現代を生きる力「メディアリテラシー」 東京都立江東商業高等学校 近藤聡先生
言語技術を核にしてコミュニケーション学習に取り組んできた東京都立江東商業高等学校の近藤聡先生は、その重要な要素のひとつとして「メディアリテラシー」をとらえている。今回は9月30日(日)に一般社会人を生徒役にしておこなわれた、メディアリテラシーを高める模擬授業の様子を中心にレポートしよう
■ 1.はじめに-メディアリテラシーとは何か?
リテラシーとは読み書き能力のことである。では、メディアリテラシーとは何か? 一般的には、テレビや新聞などのメディアからの情報をクリティカルに読みとり、またメディアを使って表現する能力をさす。情報吟味能力、情報読み書き能力、または情報活用能力などと訳されることもある。 | ||||||
■ 2.授業の目的とプラン、スキット1の教材
近藤先生が、この授業で身につけて欲しいと考えたのは、「メディアからの情報を、メディアの伝え方に左右されずに、自己の評価基準で位置づけられる能力」。
(実際の放映の順序は、E→F→D→B→A→C。) | ||||||
■ 3.9月30日の模擬授業のスキット1の様子
教材のテレビニュースを見せることからこの授業は始まった。
(2)他者のものさしを知る……他者の判断と比較する(その1)。 隣り合う2人1組で考えた順序を説明し合った後、壇上で3人が意見を発表。
実際の授業での生徒の意見はこうだ。 【E→B→C→A→F→D】 「まずEは、この中では最も生命に関わっている問題で、関心度もすごく高いと思う。また、現在の日本の世の中の危険な面を表していると思うので、一番最初にもってきました。 次に『BとC』ですが、ともに日本の国民の大半に関わるので、Eに次いで重要だと考えました。二つとも長い年月をかけての難しい問題です。BとCは合わせて考えると、国の借金が大きくて、だけど払わなければならない私たち若い人が減ってるというので、重要度が増します。だいぶ前から話題になってなんとなくは知っていても、改めて一人520万円とわかり、しかも『少子化』で返す負担が増えると、ことの重大さを感じるのです。だから、『B→C』の順序にしました。 次に、『D』は、特に社会への影響も、関心も低いし、知る必要は必ずしもってわけではないので、一番最後。 『AとF』の順番を考えてみるとAは多大な費用をつぎ込んでまでやっているのに、あまりにも知られていない。将来の発展に関わるので知ってもらうべき。逆に関心は並々にある『F』だけど、特定の個人のことなので、どちらかといえばAを上にすべきだと思い、これにより、E→B→C→A→F→Dとなりました」。 近藤先生は、この生徒は明確に順序を理由づけていると評価した。理由づけの観点は、多くの人に影響するか、社会の風潮との関連はどうか、長期の影響はあるか、世の中の関心度や必要性、政府のプロジェクトのコストと効果、など客観的な要素をもっている。そういう観点をもとに、自分なりの見方ができている。特に「BとCを長い年月をかけての難しい問題として、合わせて考える」というのは独自性が強くて面白いし、テレビ局の編集責任者以上の考えともいえる。他の生徒からも、特に社会正義を重視したり、自分個人の関心度を分析したりした、特徴のある意見も多く出された。 (3)番組の実際の放映と比較する……他者の判断と比較する(その2) 一通りの発表がすんだ後、先生が実際の放映の順序を伝えた。テレビニュースは、テレビ局が重要と判断した項目から順に並べられる。ニュースの重要性について、局の判断と自己の判断を比較して、考えてみようというのだ。
先生は、テレビ局は各項目をこうしたものさしで評価していたのではないかと説明した。
(4)他者と、ものさしを戦わせる……他者の判断と比較する(その3) ここで先生から議論のポイントが示された。 他者との差異を鮮明にする学習をして、自己の判断を一段と明確にしようというのだ。
参加者からは次のような意見があがった。独自性の強い意見がたいへんに多かった。 □「私が、ニュースで重要視するのは、気象情報。何を着て出かけるか、というところまでかかわりがある。日常では、政治や経済よりも、身近な影響がある。広く、人々の行動を規制したり、人命や流通にも影響する。特に年末・年始は行動を規定する」。 □「これから5年10年20年たってどうなるか長期の影響を考えた。自分たちが大人になっても問題なのはBとCだ。Fなど、他は、今だけで、忘れられてしまうのではないか」。 □「紛争や飢餓で、何万という人が世界中で亡くなっている。ところが、日本では、Eのような、身近な殺人事件の方を重大視する。確かに深刻な事件でも、いつもそれでは、世界や社会を見るバランスを欠いている」。 □「インパクは、関心をもつべきなのに関心が低いので重要視すべきだ。自分は、開催を非難する立場。膨大な税金を使いながら、こんなことをやっても、ITは普及しないのに、無駄遣い。重要視して、問題を共有する必要がある」。 近藤先生は、独自な意見が多かったことから、学習の目的がかなり達成できたと考えている。スキット1では、社会事象を位置づける学習が、【他者の判断と比較する─自己の判断を言語化する】という繰り返しで進んでいく。繰り返し考え、最後に他者と自己の差異をより明確にしたために、自分なりの見方がはっきりした言葉になったのだという。 | ||||||
■ 今後に向けて
近藤先生は、この授業のプランは、ほぼ完成に近づいたと考えている。メディアが伝える社会事象に対する判断力をつけることはできるようになった。今後は、様々な社会事象を教材にして、事例を増やしていくという。 |
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