2026.05.04
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多様な相手を柔軟に受け入れる子ども、先生が育つ 文部科学省 「インクルーシブな学校運営モデル事業 中間成果報告会」リポート(後編)

文部科学省では、特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを一体的に運営する、「インクルーシブな学校運営モデル事業」を令和6(2024)年度から実施している。事業開始から2年目にあたる令和8(2026)220日、モデル地域の取組状況を報告する中間成果報告会が開催された。後編では、パネルディスカッションの一部と閉会挨拶を紹介する。

パネルディスカッション

  • 弘前大学大学院教育学研究科教授 菊地一文氏 (コーディネーター)

  • 静岡県立田方農業高等学校長 久保田豊和氏

  • 宮崎県立小林こすもす支援学校長 森永英津子氏

  • 横浜市教育委員会事務局 学校教育部特別支援教育課主任指導主事 相田泰宏氏

  • 新潟県十日町市立十日町小学校長 大島一英氏

  • 新潟県十日町市立ふれあいの丘支援学校長 小林浩子氏

冒頭では、菊地一文氏と大島一英氏より話題提供があった。その一部を紹介する。菊地氏は長年特別支援教育に携わり、現在は文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 特別支援教育ワーキンググループ委員として学習指導要領改訂に向けた議論にも関わっている。

地域全体で子どもたちを育てていく

菊地氏: 私は、インクルーシブ教育システムの充実は、特別支援学校だけでなく、すべての教育の場をよりよくするものであり、その先には「持続可能な社会の創り手の育成」と「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」があると考えています。

次期学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」を三位一体で具現化することが打ち出されています。これらを通して子どもたちを育んでいくとき、特定の教員や学校だけに任せず、地域全体で子どもたちを育てていくことが、今後求められるでしょう。

これらの議論は中教審でのものですが、インクルーシブな学校運営モデル事業を進めるうえで、実現可能性を高める重要な知見になると捉えています。

特別支援学校と発達支援センターを併設

続いて大島氏が登壇。大島氏が令和7年4月に校長に就任した十日町小学校は、平成25(2013)年から市内の特別支援学校と発達支援センターを併設しており、インクルーシブ学校運営モデル事業で参考にされた学校の一つである。

大島氏: 十日町市では保護者の要望を受けて、十日町小学校の校舎改築に合わせ、支援学校と発達支援センターが開設されました。地域主導で始まった学校でもありますので、多くの方がボランティアとして教育活動に関わってくださっています。

両校の交流及び共同学習は、合同行事や授業交流、縦割り班での活動を中心に行われていますが、学力向上を喫緊の目標とする当校では授業時間の確保が難しく、教員の人的加配がないことなど課題も多くあります。こうした課題を踏まえ、両校勤務経験者を配置し、合同職員会議などを通じて共通理解を図る取組を進めています。

相手に合わせて“関わる力”

パネルディスカッションでは、特別支援学校と小中高等学校の一体的運営をテーマに、パネリストが取組を発表しながら議論が行われた。その一部をここで紹介する。

—本事業によって子どもや教職員、保護者、地域にどのような良い影響があったかお話しください。

大島氏:日常的な交流を重ねる中で、当校の子どもたちは相手を受け入れる幅が広がり、以前よりも優しくなったことが目に見えて感じられます。それに伴い、子どもを指導する際の教員の受け止め方にも変化が見られ、共感しながら向き合う教員が増えました。

小林氏:本校では多様な学びの場が設けられており、“関わる力”は関わりの中でこそ育まれると強く実感しています。子どもたちは集団の中での自分を学び、人と関わる楽しさを「やりたい」「伝えたい」という行動の原動力にしています。教師も同様に、発達支援センターの専門性の高い職員と関わることで、指導の引き出しが大きく増えていると感じます。

森永氏:本校は、東方小学校内に小学部、東方中学校内に中学部、小林高校内に高等部を設置しており、約20年にわたりさまざまな交流を続けてきました。

本事業を通して、4校の子どもたちは多様性を認め、相手に合わせて関わることができるようになりました。互いの顔と名前を覚え、日常的に声をかけ合う姿が増えたことも大きな変化です。

また、中学校の入学式では、中学生の保護者から「多様性を認め、共生社会を目指すこれからの社会において、この中学校はそれを学べる唯一の学校です」との言葉をいただいたこともあります。

久保田氏:本校の敷地内に沼津特別支援学校伊豆田方分校があり、17年前より交流及び共同学習を続けてきました。本事業をきっかけに、両校でコミュニティ・スクールを共同開催しました。これにより、「地域人材の育成」を目指すという共通理解が深まっています。

新設の特別支援学校は地域との垣根が高い傾向がありますが、本校は伝統校であることから、「あの“田農さん”の中にある分校なんですね」と声をかけていただくことも多く、支援学校の生徒の就職活動に生かされる場面も少なくありません。

相田氏:横浜市では、実践を重ねる中で「非認知能力」に着目するようになりました。特別支援学校と小学校の子どもが共に学ぶからこそ育まれる力があると感じたからです。

非認知能力を「社会情動的コンピテンシー」と位置づけ、メタ認知など4つの視点で整理しました。共同学習では教科の目標に加え、この4つの視点を意識して取り組んでいます。

この成果が明らかになれば、交流・共同学習は非認知能力の育成にも有効な教育活動であると示すことができ、横浜市全体での推進にもつながると考えております。

閉会挨拶

多様性の包摂

文部科学省初等中等教育局視学官 菅野和彦氏

菅野氏:中央教育審議会では次期学習指導要領の検討が進められており、その基盤の一つに「多様性の包摂」があります。本日報告された取り組みは、まさにその理念を体現する実践だと感じました。

特別支援学校においては、子どもが授業を理解し、参加や達成の実感を得られる学びの実現が本質的な課題です。今後もその実現に真正面から向き合い、研究をさらに深めていくことを期待しています。

記者の目

取組発表を通して、本事業を推進していくうえでは、教員や保護者だけでなく、地域住民の協力が大きな鍵を握ることを改めて実感した。大島氏の話にもあったように、教員の人的加配が見込めない地域では、地域全体で支える体制づくりが、事業の着実な推進に向けた重要なポイントになるだろう。

取材・文・スクリーンショット:学びの場.com編集部

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