2017.10.18
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意外と知らない"不登校"(vol.2)

不登校児童生徒の中には学校教育が合わず、自分がどうしてもやりたい勉強をするために学校に通わない自由を認めて欲しいと心から思っている子どももいますが、不登校の子ども達の多くは、親や教師には言えなくても「本当は学校に行きたい。皆と同じように勉強して遊びたい。でも行けない」と悩み、心の奥では学校に戻るきっかけを待っています。暴力を恐れて、部屋の前に食事を置くだけで、会話が無くなってしまっているような状態では、解決の糸口は見えてきません。親や教師が、子どもが自分で「学校に行く」と言い出すまでただ待っているだけでは、勉強は遅れ、クラスメイトにどう思われているかも気になり、体力も低下し、どんどん行きづらくなってしまいます。学校、家庭はどのような支援をすべきなのでしょうか。

不登校の発生メカニズム

一昔前の不登校には、頭痛、腹痛、吐く、下痢などの身体症状を伴うことが多かったのに対し、近年は、朝起きられないまたは起きないといった訴え以外に特に身体症状は無く学校行事や部活動には参加し外出もできるのに、「すくみ反応」があって教室(同年齢の集団)に入れないというものが増えています。残酷ないじめや教師の体罰、家族の犯罪行為などの場合を除き、不登校になる大本の原因は、子どもの社会化(集団参加能力)の発達停滞と言われています。自分に自信が無く、家族などのよく触れ合う親しい人達や、一般社会の一時的に触れ合うか親しくない人達には不安や恐れを感じませんが、ほどほどに親しい学校の人達や環境には不安や恐怖を感じるという心理的な様態で、誕生からの生育の過程で身につくものです。

これに、授業中の失敗、学習意欲の低下、部活動での挫折、いじめ、友人や教員とのトラブルなどのきっかけが加わると不登校になります。来たり来なかったりの不登校の開始時にきっかけとなった問題の解決を図ると、再登校が実現することが多く、長期化を防げますが、間違った対応をとってしまうと本格的に休み始めます。

本当は「同級生にからかわれることが嫌だから」「作文の授業が嫌だから」という理由でも、自分自身でははっきり認識していなくて「学校が楽しくないから」と漠然とした理由を言ったり、理由を言うのが恥ずかしいので黙り込んでしまうことが多いため、丁寧に聞き出し、言い分に耳を傾けます。必要があれば、周囲からも情報を収集します。学級担任には、元気がなくなり、級友との関わりや集団での行動を億劫がる、月曜日や連休明けに遅刻する、保健室に頻繁に行くなどの兆候がある時点で、本人の話を聞いて、学校で気分よく過ごせるように配慮するという対応が求められます。

回復までの経過

不登校が長引くと、言葉遣いが変わる、物欲を加速させる、生活習慣が乱れる、不潔になる、ものを壊す、家族に暴力を振るう、引きこもるといった「混乱・引きこもり」の段階に進みます。

親が「叱る」→子どもが「抵抗する」→親が「責める」→子どもが「黙る」の悪循環を断ち切れると、回復期に進み、「自己を真剣に見つめ始める」→「学校や友達への関心を示す」→「家事や勉強に取り組む」→「再登校のために具体的に行動する」のような経過をたどって、再登校が実現します。登校の意思が確認できたら、学級担任と相談して復学日を決め、学用品や体操服のサイズを確認したり、同じクラスの友達と遊んだりして準備をします。卒業が近いのであれば、中学校、高等学校進学のタイミングで学校に戻るという選択肢もあります。

復学後も再び不登校にならないように、学校へ行くことが「とても大変で頑張らなくてはいけないこと」から「当たり前のこと」へ変わり、テストや学校行事、班活動や部活にも積極的に取り組もうという意識になってきているか、子どもが信頼する教師やカウンセラーが半年はフォローする必要があります。

回復後「再登校」せずに、高卒資格を得て大学生・社会人になるという選択をする子どももいます。フリースクール同様学費はかかりますが、抜けている小中学校の学習内容を予備校や学習塾が運営しているサポート校等で指導してもらいながら、通信制の高等学校を卒業するのが一般的です。2016年に高等学校を卒業した約112万人のうち約5万人は通信制の高等学校卒業です。また約1万人が高等学校卒業程度認定試験に合格することで高卒資格を得ています。

不登校になりやすい家庭

不登校は子どもからの問題提起ととらえ、「(不登校になったのは)~が悪い/~のせい」と犯人探しをしたり、子どもだけを変えようとするのではなく、まず親が変わることで、不登校の問題が解決することが多くあるそうです。愛情があっても肯定的な感情交流(子どもの良い所を見つけて褒める、嬉しかった出来事について話すなど)が不十分な家庭は、子どもの性格によっては不登校になりやすいと言われています。

不登校専門のカウンセラーは、親子の会話をメモしてもらい、家庭にどのような問題があるのか分析し、子どもにとって親が「困ったときに相談に乗ってくれる味方」という立場になるようにアドバイスするそうです。またどのように寝ているかヒアリングすることもあるそうです。夫婦と子どもの寝室を分けたら解決したということもあると言います。

タイプ
特徴
改善方法
過干渉 親子の会話に「~しなさい」という命令や指示や提案(メシテイ)が多い。年齢以上に幼く扱ってしまい、「年相応の自立」が育まれず、ストレス耐性が低い。母子分離ができていない。 親は子どもが自分から行動するまで待つ努力をする。子どもがその行為をしたら困るのが本人の場合は、その結果を子ども本人に経験させる。メシテイ(命令・指示・提案)ではなく、親の気持ち(心配だ、悲しいなど)を伝えるようにする。
放任 会話の中にメシテイが無く、親発信で親の気持ちを伝えることもない。 子どもからの問いかけに対し、親の経験や考えを話してあげる。
フレンドリー 親子のコミュニケーションのほとんどが、まるで同年代の友達との会話のようになっている。立場が同格なので、親が注意したり叱ったりしても効果が薄い。叱る場面でも優しくしてしまったり、子どもと同レベルの言い合いをしてしまったりする。 父親の立場を明確に子どもより上にし、必要なときには親の威厳を発揮できるようにする。母親は子どもの気持ちに共感を示しつつも、父親の立場を下げないようにする。なお父親が「登校すべきだ」、母親が「休みたければ休んでよい」というメッセージを同時に発すると子どもをさらに混乱させるので注意する。また単親家庭では時に応じて父性と母性を表すようにする。
ギスギス 子どもからの発信がなく、親からの発信はYES・NOで答えられるような「閉じられた質問」が多い。親が子どもに対して何らかの不足不満を持ち、非難することが多いため、子どもは困ったことがあっても親に相談できない。また、何事においても自信が持てず、打たれ弱い。 「子どもの気持ちを受け止める姿勢」「子どもに不足不満を言わない」「勇気づける対応」を心がけて、親子の距離を縮める。
子ども上位 親が子どもの言いなりになっていて、子どももそれが当然であるかのように振る舞っている。子どもは自分本位でワガママ、自立心が低く、忍耐力がなく、親が何を言っても聞かない。驚くほど小さな理由の「挫折」で不登校になることが多い。 自分でできることは、親は手伝わないようにする。
親の支配が強い 子どものことを親が思い通りに動かそうとし、会話の中にメシテイが多い。子どもは親の圧力から自分を守るために、自分で考えずに親に何でも聞くようになる、または抵抗行動に慣れてしまい、人の話を素直に聞けない言い訳がましい性格になる。 干渉を避け、子どもの意思や考えを尊重し、親の価値観を押し付けないようにする。
親が期待過剰 親の会話のほとんどが「子どもを褒めること」と「子どもを叱ること」になっている。成績が下がったり、思いのほか成績が上がらなかったりした時に親がヒステリックになりがちである。子どもは家庭内で極度のいい子だった時期があったり、家と外で態度が極端に違ったりすることがある。結果が出なくなると、異常に卑屈になる。友達に対しても成績という物差しで判断するので、うまく人間関係が作れないこともある。 ありのままでいいと伝え、結果が出なくても頑張りは認める。親の価値観を押し付けないことを意識し、特に成績についてのメシテイは控える。

現在の日本では、不登校は「問題行動ではなく、選択肢の1つ」と言われても、学校教育と同等の選択肢にはなっていません。不登校はブランクにならざるを得ず、それを後から埋めるための家庭・本人の負担がとても大きいのが現状です。学級担任が個々の不登校児童生徒のために非公式に通信制のカリキュラムを実施するのも非現実的です。今後、ホームエデュケーション/ホームスクーリングの制度面・費用面の問題が解決されても、保護者の精神面(子どもと離れる時間が持てない、子どもを一人で留守番させておくのは不安など)の負担は残ります。同年代の友達作りや体育等の機会を別に十分用意するのも大変ですし、学校教育が基本になるのは変わらないと思われます。

「行く場所(仕事)と帰る場所(家庭)があって初めて人生を楽しめる」と言われています。子ども時代には学校という「行く場所」が与えられているわけですが、そこへ行きたいのに行けなくなってしまっている子ども達が、1日も早く、1人でも多く、他の子どもと同じように「自分の思い通りにならないつらいこと」が多い中から「楽しい瞬間」を見つけたり、作ったりできるようになるために、正規の教育機会の在り方を社会全体で考え直す必要があるのではないでしょうか。

参考資料
  • 海野和夫(2016)『Q&A不登校問題の理解と解決』日本評論社
  • 水野達朗(2015)『無理して学校へ行かなくていい、は本当か-今日からできる不登校解決メソッド-』PHP研究所
  • 河合隼雄(2009)『いじめと不登校』新潮社
  • 大橋博(2004)『そして僕らは学校に帰った。-不登校からの回帰 高校生21人の証言-』エージー出版
  • 荒井裕司(2000)『ひきこもり・不登校からの自立』マガジンハウス
  • 貴戸理恵、常野雄次郎(2012)『不登校、選んだわけじゃないんだぜ! 増補』イースト・プレス
  • 手島純(2017)『通信制高校のすべて-「いつでも、どこでも、だれでも」の学校-』彩流社

構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 江本真理子

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