2022.09.05
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GIGAスクール構想を推進する仲間の巻き込み方とは? 〜川崎市総合教育センター研修リポート〜

神奈川県川崎市では、GIGAスクール構想により、市立⼩中学校の児童⽣徒に11台のChromebookが導入された。この状況を踏まえ、2021年から、どのような学校でGIGAスクール構想(ICT活用)が進んでいるのか、東京大学・川崎市・内田洋行の共同による調査研究が開始された。

この共同研究の成果報告を兼ねて、2022725日に東京大学大学院情報学環の山本良太特任助教を講師として開催された研修「市内アンケートから見えてきた端末活用が進む学校・学級づくり」を取材した。市内から参加希望者が募集され、小学校教員を中心に30名弱が参加した。

ICTの活用というと、ともすれば技術やスキルの問題として捉えられる場合がある。今回の研修では、あえてそうした側面ではなく、先生方の「仲間の巻き込み方」という視点から、学校がコミュニティとしてICT活用を推進していく方法について、事例やディスカッションを踏まえて考えることがねらいとされた。

話題提供

ICTを活用できている教員はどんな先生・学校か?

研修の前半では、山本先生からの話題提供として、2021年に実施された研究の経過報告が⾏われた。研究は、市内のアンケート調査の分析結果をもとに、川崎市内の⼩学校教員のGIGAスクール開始直後のICT活⽤に影響を与える資質や経験とは何かを明らかにする研究と、小学校での教員間の同僚性に着目し、GIGAスクール下でICT活用を積極的に進めることができている教員コミュニティとはどのようなものかを明らかにするグループインタビューの2本立てからなっていた。

アンケート調査の分析からは、GIGA後のICT活用は「年次の若い先生」「GIGA以前からICT環境を活用できている先生」「ICT活用に自信を持っている先生」が推進できているという実態が明らかになった。さらに、2つの交互作用(「GIGA前(の活用)×ICT活用歴」「年代×自信」)に関する考察を踏まえ、学校全体として活用方法を模索すること、年次の高い先生に自信を持ってもらうこと、などが提案された(*1)。

インタビュー調査からは、GIGA端末の活用を促進するコミュニティとして、学級コミュニティ(担任の先生と児童たちのコミュニティ)、教師コミュニティ(学年団などのコミュニティや先輩・後輩関係)、そして学校コミュニティ(学校に所属する教員や管理職のコミュニティ)といった多層的なコミュニティが存在すること、活用が進んでいる学校では、こうしたコミュニティの活動が活発であることが報告された。たとえば、ICT活用が進んでいる教室では、児童が端末の新しい使い方を発見し、教員がそれを認めていくことで、多様な場面での活用が推進されていくという状況が起きているという(*2)。

こうした学校コミュニティへの管理職の関わり方として、学校教育目標など共通の達成目標を設定したり、研究協力校の指定などを活用してICT活用推進に取り組むための状況設定をしたりしつつ、先生方の試行錯誤を許容し後押しする支援がありうることも解説された(*2)。

山本先生は報告のまとめに代えて「情緒的な話になってしまうが、最後は『愛着』が大事。学校への愛着、学級への愛着、先生集団への愛着などが、何か行動を起こすときの原動力になる」「仲間同士で高め合おうとするところ、個人主義ではないところが川崎市の先生方のよさだと思う」と述べ、先生方を励まされた。

ワークショップ

夏休み明けからどうやって仲間を巻き込むか?

話題提供を踏まえ、夏休み明けからGIGA端末の活用を推進していくための小グループでのディスカッションが行われた。事例提供者兼ファシリテーターとして、川崎市教育委員会の指導主事の先生と協議の上、2021年度からGIGA端末の活用について積極的に取り組まれている学校の先生方7名が各テーブルに配置された。

ワールドカフェ形式(あるテーマについて、テーブルごとにホスト役を決め、ホスト以外の参加者がテーブルを移動しながら議論を深めていく形式)で、ディスカッションは2ラウンド⾏われた。ファシリテーターの先⽣がホスト役として事例を提供した上で、参加者の先⽣⽅からの質疑に応えディスカッションを⾏っていた。ファシリテーターの先生方の事例テーマは下記のとおりであった。

・超積極的な端末活用
・子どもたちと一緒に主体的に活用
・先輩としての立場→職場への貢献
・後輩としての立場→職場への貢献
・子どもたちの変化に気づき、一緒に挑戦する活用方法
・つながりを意識した校内研修
・子どもたちからの提案を楽しみながら活用

たとえば「つながりを意識した校内研修」というテーマを紹介してくださったN先生は、校内研修を実践する中で、校内の先生方に役割を割り振って(たとえばスプレッドシートの研修を担当する先生など)、それぞれの先生にエキスパートになってもらう方法で、ICT活用を広げていったという。N先生は「楽しみながらやることが何より大事。役割があることで先生方の自己有用感も上がる」と力説された。参加者の先生方からは「GIGA端末のアプリは先生と児童の権限によって見え方が違って、一人では活用方法を体験できないので、みんなで取り組むのはいいですね」といった意見が聞かれた一方で「自校だと、そうは言っても校内研修の時間を取るのは難しいかもしれない」といった慎重な意見も出た。学校の環境はさまざまであり、事例を踏まえて自校に合った「巻き込み方」を検討する必要があるのだろう。

2ラウンドのディスカッションを終えて、もとのグループに戻ってきた先生方は、それぞれが聞いてきた事例を共有した。1人が聞いてきた事例は2つでも、グループの先生方の話を総合すると、ほぼすべての事例を全グループで共有することができる。こうした事例を踏まえて、先生方それぞれが夏休み明けに応用できそうな自校での「仲間の巻き込み方」を考えていった。

まとめ

GIGAスクール構想に必要なのは「コミュニティ」

東京大学大学院情報学環 山本良太特任助教

最後に、山本先生からまとめのコメントがあった。「一人ひとりの先生方の努力はとても大事である一方で、ICT活用を個人の資質や能力に還元しないことが重要」「ICT活用でもなんでも、人の行動は一朝一夕に変わるものではないので、性急でなく漸次的な変化を、根気強く取り組んでいただきたい」と説明した上で、「GIGA端末は様々な目的や方法で活用可能です。そのため、わたしは先生方の気持ちやお考えを理解しないままに、特定の活用方法だけを提示することはあまりしたくないと思っています。ですが、GIGAスクール構想を進めるにあたって学校で一番大事なのは、コミュニティをつくること、これだけは自信をもって言えます」と締めくくられた。

今回の研修は、研究を主導された山本先生だけでなく、総合教育センターの石橋純一郎指導主事、そして事例を提供されたファシリテーターの先生方が、それぞれの立場から「仲間の巻き込み方を考える」というテーマに、それぞれの視点からみえていることを提供してくださったからこそ、成立した研修だったと思われる。研究で明らかになったことを山本先生が伝えるとともに、その言葉を裏付ける現場の言葉をファシリテーターの先生方が実感を持って語られる。これを総合教育センターがバックアップし、研究の言葉と現場の言葉を翻訳する。研究者と現場の協働のあり方としても意義のある事例であったと言えよう。

参考文献
  • *1 佐藤智文・平野智紀・山本良太・石橋純一郎・山内祐平(印刷中)GIGAスクール構想におけるICT活用の促進要因:川崎市の小学校での教員調査に基づく探索的検討.日本教育工学会論文誌46(Suppl.)
  • *2 山本良太・石橋純一郎・平野智紀・佐藤智文・山内祐平(2022)GIGAスクール構想下における同僚性に基づく教員コミュニティの在り様に関する調査.日本教育工学会研究報告集JSET2022-1: 22-29.

取材・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 平野 智紀 写真:内田洋行教育総合研究所 研究員 佐藤 智文

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