2003.02.11
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体感型シミュレーションゲームで起業家教育 川口市立芝西小学校

川口市は、平成14年に経済産業省がスタートした「起業家教育促進事業」のモデル自治体に選ばれ、市教育委員会のよびかけにより応募・選出された24の小中学校で、「起業家教育」が行われている。今回は、24校のうちの1つである川口市立芝西小学校の6年1組の授業の様子を取材した。

 







 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
将来何になりたい?
 
 
 


 








え、これだけでどうやって作るの?
 

お金も技術もあるけど、資源がない!
 
 
 
 
 
 
 
 
 

きれいに作らないと高く売れないよ!
 

交渉係りが外国と取引
 

インターネットで情報がどこよりも早く届いた!
 
 
 
 
 
講師の長曽崇氏
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
6年1組担任の木村先生
 
 
 




野島邦彦校長先生
 
 
 
 

 

  「起業家教育促進事業」は、「起業家マインド」を有する人材の育成・輩出を目的とし、主に小中学校の生徒を対象として、起業家やビジネスマンに必要とされる「課題発見力」、「問題解決力」、「交渉力」、「想像力」、「決断力」といった能力を楽しく学び、体験しながら身につけるなどのモデル授業を普及させようというもの。

 実際に授業を行うのは、経済産業省より委託を受けた民間企業で、川口市では、株式会社ウィル・シード(本社:東京都港区赤坂)が市教育委員会の協力のもと、授業の企画運営を行っている。ウィル・シードは、もともとシミュレーションゲームによる企業研修を多く手がけてきた。今回の授業では、同社が独自に開発した社会人向けのトレーディング・ゲームを小学生向けにアレンジして、実際に子ども達に体験してもらう。さて、どのような授業が展開されるのだろうか。

●子ども達にとってビジネスのイメージって?

 今回の授業は、1時間目から5時間目まで通しで行われる。最初は、

 「みんなどんなビジネスや仕事を知っている?」
 「将来何になりたい?」

といった質問を子ども達に投げかけ、子ども達に、社会やビジネスに意識を向けてもらうことからスタート。
 
 「ビシネスってどんなイメージ?」
という質問には、

 「大変そう」
 「ストレスが溜まりそう」
 「みんなで力を合わせてがんばってる感じ」

などなど。なんとなく「大変そう」というイメージがあるようす。これが、体感型ゲームの後、どう変わるのか。

●時間内に一番稼いだ国が勝ち!

 さて、いよいよゲームの開始。子ども達は、「ライオン王国」「シマウマ王国」など8つの国に分かれる。各国に封筒が配られ、子ども達は中に入っている道具を使って製品を生産し、ゲーム終了時までに最もたくさんのお金を稼いだ国が勝ち。これがゲームのルール。
 「ゲームスタート!」
の声とともに封筒を開ける子どもたち。

 「えー、どういうこと!?」
 「何?これでどうするの?」
とあちこちから声がする。

 封筒の中身は、文具やお金など、それぞれ資源や技術力を象徴するものが入っている。中身の配分は国によってさまざまだ。
 呆然としていた子ども達も、それぞれ自分たちなりに動き出す。とにかく道具を調達しに出かける子、製品作りを始める子。


 途中、1回作戦タイムがある。ここで子ども達は
 「とにかく高く売れるものを作ろう」
 「安いものを早く作って売りまくろう」
 「銀行の金利で儲けよう」
 「情報を集めてそれを売ろう」
などのアイデアを出し合う。

 最初はやみくもに走り回っていた子ども達も、製品作りに専念する子、外国に行って交渉をする子、製品を売って銀行にお金を預けに行く子、などいつのまにか役割分担ができている。
 他国の状況を探るろうと、動き出すメンバーも出てきて、ゲームはにわかに熱気を帯びてくる。情報がある国は、リスクを未然に防げるようになり、情報のない国との格差がどんどん広がっていく。
 そして突然
 「ゲーム終了!」の声。
 「ええ~!?」

 急に緊張が解け呆然とする子ども達。しかし誰もが顔を上気させ、口々に「面白かった!!」「もっとやりたい!」と満足気だ。
 ゲームの後、順位発表が行われ、講師によってゲームに込められていた意味の種明かしをする。ここで初めて子ども達は、市場原理、国連の役割、リスクといった難しいことがらを、言葉ではなく実体験をもって理解するのだ。

●ゲームのねらい

 このゲームの面白さは、資源もお金も十分にある国が必ずしも勝つとは限らず、最初はさみも鉛筆もなかった国が、上位に食い込むなどの意外性があるところ。しかし、大切なのは、勝ち負けではない。

 「このゲームでは突然、予想外の事件も起こりますが、それに対し、あーもうだめだ、とあきらめるのではなく、そこからどう立て直すか考える、自分だけ得するような条件では交渉がうまくいかないので相手にとっても利益になるような交渉を考える(win winの考え方)、最初の計画がうまくいかなかったら計画を見直して戦略を立て直す、など、実際のビジネスにも通用する考え方を、実際の体験から知らず知らずのうちに身につけるということが最大のポイントなんです」と講師を務めたウィルシードの長曽崇氏。

 「今回のゲームは、子ども用にアレンジはしていますが、特にレベルを低くしたわけではなく、基本的には大人の研修に使うものとあまり変わりません。敢えて高いレベルのものを見せることによって、関心を促進することがねらいです。今回、市場原理とか国連とか難しい言葉がいくつか出てきましたが、これらを全部、今理解できなくてもいいんです。後になって、ああそういうことだったんだ、と気づくような種をいっぱい蒔いてあげたいと思っているのです」

 子ども達にも感想を聞いてみた。

 「今まで知らなかったことがいっぱいわかって楽しかった」
 「物がたくさん出回ったら安くなったり、少なかったら高くなったり。こういうことが市場原理なのか、となんとなくわかった」
 「お母さんにも貯金ばっかりしてたってダメだよと教えてあげようと思った」
 「よのなかには予想外のことがいっぱいあるんだとわかった」
 

 今までニュースで見て遠い国の出来事と思っていたような事件が、特別なことでもなんでもなくて、身近にも起こりうる、あたりまえの社会の仕組みの一部なんだとわかった、その驚き、興奮が伝わってくる。

 また、
 「最初は大変そうと思っていたけど、仕事は楽しい。ゲームをやっているうちに友達との関係が深まることに驚いた。」
 「A君は交渉がすごくうまい。Sさんは思ったことをすぐ実行する。T君はアイデアがすごく豊富。同じ班の人の行動におどろいた」
など、人と協力することの大切さへの気づきもあったようだ。

 長曽氏は、こういったことこそが、この授業の最大のねらいなのだという。

●初めての企業との連携。期待以上の収穫が

 「初めて会う講師の方に対し、子どもが緊張して、ゲームにうまく乗れないのではと心配でしたが、うまくいってほっとしました。今回のゲームに出てくる用語や内容は6年生には少し難しかったかも知れないですが、将来子ども達が進路を選択する時にきっと役立つのではと思います」と、担任の木村先生。
 同じ日に、このトレーディング・ゲームを体験した6年生の2組、3組の担任の先生がたからも、
 
 「実社会のしくみが知らず知らずに身についたのではないか」
 「生きる力を示唆するものになったのではないか」
 「社会や経済に関心を持つきっかけになったのではないか」
など、の感想が聞かれた。

 校長の野島邦彦先生には、今回の授業の経緯についてお話を伺った。
 「川口市はもともと産業の町として栄えてきましたし、起業家教育は子どもたちの生きる力を育てるうえでも重要。そこで、市の教育委員会からの呼びかけに手を上げたのです。
ただ、今回のような企業との連携については初めてのことでもあり、多少不安はありました。しかし、事前にウィル・シードの実績を調べたり、6年の担任と教務主任の4人に、実際に同じゲームを使った研修を体験してもらい、大変よい内容だという報告を受けたことで、実施に踏み切りました。6年生の総合学習の『日本と世界の結びつきを知ろう』というテーマや、3学期で学習する社会の単元とも合致していましたし都合がよかったのです」

 「起業家」なんて小学生は言葉すら聞いたことがないだろうし、授業で取り組むのは難しいのでは、と思っていたが、そんな心配は無用のようだ。子ども達は、言葉より先に、体験で多くのことを吸収できたに違いない。

(取材・構成:学びの場.com)

 



芝西小学校のホームページ
http://www.sch.kawaguchi.saitama.jp/shibanishi-e/
ウィル・シードホームページ
http://www.willseed.co.jp


 

 

 

 

 

 

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