2005.03.15
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

中学生と携帯電話の正しい付き合い方/墨田区立竪川中学校

迷惑メール、架空請求、出会い系サイトやネットオークションで詐欺被害に遭うなど、携帯電話を媒介とした被害が広がっている。これらの被害は、携帯電話を購入後2カ月以内に集中しているのだという。

警視庁が平成15年に行った調査では、青少年の携帯電話の所持率は約8割。この比率が100%になる日もそう遠くはないだろう。社会経験が乏しい児童・生徒たちが、悪質な情報発信者の標的にされたらひとたまりもない。

子どもたちが、最初の被害に遭う前に、携帯電話との正しい付き合い方を教えるべきではないか。そのような思いから、NTTドコモ モバイル社会研究所では、中学生を対象に携帯電話との上手な使い方を伝えることを目的とした教材を開発している。今回、その教材が学校の授業で使用するのに適した内容かどうかを検証するために、墨田区立竪川中学校で、実験授業が行われた。

 

 

 

 

 

 


教材「ケータイトラップ24時」を読む生徒

 

 

 

 


三橋秋彦先生

◆携帯電話からこんな被害に…

授業に参加してくれたのは、3年1組の生徒たち。社会科の、公民の授業の扱いである。指導にあたったのは、三橋秋彦先生。

授業の冒頭に、携帯電話を所持しているかを聞いたところ、持っていないのは2、3人。つまり、ほとんどの人が携帯電話を持っている。

まずは、まだ校正刷り段階の教材をひととおりざっと読んでもらい、「似たような経験をしたことがあるか?」「経験はないが起こりそうなのはどのケースか」を聞く、という形で授業は進行した。

「あえて、教科書的ではないものにした」(モバイル社会研究所 遊橋裕泰氏)という教材は、一見IT系の雑誌のような表紙。見開きで1テーマとなっていて、最初に、事件の全貌をマンガで示し、引き続いて、どんなワナが仕組まれていたのか、どうすれば防げるか、万一被害に遭ってしまったらどうすればいいか、などが詳しく記されている。

事例としては、無料のサイトを閲覧していたら、「ここからは有料サービスです」という表示が出てきたので閲覧をやめたが、それ以降迷惑メールが何本も来るようになった、着メロを300円で1回ダウンロードしたら、その後も毎月勝手に300円が引き落とされていた、ネットオークションで、高額に競りあがった商品を「繰上落札したので」と買わされた、彼氏が欲しくて出会い系サイトで知り合った男性に会ったが掲載サイトに書き込まれた情報はデタラメだった、など、7事例が紹介されていた。

「こんなこと、身近で聞いたことある?」
ひとつひとつの事例について三橋先生が訪ねるが、挙手がない。迷惑メールを受け取った経験についてすら、挙手をする人はいない。実際に経験がないのか、みんなの前では言いづらいのか。

「電車の中や、レストランなどの公共の場で携帯電話を使ったり、携帯電話で話しながら自転車に乗る」といったマナーの悪さについて尋ねたときにかろうじて数人が「もしかしたら自分もやってしまいそう」と挙手があった。

生徒たちの目立った反応はなかったが、教材の詳しい説明を一心に読む姿も多数見られ、興味がないわけではなさそう。授業後に感想を聞くと、「面白かった」との声を多くの生徒から聞くことができた。

しかし、本当に生徒たちは、教材に例示されたような、携帯電話を介した危険に遭遇したことはないのか。授業後に聞いてみると
「携帯電話会社の公式サイトしか使わない。変なサイトには行かないから絶対大丈夫」
「架空請求なんかが来てもやましいことをしていないからだまされないと思う。」
「心あたりのないメールは無視すればいい。絶対だまされない」
と強気である。
「出会い系サイトなんかは見たことある?」と聞くと
「ありませんよ~」と大笑いされてしまった。

 

 

 

◆すぐにも授業で取り上げたい、しかし問題も…

さて、授業後に、教材を開発した、モバイル社会研究所の方々、三橋先生、見学に来た先生方たちを交えた意見交換会が開催された。
モバイル社会研究所 は、自由で独立した立場から、携帯電話のもたらす光と影の両面を広く深く解明し、豊かで健全なモバイル社会に向かうために考え、行動することを活動の指針としている。今回開発中の教材は、今回の授業の反省を受けて手直しした後、完成させ、全国の学校に無料で配付したい、と同研究所の遊橋氏は語る。

教材の執筆にあたった株式会社クレステックの増田尚子さんは、制作の意図をこう語る。

「携帯電話自体が悪いのではなく、その使い方やリスクを知り、“便利で安全なケータ イ使用者”になっていただくための教材、規制や罰則で秩序を保つのではなく、自ら判断する能力を高める教材を目指しました。

携帯電話を使った犯罪は非常に複雑で、いろいろな要素がからみ合っているので、単純に"こういう場合はこうしなさい"という説明が難しい。また、次々と新しい手口が出て来るので対策が追いつかない。だから、この教材では、こちらから一方的に"こうしなさい"と説明するものではなく、生徒自身が考えることに主眼を置いています。」

自分で考える習慣をつけることにより、新たな手口にも、自分で応用力を働かせて対処できるというわけである。

指導にあたった三橋先生からは
「こういう授業は、実際に携帯電話を持たせるか、携帯電話を疑似体験できるシミュレーターを使うのが一番。しかし、現実的にはそういうツールを使えないことのほうが多いだろうから、今回のような教材の果たす役割は大きいだろう」との意見があった。
他にも現場の先生方からは
「すぐにでもこういった授業は必要」という強い要望があがったが、一方で「教師のほうが携帯電話を使いこなせていないので、どんなワナがあるのかわからない。わからないから指導も難しい」という問題もあがった。
ある教育委員会からは、「たとえば"援助交際"というワードがあるだけで、教材としては拒否反応を示される場合がある。全国一斉に普及させるのは難しい」との問題が指摘された。

 

  子どもたちは、中学あるいは高校入学をきっかけに「携帯電話を買って欲しい」と言い始める。冒頭にも述べたように、携帯所持率は上がる一方。ただ反対しても、「我が子がケータイを持つ日」は必ずやってくる。どうせ持たせるならば、どのような使い方をするべきか、きちんと指導したい。学校での普及が難しいのなら、モバイル社会研究所には、ぜひ保護者に配布することを検討して欲しい。携帯電話購入の際に、同時に配付し、親子で携帯電話との付き合い方を学んでもいいのではないだろうか? 

(取材・構成:学びの場.com 高篠栄子)

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop