2020.03.11
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「探究」を通じて自律的な「課題設定能力」を身に付ける(後編) 福井県立若狭高等学校「SSH生徒研究発表会」リポート

2月15日に福井県立若狭高等学校で「SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)生徒研究発表会」が開催された。前編では、午前に実施された口頭発表の部から「河川のマイクロプラスチックゴミの調査と発生源の特定」と「射的のコツとその証明」をリポートした。後編では、同じく口頭発表の部から「紙の円形展開」について、発表を行った生徒らのインタビューも交えてリポートする。また、同校と、横浜国立大学、内田洋行教育総合研究所による共同研究についても紹介する。

口頭発表3.紙の円形展開

探究のポイント:身近でオリジナルな疑問を、とことん探究する

―物理や数学の視点や知識をもとに、ゼロから仮説設定と検証を繰り返した。
―教員や専門家のアドバイスを自分たちなりに解釈し、実験をブラッシュアップした。

1.研究の背景

偶然、先⽣がたくさん重なった紙の表⾯を軽くこすって少しずつずらし、紙の束が円形のように展開する様⼦を⾒かけたことがきっかけで、この現象に何かの数学的法則や規則があると考え、これを調査した。先⾏研究がない未知の現象と仮定し、まずは「こする円が大きいほど広がりが大きくなるのではないか」と仮説をたて実験を開始した。

2.調査の方法

実験は、大きく分けて2回行われた。
1回目は、指で円を描くように紙束をこすった。こする円の半径、紙の種類、実験者など、条件を変えて実験した。
円を描くように紙をこするよりも、直線でこする方がよいとのアドバイスを受け、2回目の実験では段ボールと重りを使って紙をこする装置を作り、元の位置から動いた紙の距離を測った。

3.結果

1回目の実験からは、展開した上の紙と下の紙の間に作られる⾓度には一定の関係があると考察した。こする円の半径が⼤きくなると、展開する枚数が増え、距離も⼤きくなったが、上の紙よりも下の紙の⽅が広がりにくいなど、圧⼒が分散することが判明。1回目の実験の課題を踏まえ、2回目の実験を行った。こちらの実験からは、力を加える面積と紙の展開との関係を考察した。

4.質問と講評

他校の教員から、実験結果を説明するときの話の速さやグラフの見せ方についてアドバイスがあり、発表した生徒から改めて実験結果のグラフの説明が⾏われた。

⽥中准教授は、身の回りの印象的な現象に目をつけたオリジナリティーを評価しつつ、誰が行っても同じデータが取れるよう、実験方法を工夫し、今後も論理的思考の練習を重ねていってほしいとアドバイスした。

また全てのグループに向けて、発表練習を動画に撮って客観的に⾒直してみることは、プレゼンの内容を改善するので、ぜひ実践してみてほしいとコメントした。

「紙の円形展開」チームの声

担当の上村先生、熊谷圭桐さん、高橋朋也さん、中林寛人さん、米村悠希さん

ーテーマを決めたいきさつを教えてください。

「最初はなかなかテーマが決まらず、どうしようかと思っていたところ、先生がたまたま紙を円形に広げていくしぐさを見て、メンバーの中で『これはいいんじゃないか』と盛り上がりました。まず、見たときに不思議だなぁと自然に思えたことが大きかったです。」

ーどのように実験を進めたのですか?

「チームで仮説を考えるためにとにかく実験しました。その中で具体的に仮説を⽴てていき、さらに実験を進めるという⽅法でした。何を変えればよいのかについても、みんなで『半径』や『紙の種類』などアイデアを出し合って考えました。」

「実は、紙の種類については、福井の伝統産業である越前和紙を取り⼊れたかったのですが難しく、わら半紙と上質紙という⾝近なものになりました。」

ー先生方からはどのようなアドバイスがありましたか?

「紙を回していく時の圧⼒分散について学校の先⽣に相談したのですが、物理ではなく数学の先⽣も微分積分からのアプローチ⽅法などを提案してくださり、教科を超えた相談であっても親⾝になっていただけたことはとても助かりました。」

「⼤学の先⽣⽅からいただくアドバイスは、専⾨的な単語や現象について分からないことが多かったのですが、まずはそれが⼀体何か︖を調べることは、探究という意味で⼤きな学びになりました。」

「今回の実験は『再現性が低い』という評価だったのですが、今後、僕たちの研究を誰かに引き継ぐ場合には、先⽣⽅からのアドバイスをきちんと受け⽌め、そういった情報も含めたものを残しておきたいと思います。」

ー「探究」の授業で楽しかったことを教えてください。

「最初に、不思議な現象を⾒つけること⾃体がおもしろいと感じました。また、それを動画に撮ったり、観察したりして、実際に実験を⾏いながら、少しずつ法則のようなものが分かってくる時はとても楽しかったです。」

ー上村先生にお聞きします。今日の発表はいかがでしたか?

「着眼点にオリジナリティーがあり、とてもよかったですね。データは多く取れていたが、それを聞いている⼈にどのように発表するか︖を⼗分に落とし込めなかったように思います。どのチームにも⾔えることだが、実験⾃体はよくできているので、それをどのようにしたら分かりやすく⼈に伝えられるかを⼯夫していくことが今後の課題だと考えています。」

エビデンスにもとづく「探究」の評価に関する研究

評価基準表原案(平成 29 年度指定 スーパーサイエンスハイスクール 研究開発実施報告書・第2年次P.44より転載)

若狭高校では、2018年より「探究」の授業の「評価」について、横浜国立大学脇本健弘研究室、内田洋行教育総合研究所との共同研究を行っている。平成30年改訂の高等学校学習指導要領で新たに「総合的な探究の時間」が開設される。「探究」は、生徒の興味関心にもとづいて内容が決まる長期的な授業のため、従来の教科のようなテストの点数による評価にはなじまず、評価の方法が確立しているとは言えない。

この課題を解決するため、若狭高校では、生徒・教員へのアンケート調査を通して「探究の現場で起こっている学びや指導の見える化」に取り組んでいる。生徒の学習観や授業観、「探究」での行動、それによって身についた能力などについて、生徒および教員にもアンケート調査を実施。結果を集計し、生徒と教員の間の回答のギャップや経年変化など分析し、そのデータを教員研修にてフィードバックすることで、「探究」のカリキュラムや授業の改善を⽬指していく。

今後は、若狭高校にて調査結果をもとにディスカッションする教員研修を開催する予定である。研究の経過については、国際学会や中央教育審議会などでも報告を⾏っている。

記者の目

自分たちのふとした疑問やきっかけを元に課題を設定し、仮説と考察を繰り返しながら研究を進めていくという、まさしく「探究」の時間が実っていることに感動を覚えた。積極的な質問や意見の交換も見られ、あまたある情報をうのみにせず、調査によるデータを客観的に分析する科学者の芽が確実に育っていると感じる。今後、先輩から後輩へと研究データが伝わることで、さらに深い考察はもちろん、「探究」に対する心構えも受け継がれていくだろう。

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