2026.05.04
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すべての学びの場で特別支援教育をさらに充実させる 文部科学省「インクルーシブな学校運営モデル事業 中間成果報告会」リポート(前編)

文部科学省では、特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを一体的に運営する、「インクルーシブな学校運営モデル事業」を令和6(2024)年度から実施している。事業開始から2年目にあたる令和8(2026)220日、モデル地域の取組状況を報告する中間成果報告会が開催された。前編では、開会挨拶や文部科学省による事業説明に加え、委託団体の取組として、北海道、熊本県、横浜市の発表を紹介する。

開会挨拶・事業説明

特別支援学校のセンター的機能の強化と、障害のある子どもとない子どもの交流・共同学習

冒頭では、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課長 生方裕氏より挨拶が行われた。

生方氏:インクルーシブな学校運営モデル事業は、特別支援学校と小・中・高等学校のいずれかを一体的に運営し、障害のある子どもとない子どもができるだけ一緒に学べる環境の整備を目指して始まりました。本日ご参加の皆さまには、各委託団体の発表などを参考に、それぞれの地域や学校で、できるところからインクルーシブな学校運営に取り組んでいただければと思います。

続いて、インクルーシブな学校運営モデル事業の趣旨や概要について、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課課長補佐 堀江菜津子氏が説明を行った。

堀江氏:令和7年度の義務教育段階における児童生徒数は約911万人で、10年前に比べて約1割減少しています。

一方で、小中学校の特別支援学級や通級指導を受ける児童生徒は増加しており、特別支援教育を受ける児童生徒は約71万人で、10年前の約2倍となっています。

文部科学省の令和4(2022)年度調査によると、通常の学級に在籍し、学習面や行動面で著しい困難を示す児童生徒は、小中学校で約8.8%、高校で約2.2%と推定されます。35人学級に換算すると1学級あたり約3人となり、どの学級にも特別な支援が必要な児童生徒がいる可能性があることを示しています。

このため、すべての学びの場で特別支援教育をさらに充実させ、学びの場の連続性を高めることが不可欠だといえます。

その上で、こうした学びの場の連携を進めるための重要な施策を紹介します。1つ目は「特別支援学校のセンター的機能の強化」です。特別支援学校は、自校の児童生徒への教育に加え、地域の園や小中高に在籍する障害のある子どもへの助言・支援を行うよう努めることが学校教育法で定められています。

2つ目は「障害のある子どもとない子どもの交流及び共同学習」です。障害者基本法や各学校の学習指導要領では、交流及び共同学習を通じて相互理解を深め、互いを尊重する態度を育むことが示されています。

一方、特別支援学校と小中高等学校の交流及び共同学習の実施状況を調査したところ、特別支援学校の児童生徒の約45%が、年間を通じて学校間交流に一度も参加していないことが分かりました。交流の機会が十分でない現状が覗えます。

こうした現状と課題を踏まえ、文部科学省の協力者会議「通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議」は令和5年3月に報告書を取りまとめ、特別支援学校と小中高等学校のいずれかを一体的に運営する「インクルーシブな学校運営モデル」の創設を提言しました。これを受けて開始されたのが「インクルーシブな学校運営モデル事業」です。

本事業は、複数校を一体的に運営する連携協議会の設置、教育課程を調整するカリキュラム・マネージャーの配置、発展的な交流及び共同学習の研究開発、専門性を生かした一体的な指導体制の構築を柱としています。

令和6年度から3カ年計画で開始しており、2年目を迎えた現在、13の委託団体で取組を進めていただいております。

先導的な事業として、各受託団体には高い目標のもと実践に取り組んでいただいていますが、そこで生まれた工夫や成果は他地域にとっても大いに参考になるものです。本日の報告会が、皆さまの地域や学校での取組をさらに充実させる契機となれば幸いです。

取組発表

続いて、各委託団体による取り組みが4つの部屋に分かれて発表された。そのうちCグループにあたる北海道、熊本県、横浜市の取り組みを紹介する。北海道は立地に距離のある学校間で、熊本県は同一敷地内にある学校間で、横浜市は隣接する学校間での連携がなされた。

①北海道

2地域で体制を整備

  • 北海道教育庁学校教育局 特別支援教育課 髙石純氏

  • 北海道中札内高等養護学校 佐藤貴雄氏

  • 北海道七飯養護学校 山内功氏

髙石氏:北海道では、A地域(北海道七飯養護学校・七飯町立七飯中学校)とB地域(北海道中札内高等養護学校・北海道更別農業高等学校)の2地域で事業を実施しています。

両地域にカリキュラム・マネージャーを配置し、連携協議会には両校の教員も参加して、それぞれの立場から取組を説明する機会を設けています。

山内氏:本校は道立、中学校は町立と設置者が異なりますが、七飯町教育委員会の皆さまのご支援に支えられ、本事業は充実したものとなっています。

特に連携を加速させたのがICTの力です。七飯町のGoogleアカウントを本校職員に付与していただいたことで、チャットで相談ができるなど、距離が一気に縮まりました。

1年目は交流や共同学習を軸に取り組みましたが、そこで見えた課題を踏まえ、2年目は「音楽」「美術」「保健体育」といった、音・色・動きで響き合える教科を中心に据えました。

佐藤氏:本事業の趣旨である「柔軟で新しい授業の在り方」の一つが、オンラインを活用した交流・共同学習です。更別農業高校の学校設定科目「カルチベーション(1年生全員を対象とした、記憶、言語理解、注意、知覚、推論、判断などの認知機能を強化する学習等)」は、両校の生徒のアンケートでも好評で、楽しさや理解につながっていると評価されています。

また、「専門性を高めた授業実施のための体制構築の在り方」として、両校の教員による特別支援に関する学び合いの場「共に学ぶ会」を実施しています。あわせて、両校の生徒会執行部の連携や、初任段階層職員研修として連携校間のチームティーチングにも取り組んでいます。

②熊本県

共同学習「音楽」を文化祭で発表

  • 熊本県教育庁 県立学校教育局 特別支援教育課 山中真樹氏

  • 熊本県立松橋西支援学校 カリキュラムマネージャー 市原留美子氏

山中氏:熊本県では、平成27(2015)年から県立高等学校の敷地内に特別支援学校高等部の分教室を設置し、交流してきました。今年度本研究に取り組む上益城分教室と甲佐高校では、「交流及び共同学習の機会と内容の拡充」「両校の強みを生かしたチームティーチングの充実」「学びの質を高める協力体制の構築」を目標に、国語と音楽の共同学習をはじめ、アンケート調査、合同職員研修、授業参観など、さまざまな取組を行ってきました。

本事業の趣旨である「柔軟で新しい授業の在り方」として、共同学習を通して両校が教科の目標を共有した授業づくりが進みました。一方で、生徒の実態に応じた共同学習が可能な教科とその内容の把握・調整には課題が残りました。また、「専門性を高めた授業実施のための体制構築の在り方」として、研修やアンケートを通して具体的な取組案が多数示され、今年度の研究に生かすことができました。一方で、授業づくりに関する職員のニーズ把握が十分でなく、専門性を相互に生かしきれないという課題も明らかになりました。

今後は、これらの課題を踏まえ、共同学習を実施する教科内容の検討をさらに深めるとともに、職員のニーズ把握とその対応を検討・共有し、その内容を合同職員研修会で取り上げ、充実させていきます。

市原氏:松橋西支援学校高等部上益城分教室と甲佐高校は、これまでも体育祭や入学式、卒業式などで日常的に交流を行ってきましたが、本事業の研究指定を機に、共同学習に力を入れてきました。

たとえば、音楽では文化祭での発表を共通のゴールに設定し、「交流及び共同学習」の共通目標に加え、両校で教科の目標も定めました。当日は、全員が自信をもって学習成果を発表することができました。

③横浜市

非認知能力(社会情動的コンピテンシー)を育成

横浜市立若葉台特別支援学校 笹平みどり氏

笹平氏:学校運営連携校に指定されている若葉台小学校・若葉台中学校・若葉台特別支援学校は、同じ団地内にあり、地域での協力体制が強いことが特徴の一つです。 

令和7(2025)年度の連携協議会は11名で構成され、6回開催されました。3校の校長やカリキュラムマネージャー、教育委員会、横浜国立大学D&I(ダイバーシティ&インクルージョン )教育研究実践センターの外部専門家が参加し、さまざまな検討を重ねました。

横浜市では、小学校・特別支援学校の両校に4名の兼務教員を配置し、現行の教員配置にとらわれず、それぞれの学校で授業が行える体制を整えています。

たとえば、小学校在籍のカリキュラム・マネージャーは、小学校1・2年生の図工専科を担当するとともに、特別支援学校で週2回勤務しています。これにより、学級担任との情報交換もスムーズになりました。

令和7年度は、1年生・2年生ともに、生活科や国語科、音楽科など、9回の授業を行いました。

前年度は特別支援学校の児童が小学校に赴いていましたが、今年度は一部の授業を特別支援学校で実施しました。その結果、小学校の児童に自ら声を掛ける姿が見られるなど、特別支援学校の児童に明らかな変化が現れました。

また、本市では社会情動的コンピテンシーに着目し、「メタ認知」「知的好奇心」「知的謙虚さ」「共感性」の4つの視点をインクルーシブな授業づくりに位置付けました。最終年度に向けては、これまでの取り組みに加え、教科の幅の拡大も検討していきます。

後編では、パネルディスカッションでの議論や閉会挨拶を紹介する。

取材・文・スクリーンショット:学びの場.com編集部

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