2003.09.23
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カツオの秘密を探ろう! 東京都水産試験場・葛西臨海水族園

水産試験場と水族園が協同で企画した総合学習のためのワークショップ「カツオの秘密を探ろう!」が開催されました。集まったのは、東京都内の小中学校の先生方52名。参加者たちは久々の猛暑の中、さまざまな角度からカツオを探る一日を過ごしました。

 

■ 魚類のコスモポリタン、カツオに迫る

 今回のテーマは「カツオ」。まずは、「カツオの生態と漁業」と題したお話を聞きます。東京でカツオ?水産?と思う方も多いかもしれませんが、東京都の管轄となる海域は東京湾から小笠原諸島までと広範囲で、なんと200海里水域の45%を占めているそうです。水産業も盛んで、大きく3つに分けることができます。伊豆諸島や小笠原諸島周辺海域を漁場とした島しょ漁業、東京湾を漁場とした内湾漁業、多摩川・江戸川を主な漁場とした内水面漁業です。その総漁獲量の9割近くを占めるのが、島しょ漁業。さらに漁種別漁獲量を見てみると、全体のおよそ3割がカツオ類だそうです。 群れをなして回遊するカツオは魚類のコスモポリタン。黒潮系の暖かい水流に乗って日本近海を北上し、通常4~5月には八丈島沖を来遊、そのころ漁獲量も最大となります。

 伊豆諸島周辺海域で行われているカツオの一本釣りのVTRを見て、次々と釣り上げられるカツオに「わぁー」と歓声をあげる先生方。ワークショップは、漁で実際に使われる漁具を触ったり、試験場の職員の皆さんに質問することからスタートしました。

 次に、3つのグループに分かれてのグループ学習。
「カツオを観察してみよう」では、普段は切り身や加工品でしかお目にかかる機会のないカツオの大きさや重さを測定し、ひれの形やえらなどを観察しました。また、体長(尾叉長)の測定やうろこの年輪、魚の平衡感覚をつかさどる器官「耳石」を顕微鏡で観察し、魚の年齢を知る3つの方法を学習しました。
 


今日の主役、カツオ

うろこを取ってみましょう

カツオに歯はあるかな?

 「カツオの食利用」では、カツオの代表的な加工品、鰹節にスポットをあて、その製造工程を学び、鰹節削りを体験しました。自分で削った鰹節はお土産になるため、「今夜の夕食に使うわ」と、パック詰めされた鰹節ばかり目にしている先生方は大奮闘。室内は鰹節の芳香に満ちていました。
 


鰹節の製造工程を
学びます

夢中で鰹節を削る
先生方

赤いシールは手前の
目印

 最後の「カツオを解剖してみよう」では、赤身の魚カツオと白身の魚マダイの筋肉を比較し、その働きの違いを考えました。また、えらや内臓を切り取って観察するなどカツオの体のつくりにも着目し、水族園での観察の予習を行いました。
 


カツオとマダイの比較

赤身の筋肉は・・・

解剖に釘付けの先生方

 


移動はなんと水上バス
■ 水上バスで昼食、目指すは葛西臨海水族園

 試験場でのグループ学習が終わると、水上バスを乗り継いで葛西臨海水族園へ。この移動時間を利用して各自用意した昼食を食べます。同席した先生同士、おにぎりを片手に話したり、甲板へ出て景色や周囲を飛ぶ野鳥を眺めたりと、すっかり遠足気分を味わいました。
 
 

■ 生きたカツオから学ぶもの

 次は、場所を葛西臨海水族園へ移して、「生きたカツオから学ぶ」プログラムへ。葛西臨海水族園は、東京江戸川区の葛西臨海公園内にある水族館。東京湾に浮かぶようなガラスドームが目印で、都内はもとより、近郊から多くの家族連れやカップルが訪れる観光スポットです。

 まずは、水族園自慢の「アクアシアター」での観察。アクアシアターは、1周90m、2200トンのドーナツ型大水槽で、マグロ・カツオの仲間の泳ぐ姿を間近で観察することができます。先生方は、水族園の坂本和弘園長から説明を聞きながら、水槽内の魚たちを観察しました。先ほど試験場で習ったカツオの特徴を思い出し、方向転換するときのヒレの動きに注目したり、給餌の様子に歓声をあげたりしました。その後、「渚の生物」水槽で、試験場でカツオと比較したマダイの泳ぎ方やヒレの使い方も観察しました。
 


坂本園長からお話


餌に群がるマグロたち


次はマダイを観察

 次は、水族園のバックヤードツアーです。普段、見ることのできない水族園の裏側に迫ります。水族園の裏側は、予備の水槽や餌を作るための調理室、大きなろ過設備など表側以上に興味のあるところ。アクアシアターを上から観察してみたり、巨大なろ過装置の仕組みは家庭用の水槽と同じだったり、透明度の高い水にするためにオゾンを利用していたり・・・、目にするものひとつひとつに驚きの連続でした。


餌は小魚やイカなど

ろ過装置の仕組みは・・・

アクアシアターの上から


 


52名の先生方が集合!










暑い中、お疲れさまでした





 
■ 水族園はすそ野を広げる場、水産試験場は深める場

 水産試験場資源管理部主任の岡村陽一さんは、今回のワークショップ開催までの経緯をこう話してくださいました。
 「"総合的な学習の時間"が創設され、かねてから都の試験研究機関は産業振興ばかりでなく都民に目を向けるべきだという指摘もいただいておりましたので、昨年、都の水産課で"水産業普及指導の概要"を定めました。また、平成16年度から5年間の「東京都水産業振興プラン」では、アクションプログラム15「海の学校」として次の2点をうたっています。

 1.豊かな子供の心をはぐくむ体験学習を推進します
 2.海で漁業を体験できる機会を増やします


 水産試験場の奥多摩・大島・八丈の各分場では従来から近隣の小学校とアサリの放流やヤマメの稚魚の育成・放流、潮間帯の生物教室などを実施していましたが、総合的な学習とは少し内容が異なっていました。そこで、都の教育庁教育政策担当副参事や都の社会科研究会の先生からお話を伺って勉強してみると、都の農業試験場と林業試験場はすでに学童農園設置推進事業などの先進的な取り組みを行っていて、相当出遅れていることにも気付きました。そこで、教育機関としての歴史が長く、豊富なノウハウを持っている葛西臨海水族園から教えていただくこととなり、今回の協同開催までこぎつけました」

 また、それぞれの施設の役割と協同で実施するメリットについて同水族園園長の坂本和弘さんにお話を伺いました。
 「水族園は間口が広く敷居が低いため、いろいろな人が気軽に訪れてくれます。一方、水産試験場は研究テーマを探求して、生き物の生活を研究し深めていきます。 いわば"水族園はすそ野を広げ、水産試験場は深める"という相乗効果が期待できると思いました。 
 また、水族園と水産試験場、両方の勤務を経験した私には、水産試験場のコンテンツってすごく魅力があるのです。あの広い(小笠原から東京湾まで)東京都の海面にはいろいろ面白い生物が生息していて、それらを調査研究している試験場の仕事って興味深いことがたくさんあるなと思いました。そこで、それぞれ単独では行いにくい「生きているカツオの観察」、「生きた漁業や解剖と観察」などのワークショップを協同で行い、バリエーション豊かな展開ができればと思いました」

 このワークショップの前日には小学校4年生以上の子どもと保護者を対象にした「夏休みお魚教室」も開催されました。こちらもほぼ同じような内容のプログラムでしたが、両日を振り返って坂本さんは、
 「両日ともに他の募集で集まる参加者よりも、探求心旺盛な人が集まった気がします。こちらが促してもなかなか、魚を触ろうとしない子どもも多い中、今回は「もう終わりにしようね」というまでやめない子どもたちや、カツオの解剖では「あそこもここも切って!」というリクエストをする子もいました。
 ただし、初めてのコラボレーションであり、あれもこれもと欲張りすぎたかもしれません。試験場でのコンテンツもその倍の時間を掛けても良い物ばかりでしたし、水族園でも休み時間なしで炎天下の中、観察やまとめを行いましたので参加者は余計に疲労されたと思います。
 今後も、水産試験場の"生きの良い研究成果"を広く都民に伝え還元し、水族園の"展示・教育普及活動の奥行き"を深め、島しょ海域などフィールドに思いを馳せる、足を運んでもらえるような"生きた教育普及活動"の効果的な展開に期待したいです。またこれらのコンテンツは学校教育の幅を広げ、総合的な学習のきっかけや展開の一例としても機能することを期待しています」と予想以上の好結果に満足しているようでした。

 最後に、岡村さんから先生方へこんなメッセージが、
 「実際に島しょに出かけるのは大変ですし、都内には大きな漁港がなく、水産は取り組みにくいテーマかもしれませんが、葛西臨海水族園や多くの海浜公園、教室の水槽などから水生生物に触れ、疑問を持つところから魚の食利用、漁業、輸送、販売などに発展していく学習方法も可能ではないかと思います。例えば、今回使用した時季はずれのカツオは日本の台所、築地場内市場から譲っていただきました。ここにも子どもたちが興味を見いだす場があると思います。水産試験場の学習への利用のために、現在メニューを作成しておりますので、ぜひ試験場や水族園をご利用ください」
 

(取材・構成:学びの場.com)
 


 

■ 関連リンク
葛西臨海水族園

 

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