意外と知らない"特別支援教育"(2) ~視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱~
皆さんは特別支援学校を訪問したり、特別支援学校の児童生徒と交流した経験はありますか。第2回では、特別支援学校が対象とする障害種である、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱について紹介します。
区分 | 項目 |
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1.健康の保持 | (1) 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。 (2) 病気の状態の理解と生活管理に関すること。 (3) 身体各部の状態の理解と養護に関すること。 (4) 障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること。 (5) 健康状態の維持・改善に関すること。 |
2.心理的な安定 | (1) 情緒の安定に関すること。 (2) 状況の理解と変化への対応に関すること。 (3) 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること。 |
3.人間関係の形成 | (1) 他者とのかかわりの基礎に関すること。 (2) 他者の意図や感情の理解に関すること (3) 自己の理解と行動の調整に関すること。 (4) 集団への参加の基礎に関すること。 |
4.環境の把握 | (1) 保有する感覚の活用に関すること。 (2) 感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること。 (3) 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。 (4) 感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること。 (5) 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。 |
5.身体の動き | (1) 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。 (2) 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。 (3) 日常生活に必要な基本動作に関すること。 (4) 身体の移動能力に関すること。 (5) 作業に必要な動作と 円滑な遂行に関すること。 |
6.コミュニケーション | (1) コミュニケーションの基礎的能力に関すること。 (2) 言語の受容と表出に関すること。 (3) 言語の形成と活用に関すること。 (4) コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。 (5) 状況に応じたコミュニケーションに関すること。 |
■視覚障害
矯正視力が0.3未満になると、通常の学級での学習に何らかの配慮が求められ、0.1未満になると常に配慮が必要になると言われています。0.1未満であっても0.02くらいまでは様々な工夫や配慮で普通の文字を使って学習ができると言われています。
視覚障害特別支援学校の教室では、同じ教室で触覚や聴覚など視覚に代わる感覚を主に活用している子どもたち「見えない子・点字」と、残された視力を使いながら聴覚や触覚を補助的に活用している子どもたち「見えにくい子・墨(すみ)字」がともに学習しています。例えば、全盲の児童は点字の教科書を置いて、(玉が勝手に移動しない視覚障害者用の)そろばんで計算していて、隣の弱視の児童は拡大教科書を置いて、拡大読書器を使って拡大したマス目のあるノートに筆算をしていたりします。
また、スクールバスだけでなく、通学に90分以上かかる小学3年生以上向けに寄宿舎が用意されていています。幼稚部があり、3歳の子どもから通学しています。
点字の読み書き (全盲の児童生徒) |
手で見る学習絵本「テルミ」なども活用する。300~400文字を、時間を計って速く読めるまで何度も読む(小学5年生で300字を5回目で1分半)など |
目の代わりになるような手指の使い方 | 恐怖を克服する、ボタンをはめる、小さいボールをスプーンですくって移す、紐を結ぶ、大小の丸を型にはめる、穴に棒を挿すなど |
歩行技術 | 校外で白状を使って確実に一人で安全に歩く、校内で手を使った伝い歩きをするなど |
補助具の使い方 | 触って分かるディスプレイ(点字ディスプレイ)、描いた図形や文字がそのままの形で浮き上がる表面作図器(レーズライター)、画面読み上げ装置、弱視レンズと呼ばれる望遠鏡(単眼鏡)やルーペ、拡大読書器、点字プリンターの使い方など家庭で購入するには高価なものもあり、課題となっている。 パソコン操作もマウスは使わず、キーボードでの操作を習得する。タッチタイピングも音声だけでキーボード入力をマスターできるように開発された練習ソフト「ウチコミくん」などを使って練習する。 |
■聴覚障害
程度 | 聴力レベル | 聞こえ方 |
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軽度 | 25~50デシベル | 普通の会話は聞き取れるが、ささやき声や小さな声は十分には聞こえない。 |
中等度 | 50~70デシベル | 大きな声は聞こえるが、普通の会話の内容は半分ぐらいしか聞き取れない。 (60デシベル以上から、リスニングテストの免除が検討されます。) |
高度 | 70~90デシベル | 大きな声でも半分ぐらいしか聞き取れず、普通の会話はほとんどわからない。 |
重度 | 90デシベル以上 | 大きな音もほとんど聞こえない。 |
また難聴には「伝音性難聴」と「感音性難聴」があります。伝音性難聴は補聴器で音量を大きくすれば聞こえますが、感音性難聴は音を大きくしてもすっきり聞こえず、音を大きくし過ぎると余計に聞きづらくなることもあります。聴覚障害特別支援学校に通うほとんどの児童生徒は、感音性難聴と呼ばれる種類の難聴です。これは単に聞こえにくいだけでなく、様々な聞こえのひずみを生じるもので、補聴器で音を増幅しても、子音が入らなかったり、ゆがんだ音として聞こえるため、言葉を聞き取るのが困難です。
児童生徒は、たくさんの雑音の中から必要な音を効果的に聞き取れるように適切な補聴器を選択し、毎日点検・調整する技術を習得する必要があります。週に2時間程度ある自立活動の時間には、個別の発音の指導があります。小学部低学年では、ろうそくの火を使って呼気の強弱をコントロールする練習など、高等部でもサ行音の明瞭度を上げる練習などが行われています。
教室にはマイクなどから入った音を、電気信号や赤外線による信号に変換して受信/光器に送り、よりクリアな音を補聴器や人工内耳に届ける集団補聴システムが導入されています。先生が黒板の方を向いていると、手話や口の形が見えないので、板書はほとんど予め用意した紙を貼ったり、パソコンでスライドを投影したりして代替しています。また、校内放送やチャイムをディスプレイに表示する「見える校内放送」の導入が進められています。保護者が子どもとのコミュニケーション手段などを学ぶために、幼稚部に入る前の乳幼児を受け入れるクラスが用意されている学校も多くあります。
■知的障害
程度 | 割合 | 知能指数 (IQ) | 最終的な学業レベル | 生活能力 |
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軽度 | 約85% | 51~70 | 小学校卒業程度 | 衣食住などの日常生活はほぼ問題なく送れる。本人や周囲を含めて知的障害であることに気付かずに社会生活を営む人も多い。 |
中度 | 約10% | 36~50 | 小学校低学年程度 | 時間をかければ十分コミュニケーションが取れる。適切な監督下で軽度の単純作業の仕事に就くことができる。 |
重度 | 約4% | 21~35 | (3~6歳程度) | 単語程度の会話が可能で、訓練によりある程度身の回りの世話はできるようになるが、保護や介助が常に必要になる。 |
最重度 | 約1~2% | ~20 | (3歳未満) | 言葉がほとんど話せず、運動能力もほとんどないため一日中ほぼ寝たきり状態になるが、喜怒哀楽の表現ができる。 |
月 | 火 | 水 | 木 | 金 |
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日常生活の指導 | ||||
国語・数学 | ||||
体育 | ||||
国語・数学 | 生活単元学習 | 作業学習 | 国語・数学 | 国語・数学 |
生活単元学習 /社会性の学習※ |
総合的な学習 | 体育 | ||
給食・昼休み | ||||
国語・数学 | 清掃活動 | 日常生活の指導 | 清掃活動 | 国語・数学 |
体育 | 美術 | ー | 生活単元学習 /社会性の学習※ |
音楽 |
日常生活の指導 | 日常生活の指導 |
日常生活の指導 | 着替え・排泄・食事などの基本的生活習慣や集団生活の決まりなどを学習する。 |
生活単元学習 | 生活に必要な事柄(季節行事・公共施設の利用・調理他)を実際的・総合的に学ぶ。 |
社会性の学習 | 自閉症の児童生徒が、対人関係や社会生活に関わる行動について段階的に学ぶ。 |
作業学習 | 作業活動を中心に置き、生徒の働く意欲を培い、将来の職業生活や社会自立に必要な事柄を学習する。農耕、園芸、紙工、木工、織物、窯業、印刷、調理、リサイクル作業などがあり、学校によって3種目程度選択し、実施している。 |
自立活動 | 重度・重複学級の児童生徒が運動・手の操作やコミュニケーションなどについて学ぶ。 |
■肢体不自由
肢体不自由の特別支援学校には、医療的ケアを必要とする児童生徒が特に多く在籍し、そのために看護師が配置されています。2012年からは研修を受けた教員はたんの吸引、経管栄養等を実施できるようになりました。東京都では教員とほぼ同数の学校介護職員(移動介助、食事介助、排せつ介助、学習補助等を行う)も配置されています。
例えば、準ずる教育課程では週1時間、知的障害を併せ有する児童・生徒の教育課程は週4時間、自立活動を主とする教育課程は週9時間程度の自立活動の時間があります。
自立活動を主とする教育課程では、教科書は絵本を活用しています。給食の時間も自立活動の時間の指導として設定し、総授業時数に含めている場合もあります。口から食べることができる児童生徒には、ペースト状、絹豆腐くらいの硬さ、缶詰の桃くらいの硬さなど各児童生徒に合わせた練習食が用意されます。
これからプールの季節になりますが、水の中では少しの筋力で体を動かせるので、リラックスでき、楽しみにしている子が多いそうです。
通学が困難な場合には、自宅や療育施設を教員が訪問して授業を行っています。
国語 | |
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小学部1年 | ノンタンあそぼうよ① ノンタンブランコのせて(偕成社) |
小学部2年 | こどものとも傑作集 おおきなかぶ(福音館書店) |
小学部3年 | ねずみくんの絵本① ねずみくんのチョッキ(ポプラ社) |
小学部4年 | こどものとも傑作集 ぐりとぐら(福音館書店) |
小学部5年 | 14ひきのシリーズ 14ひきのピクニック(童心社) |
小学部6年 | こどものとも傑作集 めっきらもっきらどおんどん(福音館書店) |
中学部1年 | 世界傑作絵本シリーズ ブレーメンのおんがくたい(福音館書店) |
中学部2年 | 日本むかし話 おむすびころりん(偕成社) |
中学部3年 | 日本傑作絵本シリーズ こんとあき(福音館書店) |
社会 | |
小学部3年 | かばくん・くらしの絵本② かばくんのおかいもの(あかね書房) |
小学部4年 | 幼児絵本シリーズ ゆきのひのゆうびんやさん(福音館書店) |
小学部5年 | ロングセラー絵本 でんしゃでいこうでんしゃでかえろう(ひさかたチャイルド) |
小学部6年 | せとうちたいこさんシリーズ デパートいきタイ(童心社) |
中学部1年 | あたらしいのりものずかん4 東京パノラマたんけん(小峰書店) |
中学部2年 | はじめてちずかん2 ドラえもんのにほんちず(小学館) |
中学部3年 | はじめてちずかん1 ドラえもんのせかいちず(小学館) |
算数・数学 | |
小学部1年 | ブルーナの絵本1 まる、さんかく、しかく(福音館書店) |
小学部2年 | とけいのえほん(戸田デザイン研究室) |
小学部3年 | 五味太郎の絵本⑨ いろ(絵本館) |
小学部4年 | プータンいまなんじ?(ジュラ出版局) |
小学部5年 | 五味太郎のことばとかずの絵本 かずの絵本(岩崎書店) |
小学部6年 | 五味太郎のことばとかずの絵本 すうじの絵本(岩崎書店) |
中学部1年 | バーバパパ知識のえほん3 バーバパパかずのほん |
中学部2年 | はとのクルックのとけいえほん(くもん出版) |
中学部3年 | わらべきみかのスキンシップ絵本5 かずのえほん(ひさかたチャイルド) |
理科 | |
小学部3年 | かがくのとも傑作集 みんなうんち(福音館書店) |
小学部4年 | 写真でわかるなぜなにシリーズ④ しょくぶつ(世界文化社) |
小学部5年 | くもんのせいかつ図鑑 くだものやさいカード(くもん出版) |
小学部6年 | 幼児絵本シリーズ やさいのおなか(福音館書店) |
中学部1年 | 葉っぱのフレディいのちの旅(童話屋) |
中学部2年 | しかけ絵本の本棚 からだのなかとそと(評論社) |
中学部3年 | 地球環境のための本 科学絵本 マザーツリー(小学館) |
■病弱(身体虚弱は特別支援学級の対象になります)
慢性疾病を抱えている子どもの約9割は、小・中学校に在籍しており(その約9割はほぼ毎日登校しています)、特別支援学校に在籍している子どもは約1割と少数です。特別支援学校は病院などに併設・隣接する場合が多く、入院中の子どもは病院内の教室に登校し、午前も午後も授業を受けます。儀式や行事もあります。
自宅・病室からの通学が困難な場合や、院内学級の無い病院に入院している場合には、教員がベッドサイドを週3回程度訪問して、1回120分程度授業を行っています。現在は小・中学校に通学できるくらいの体調だけれど、その学年の授業に付いて行けなくなってしまったり、体育の授業を見学するのがつらい、介助が必要だが小・中学校に看護師がいないなどの理由で、特別支援学校に自宅から通学している子どももいます。
■まとめ
障害のある人もない人も、互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らしていける社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念に基づき、特別支援学校の児童生徒と小中学校の児童生徒の交流が推進されています。近隣の小中学校と合同でクラブ活動を行っている学校もあります。東京都等には居住地域の小・中学校と交流するための制度(副籍制度)がありますが、学校・学級便りの交換をする程度の場合が多く、課題となっています。
第3回では、言語障害、自閉症・情緒障害、発達障害について紹介します。
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参考資料
- 文部科学省 特別支援教育
- 東京都福祉保健局 慢性疾病を抱える児童等の実態調査結果をまとめました
- 東京都立葛飾盲学校 学校案内
- 東京都立大塚ろう学校 学校案内
- 東京都立王子第二特別支援学校(2019年度より王子特別支援学校に統合) 学校案内
- 東京都立北特別支援学校 学校要覧
構成・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 江本真理子
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