話機能のついたこの最新アイテムを主軸に、佐和氏の授業プランは練られていった。

■リアルタイムのアドバイスが児童たちの刺激に

 そして昨年、6年生を対象に行ったのが、修学旅行先でもある日光のガイドブックを制作するという国語の授業。
「児童ひとりの担当ページは1~2pになるのですが、まずどんなガイドブックにするか考えることからスタートしました。そして内容と構成がまとまったところで、ケータイを利用してガイドブックに必要な情報を収集、取材活動を行っていったのです」

 

 









柏市立旭東小学校教諭の
佐和伸明氏


 しかし、単なる情報収集だけならばインターネットでも十分。そこでテーマパークや美術館といったスポット紹介のみならず、そこでいま「売れ筋の商品」「人気のもの」といった旬の情報をガイドブックにおりこませた。HPには出ていないこれら生の情報は、直接取材して入手するしかない。そこでFOMAの登場である。

「調べてみて、曖昧なことや、考えてもわからないことがあったら、その都度、ケータイを使って取材活動を行いました。通常、学校の電話というのは玄関や職員室といった場所に設置してあり、児童たちは特別なことがない限り使用しないものです。ですが、ケータイの場合、教室にいながらその場ですぐに問い合わせることができるため、子どもたちの疑問をそのままにせず、主体的に解決させるためのアクティブなツールとして有効だと感じました」と佐和氏。

 子どもたちの取材活動が終了し、ガイドブックもレイアウトの段階を迎えると、今度は出版社に勤務する現役編集者をゲストティーチャーとして教室に招いた。

「ゲストティーチャーの授業は、児童たちにとって大きな経験になるものですが、来校していただく場合、拘束時間や交通費がネックになってしまうことが少なくありません。そこで、今回も最初に一度だけ来校してレクチャーいただき、その後はケータイのTV電話機能を使って度々アドバイスをもらいました」

 TV電話なら、ガイドブックの誌面を見せることもできる上、ゲストティーチャーも自宅や会社に居たまま指導が可能。先方のスケジュールをあらかじめ確認した上で電話をかけることで、来校する手間もはぶけゲストの負担軽減にもつながる。同時にリアルタイムのアドバイスは児童たちの刺激になるようで、ゲストティーチャーが『よくできたわよ』とOKを出しても、『まだ納得できません』と児童側が粘り強いこだわりを見せる場面もあったという。

 そうしてやっと完成したガイドブックだが、彼らの授業は終わらない。ガイドブックを遠く離れた交流校と送り合い、TV電話機能を通じてお互いの作品についての感想会を開くのだ。

「事前に送られてきた相手校のガイドブックを手元に、質問したり話し合いたい友だちを相手にそれぞれTV電話で交流しました。『あのページの絵は誰が書いたんですか?』『ボクです』『上手ですねぇ』というようなやりとりでしたが(笑)。ガイドブックは日光へ行ったことのない交流校の友だちを意識して作りました。自分たちの送ったガイドブックを喜んで見てくれている友だちの顔をTV電話で見て、子どもたちは達成感を味わったようです。」

■人と繋がるためにケータイを使う

 企業でもポピュラーになりつつあるパソコンのTV会議のようなものだが、ケータイの場合、複雑な設定も要らず、子どもたちだけでも利用でき、電話回線のない教室や野外などでも場所を選ばず通信できる。それは、交流の機会と幅を増やすことに繋がる。

 そんな6年生の経験をもとに、佐和氏が指導する4年生の授業では、『人と繋がるためにケータイを使う』をテーマに、交流校と植物の種を交換してその成長をTV電話で報告し合ったり、陸上大会・音楽観賞会といった校外活動の様子を校内へリアルタイム中継するなど、外と学校(教室)を繋ぐツールとしてケータイを積極的に活用している。また、その映像やデータを使って「学級日誌」のサイトを立ち上げ、子どもたちが公開する学校や校外学習の様子に、保護者たちが携帯メールで感想を伝えるという新しいコミュニケーションにも発展しているという。

■ケータイは現代のパンドラの箱

 授業ツールとして非常に有効な結果を得たケータイだが、これには当然、デメリットもある。高額な通信費用の問題、子どもたちの使用マナーの問題、悪徳商法やいたずらの問題などそれら、ケータイの抱える問題点にどのように向き合い、指導していくのか? そこで佐和氏が行ったのが、『便利なの? 危ないの? 携帯電話について考えよう』という発表会だ。

 まず、通話のメリット・デメリット、メールのメリット・デメリット、その他(TV電話、カメラ、インターネット機能など)のメリット・デメリットの6グループに分かれて調査し、そこで調べたことを、劇、紙芝居など表現にも工夫をしたプレゼンテーション形式にまとめ、ディベート形式で発表していく。各々が携帯電話のメリット・デメリットについて知った上で、保護者、新聞記者、電話会社の人、大学生などさまざまな人の意見も参考にしながら、今後どのようにケータイとの関わっていったらいいのか児童と一緒に考えていったという。

「実践の現場で感じたのは、ケータイは学びを深めるためのツールとして有効だということ。TV電話も操作が簡単ですし、ムービーメールなどコンパクトな動画機能も校外学習などで非常に役に立ちました。またケータイの使用によって、実際には会う機会の少ない交流校や、保護者とのやりとりなど、人との結び付きを強めるというメリットもたしかなものだと思います。ですが、教育現場に普及するには、保護者や関係機関の理解など、まだまだクリアしなければならない問題が多くあります。情報モラルの育成を含め、教師がどれだけコーディネートできるのか、今後も学習効果を高める利用事例をふやしていかなければならない」と締めくくった。

 ケータイは現代のパンドラの箱だ。便利な一方、何が飛び出してくるか、何を生み出してしまうかわからない怖さも持つ。教育現場でのケータイ利用には、いましばらく研究の時間が必要なのかもしれない。しかし、これまで個人VS個人のコミュニケーション・ツールだったケータイが、学校現場に入ることでコミュニティVSコミュニティのツールへと広がったのも事実。この一歩は確実に<未来の教室>へと向かっている。

(取材・執筆/寺田 薫)


東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座
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