2006.03.07
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新たな危険から子どもを守る「市民ネット」フォーラム インターネットが現実社会を変えた

子どもたちが巻き込まれる悲惨な事件が後を絶たない。これでもかというほどの頻繁さ、近所で、塾で、学校で、そして家庭でといった中で起こる犯罪の異常さに唖然とするばかりだ。今まさに、子どもを取り巻くすべての環境を真剣に見直し、改善していかなければならない時代となってしまった。そんな気持ちを持った様々な立場の大人たちが集まり、2月11日、「新たな危険から子どもを守る『市民ネット』フォーラム」が、板橋区のハイプラザいたばしにて開催された。

今回のフォーラムは、「NPO法人電子メディアと知識の箱デジコム(以下デジコム)」の主催で、板橋区、板橋区教育委員会、ネット社会と子どもたち協議会、おやじ日本、NPO法人東京いのちのポータルサイト、板橋区「いたばしボランティア基金」補助金交付事業の後援によって開催された。デジコムは、子育て支援事業&教育事業『親子のコミュニケーションプロジェクト』、ネット社会の危険から子どもを守る事業『市民ネットプロジェクト』の2つの事業を柱に活動を行っている(http://www.npo-digi.com/ blank)。またネット社会と子どもたち協議会の運営にも参加している(http://www.npo-digi.com/shimin-net/shimin-f.html blank)。
 学びの場「取材レポート」では、昨年11月25日、東京都庁において行なわれた協議会主宰「ネット社会の危険な落とし穴から、子どもたちを守ろう!」フォーラム2005の様子についてもお伝えしているので、ご参考いただきたい。

 デジコムの理事長 新井千晶氏が、「ネット社会の危険と、市民の手で作る安全対策プログラム」と題して挨拶を行なった後、様々な立場からの講演が行なわれた。順にご紹介する。

●警察庁生活安全局長/おやじ日本の会長 竹花 豊氏

竹花 豊氏

竹花氏は、興味深い事例を挙げながら「子どもを救うのは大人の責任」と訴えた。東京都で提唱していることの一例として、「職場体験や自然体験などを通して子どもたちが大人の社会に現実に触れていくこと」を取り上げた。そして「こうしたリアルでの体験をさせながら、ネット問題への解決策を同時に進めていくことが大切である」と述べた。
 これまでの背景として、表現の自由に対する規制の問題や情報発信の場を提供するプロバイダとの契約事情に介入することが難しいとされてきた。自殺志願者が集う「自殺サイト」などのケースが頻発し、昨年ようやく、プロバイダと警察との連携が開始されたという。竹花氏によれば、昨年10月から開始された取り組みによって、自殺サイトで見つかって助けられた命が11人に上っているという。「犯人にたどり着くことが難しい上に、莫大な数があり拭いきれないのが現状。 自殺サイトの例にしても、たったこれくらいと言われるかも知れないが、少しでもいい結果に結びつくための経験となったことで、違法有害情報を世の中から減らすためにホットラインを作ろうという動きも進んでいる」と竹花氏。
 ネットの問題としてもう一つ挙げたのは、人の心理におよぼす影響について。「ブログなどで過激なことを書き連ねていくうちに、また、挑発的なサイトを見たりする中で、現実の意識を変えてしまう怖さがある」と懸念し、子どもを性的対象にしたサイトの危険性についても加えた。「有害な情報の氾濫は、社会全体の問題としていいことではない。政府も警察庁も手をこまねいて見ているわけではない」と強調した。最後に子どもたちを大切にする運動のひとつとして、「83運動」を取り上げ、推進した。
 #枠 83運動
小学校PTA連合会で行なっている地域の安全対策。子どもが登下校する午前8時頃と午後3時頃にできるだけ地域の大人たちが外に出て、登下校する子どもたちに声をかけ、見守ろうというもの。

●NPO法人(申請中)京都災害ボランティアネット理事長 吉村 雄之祐氏

吉村氏は、災害ボランティアに関わって13年の立場から、ボランティアは日常活動ではなく非日常的な活動であるといった経験談を披露し、NPOと行政が手を組んで得ることのできる効果は大きいと述べた。「子供の安全を守るために何をしなければならないかを考えた時、安全パトロールや警察立ち寄りのステッカーを貼るなどの対策を掲げることで満足してはいないか」と問いかけ、「ITは、時として人を悪魔に変えるが、本来は、人を幸せにするものであるはず。子どもを守る取り組みを、産官学民、あらゆるセクターが知恵を出し、肩を組んで対処して欲しいと思います」と締めくくった。

●NPO法人北区地域情報化推進協議会事務局 富田好明氏

富田好明氏

富田氏は、4年程前から存在しているマインドクラッシャーと称されるサイトの現状について説明した。マインドクラッシャーとは、閲覧した人が不快感を催す映像や画像のことで、目を覆うような残虐なシーンや音による恐怖を与えるものなども多数存在している。富田氏は、「子どもたちが持っている"驚かせたい"という本能の連鎖によってこうしたサイトへの情報が回っていくのではないか。繰り返されることで慣れてしまう怖さもある」と述べる。「まずは子どもと親の認識の差を埋めることが必要。子どもたちにこれらのサイトを見たことがあるかといった親子間での話し合いや履歴ファイルを消さないなどのルール作りをするだけでも防御策となる」と説明した。

●美志プロジェクト代表 加藤真隆氏

加藤真隆氏

加藤氏は、ワンクリックでどれだけの個人情報が流れるかをデモンストレションによって説明した。
説明によれば、国内の高校生の携帯電話所持率は9割。出会い系サイトへのアクセスの経験は2~3割で、その経路は、友人あるいは業者のメールからによるものだという(警視庁の携帯電話と非行の関係(平成15年9月~11月)より)。そしてワンクリック詐欺に対しても軒並み相談件数は増えているとし、詐欺のしくみについて説明した。「一方的に送られてくるメールを受信してしまうことで、メールアドレスの存在が特定され、また、促されたウェブを閲覧することで携帯電話に備わった固体識別番号(シリアル番号)も特定されてしまう。とにかく怪しいサイトを一回でも見ないこと。お金を振り込まないことが対応策」と述べる。

●日本女子大学 日本獣医畜産大学非常勤講師 佐藤(Emily)綾子氏

佐藤(Emily)綾子氏

佐藤氏は、米国で生まれ日本の環境で育ったという経験から現実とネットにおける安全対策の日米間の違いについて話した。 殺人、強姦などの凶悪犯罪被害数の比較において、日本が約13,658件、米国が約138万件。保護者の育児放棄や虐待など、日本3万2970件、米国約90万人といった中で、アメリカ社会では子どもを守るための様々な規則があり保護者も神経をと尖らせている。子どものインターネット利用については、日米間の差がほとんどないものの、親の認識が異なる。例えば、不適切なサイトを遮断するフィルタリングソフトについて、米国ではインターネットを接続している家庭の半数以上が使用している状況に対して、日本では、その存在について知らないとする親もまだまだ多い。佐藤氏は「ネット社会では、ベビーカーから暴走車に至るまでの様々な利用者が存在している状態。子どもたちが未整備なネット社会に飛び込んでいるという事態を保護者はもっと気付き、考えるべきではないか」と唱える。

●NPO法人東京いのちのポータルサイト理事長/早稲田商店会会長/衆議院議員 安井潤一郎氏

安井潤一郎氏

安井氏は、自らのPTA会長や商店会会長といった経験を通して「自分達の育った時と今の環境は全く異なっているということに気付かされた。そこで初めて、地域と学校と家庭が一緒になって!と唱えていくことの意義が分かった」と話す。商店会を通じての防犯カメラの設置などをとるなどの防犯対策によって、地域ぐるみで子供の安全を守っていくことが、定住人口の安定や街の活性化にも繋がっていると興味深い話にも触れた。また「民主主義とは声を合わせること。一人一人がいいアイディアを持っていても国政には影響しない。様々な取り組みはその声を一つに合わせることが大切である」と述べた。

ファーラムの終盤では、竹花氏、安井氏、そしてネット社会と子どもたち協議会副運営委員長、東京都総務局局務担当部長 木谷正道氏による対談が行なわれた。
 「ネット社会は犯罪者が闇に隠れてしまう危険性がある。それは、大人にも同等の危険性を持ち合わせている。やはり知らないからでは済まされるものではなく、使い方にしても熟知していくことも必要ではないか」と木谷氏。対して竹花氏は「行政と危機感を持っている人が一緒になってやれば解決できないことはないはず。ネットの問題だけではなく子供の安全の問題全般に関わっていく」と熱く答え、安井氏は「まだまだ行政を含め、大人たちが頭でしか理解していない部分がある」と白熱した。最後には「この国が変わってきてしまったことは確かだが、それは自分たちにも責任があるのではないか。子どもたちに対しても、自分ができることをしていこう。立て直す時期は今しかないのではないか」という結論に集結した。

 「子どもを守る」ことへの意識と活動は、一つ一つが結びつき輪を広げていくことが必要である。とは言え、前向きな活動の其々が結びつくことは実際のところ難しい。今回のフォーラムのような試みは、全く異なる立場でありながらも、子どもたちに対する思いが共通だと感じることができるものだ。危機感を持つ大人たちが集まり、「まだまだ捨てたものではない」という気持ちを共感することが次なる糧となるのではないだろうか。さらなる活動の広がりを期待したい。

ITジャーナリスト 遠竹智寿子

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