2020.03.11
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「探究」を通じて自律的な「課題設定能力」を身に付ける(前編) 福井県立若狭高等学校「SSH生徒研究発表会」リポート

学習指導要領の改訂により、2022年度から高等学校の「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」に変わるが、福井県立若狭高等学校(以下、若狭高校)では、スーパー・サイエンス・ハイスクールとして2011年から学校設定教科「探究」を設定し、先取りして実施している。
2020年2月15日、この若狭高校にて「SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)生徒研究発表会」が開催された。午前の口頭発表の部と、午後のポスター発表の部に分かれて実施。今回は口頭発表の部・理数探究科2年生による課題研究中間発表3件をリポートする。

生徒自ら行う「課題設定」が生み出す、多彩な研究テーマ

福井県嶺南地方に位置する若狭高校は、普通科、文理探究科(国際探究科、理数探究科)、海洋科学科、定時制普通科の5つのコースがある総合高校。この地域の2/3の中学生が進学してくる。文部科学省によるSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)、AL(アクティブ・ラーニング)研究指定に加え、OECDイノベーションスクールネットワークによる指定校として研究開発プロジェクトを並走させており、先進的な取り組みが注目されている高校である。

若狭高校は「探究」の授業が取り入れられる以前から研究活動が活発で、海洋科学科の生徒たちが13年にわたって研究を重ねて開発した「サバ缶」が、2018年にJAXAの宇宙日本食の認証を受けたことは記憶に新しい。

3年間にわたって行われる学校設定教科「探究」の授業によって、若狭高校が目指すのは「課題設定能力:事象の背景や現状を分析し、科学的根拠をもって仮説を立て、自らが発展的・独自性のある課題を設定する能力」を身に付けること。

若狭高校がある小浜市には、豊富な海産物が獲れる若狭湾や湧き水のうるおう里山といった自然環境に加え、太古の時代より続く歴史文化も根強く残り、地域課題や素材へのアプローチが多様に現れるのも特徴。

5つの教室に分かれ、プロジェクターを使った研究発表が行われた。兵庫県立豊岡高等学校、東海大学付属高輪台高等学校(フィリピンのデラサルリパ学園も参加予定だったが、新型コロナウイルスの影響により欠席)も参加し、生徒や教師の壁を超えて積極的な意見や質問が飛び交う時間となった。また、これまで生徒の探究活動に助言者として関わってきた、大学や地域機関の研究者からの講評に、生徒たちは真剣に聞き入っていた。

取材した教室では2年生の理数探究科のグループが、1年間の研究成果を発表した。どのチームの発表にも、身近な問題意識や疑問から出発し、試行錯誤しながら探究してきた様子があふれていた 。

理数探究科・2年 課題研究中間発表

講評:京都大学大学院地球環境学堂 准教授 田中 周平 氏

口頭発表1.河川のマイクロプラスチックゴミの調査と発生源の特定

探究のポイント:これまでの調査に学び、深める

―先輩たちの調査を引継ぎ、「まだ分かっていないこと」を自分たちのテーマにした。
―他者の先行研究をもとに、自分たちの調査に必要な手法を考えた。

1. 研究の背景
海に浮遊するプラスチックごみが、多くの生物の健康に大きな被害を与えており、その汚染は若狭湾の砂浜にも広がっている。若狭高校の生徒たちはこの環境問題に着目し、これまで継続的に調査してきた。砂浜で採取したプラスチックごみを調べると、粒の大きいプラスチックごみが多く見つかった。通常、プラスチックは長い間海を漂うことによって小さくなるため、本グループでは、砂浜で採取されたプラスチックごみは近隣の地域から排出され流れついたものと仮説を設定。近隣の河川内のプラスチックごみを調査することにした。

2. 調査の方法
若狭高校で、2016年から継続して行われているプラスチックごみの採取記録を元に調査する川の場所を選定。独自に開発した網により、河川から採取した浮遊物よりプラスチックごみの抽出を行い、その大きさ、採取時期に応じて選別を実施した。

3.結果
河川で採取されたプラスチックごみは砂浜に打ち上げられたものより比較的小さかったという結果が得られたことから、河川内のゴミが発生源である可能性は低くなった。また、比重を使ったプラスチックの成分特定によって、食品トレーや緩衝材、農機具などの発生源が予想されたため、砂浜のごみの成分とは異なる可能性が高いことがわかった。

今後もプラスチックごみの特徴や季節による変化の調査を継続し、他に考えられるゴミの発生源を特定していく。現在のエタノールや飽和食塩水による成分分析には限界があるためFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)の導入なども検討している。

4. 質問と講評
発表と同程度の時間をかけて質疑応答があり、次々に質問の手が上がった。

ある生徒からの、他の河川と比べて比較的水深の浅い場所を選んだ理由についての質問に対し、発表した生徒は「海に近い河川を選ぶうえで、流れのない場所は海からの逆流が起こり、純粋に河川で発生したごみと特定しにくく、逆流が起こりにくい河川を選んだのが偶然にも浅かっただけ」と回答していた。

京都大学の田中准教授は、河川で採取する網の構造を改良するためのアドバイスとともに、調査した川は国内外の河川と比べてどの程度汚れているかという比較の視点をもつことや、インターネットで情報収集をする際の注意点など、科学的なアプローチの基本姿勢について助言した。

口頭発表2.射的のコツとその証明

探究のポイント:科学的な方法論をかため、検証する

―どうすれば、射的を実験室にある道具を使って再現できるか考えた。
―実験と理論値の計算という2つの手法で、誰がやっても同じ結果がでるようにした。

1.研究の背景
祭りの屋台などでよく見かける「射的」で、おもちゃの銃によって景品をうまく落とす「コツ」はインターネットにあふれている。しかし、そこで得られる情報の科学的根拠を⾒つけられなかった生徒たちは、みずからの手で物理的なアプローチにより「コツ」を証明することに挑戦した。

⼀般的な射的のルールを元に「銃から発射された弾がどのように当たれば的の移動距離を⼤きくできるのか」を検証テーマに絞った。仮説として「的の右上または左上の端を狙うことによって、的を回転させ、移動距離を伸ばせる」と考えた。

2.調査の方法
実験による検証と、移動距離を理論的に計算する検証という2つのアプローチを行った。

実験では、打つ⼈の⼒や空気抵抗によるブレをなくし、できるだけ⼀定の速度と⼒を加えられる装置を作る必要がある。そこで射的の重量や速さを再現した「振り⼦」の実験装置を作り、的の移動距離を測定した。
理論値計算では、振り⼦の球の質量、的の質量、球を離す⾼さ、重⼒加速度、衝突直前の球の速度、衝突直後の球の速度を元に、的の移動距離を計算した。

3.結果
実験結果でも計算結果でも、高い位置にあてるほど移動距離が長くなることが判明。また右(左)側にあてることにより、的の移動距離が長くなることから、的の真ん中を狙うよりも、右上(左上)の⾼い位置を狙うほうが、縦と横の回転を与えることができ、より確実に的を倒せることがわかった。

4.質問と講評
実験装置についての質問が多く上がり、発表した生徒たちは実験の動画も見せつつ質問に答えていた。

⽥中准教授は、高校生らしいオリジナリティーのある着眼点と精度の⾼い検証結果を評価した。このようなデータの取得が、継続して研究をする時の⼟台になるとして、基礎的な実験の大切さを語り、さらに精度を上げれば論⽂を書けるレベルにまでなるだろうとエールを送った。

後編では「紙の円形展開」の発表について、担当教員と生徒たちのインタビューも交えてお届けする。

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