2012.05.22
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

言語活動の充実から全教科等の授業改善へ(vol.2) 44事例収録の「サポートブック」参考に幅広い活用促す ―横浜市教育委員会・横浜市立間門小学校― 後編

「言語活動の充実」に関する取材の依頼に対し、横浜市教育委員会は、体育を核に実践している市立間門(まかど)小学校を推薦した。なぜ体育なのか。全教科・領域等で言語活動を充実するという学習指導要領の意図を、どう捉えるべきなのか。市教委の平井佳江主任指導主事と、間門小の前田隆校長に聞いた。

担当者に聞く

1教科の研究を他教科への応用に。 言語活動が授業の在り方を変える

言語活動を取り入れ、授業改善にチャレンジする教師に

横浜市教育委員会事務局指導部 指導企画課 平井 佳江 主任指導主事 

学びの場.com(以下、学びの場) 『言語活動サポートブック――くりかえし指導したい44の言語活動』(時事通信社刊)は、横浜市が進める重点政策「言語力の向上」の下、作られたのですね。

平井佳江 主任指導主事(以下、平井) 本書は、小、中学校の各教科・領域等の学習から44の言語活動例を取り上げています。マニュアルのような印象を受けると思いますが、マニュアルから入るのも悪いことではありません。事例はいずれも、他の教科等に応用が可能なものです。いつも傍らに置き、パラパラとめくって「面白そうだ」と思ったら授業に活用してほしい、そうした授業を積み重ねることで授業は格段に変わるはず、どの教科等でも適切な言語活動をセレクトし、子どもが考える授業を構成できる教師になってほしい――。そんな願いで作りました。

本書は、子どもの実際の言語活動を想定して教材や作品例等を示しています。これにより授業設計の際、指導案検討から始めるのではなく、教材や作品例等の研究から入るという活用方法も可能です。教材や作品例等の検討から始めると、指導すべき内容や無理のない単元デザインを考える手がかりになりますから。いわば“逆転の発想”ですね。まずは、その単元で目指す子どもの姿・ゴールを明らかにし、本書にある言語活動のモデル例を基に研究し、単元の全体像をデザインする。すると、教師がどう指導していくべきかのスモールステップが見えてきます。本書を活用し、言語活動を充実させることによって、授業改善につなげる、それも根底から覆すほどの大きな可能性があるとさえ思っています。

横浜市立間門小学校 前田 隆 校長

学びの場 「他の教科等にも応用が可能」という実例が、まさに間門小というわけですね。

前田隆 校長(以下、前田) 本校は伝統的に体育を研究してきた学校ですが、「体育だけ」の学校にはしたくありません。体育を核にした言語活動の充実によって思考力・判断力・表現力を育てることを、学校経営上の戦略にしたのです。体育の授業で本時目標を明確にし、思考力・判断力・表現力の育成に焦点を当て、教師の投げ掛け一つ取ってもあいまいな言葉ではなく、練り上げたものにする。そうした体育の研究によって他の授業も変わっていくことは、ある意味で当然です。本校の教師は「こんなやりにくい教科(体育)でできるのなら、他の教科でもできるようになる」と言っています。

周到に準備した教師だからこそ、子どもから言葉を引き出せる

学びの場 確かに体育では、運動や体の動きを説明すること自体が小学生には難しいですね。

前田 そう、体育は言葉だけで説明することが難しい教科です。準備していない教師は言葉だけで指導しようとするから、なかなか子どもに伝わりません。そこで、本校では作戦図や写真、学習カード等を使うようにしているのです。「ピコッ」とか「パコッ」といった擬態語のキーワードも、運動のポイントとして子どもに説明しやすくする仕掛けです。

子どもが体と言葉で実感でき、身体内部の情報を言語に置き換えることができた時、思考力が働くのです。ただ訓練されて技能だけが上達する体育学習ではダメ。子ども自身がどういう場面で、どう動くかを考えて出来る。あるいは、出来たから(その理由が)わかる。成功と失敗の理由を子どもが説明できることが大事なのです。

平井 体育は、言語活動という抽象的な概念を具体で見える形にできる教科です。子どもが実際の場面を通して、言葉で論理構成することができるのです。そのためには、教師の子どもへの投げ掛けが絞り込まれていなければなりません。今回の「タグラグビー」と「鉄棒」の授業でも、素晴らしいのは教師の言葉に無駄がない点です。事前に、教師の中で授業の組み立てが十分に成されていたからでしょう、子どもに発見させ、子ども自身の言葉で知識・技能を引き出していました。このように、子どもから言語活動を引き出しながら授業を進めていくのは、実は相当に難しいことです。よくよくスモールステップを捉えていないとできないものなのです。

とはいえ、言語活動自体は授業のツールにすぎません。あくまでその教科のねらいを実現するためにあるものです。言語活動を成立させるポイントは、言語活動が、(1)その教科のねらいに寄与するものか、(2)子どもの発達段階に応じているものか、(3)子どもたちの学び合いに寄与するものか――を見極めることにあります。その教科だからこそ実感を伴って獲得できる言葉、それが豊かであればあるほど子どもの力――思考力・判断力・表現力につながっていくのです。

また、言語活動によって学んだ知識・理解を活用して、定着させる学習活動もできます。言語活動の充実を目指すことで、教師自身も育っていくでしょう。ぜひ、わかる楽しい授業づくりに役立て、授業改善につなげていってもらいたいものです。

記者の目

新教育課程が始まった小学校では授業の遅れが生じているとも聞く。これは、学習指導要領の趣旨を十分咀嚼できないまま、厚くなった教科書を忠実に教えようとしているからではないか。子どもに確かな学力をつけさせる最大の力は教師の指導力向上と授業改善であり、そのための授業研究だ。「全教科等で行う言語活動」がまさにそれを求めているのだと、改めて認識させられた。

取材・文:渡辺敦司/写真:言美歩

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop