2021.01.18
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深い学びを追求する体育科学習(後編) 「主体的・対話的で深い学び」の単元構想についてインタビュー

大阪市立南住吉小学校で体育科教育を実践する丹羽功教諭は「主体的・対話的で深い学び」の単元学習指導に取り組んでいる。ソフトバレーボールの授業では各チームで子どもたちに主体的に考えて対話することを促し、それぞれのもつ個性や特徴を見事に引き出しながら、子どもたち全員が等しくゲームに参加し活躍する状況を見事に作り上げている。子どもたちが運動を楽しむだけでなく、チーム全体でゲーム作りをすることの大切さをしっかりと理解できるように指導する授業だった。

ソフトバレーボールによって「主体的・対話的で深い学び」を身につける授業リポートに続いて、後編では大阪市立南住吉小学校における現在の体育科教育や、小学校6年生を対象にどのような授業作りをしているのかなど、気になった点を丹羽教諭にインタビューした。

主体的に考え対話的に学ぶ体育科教育を

大阪市立南住吉小学校 丹羽功教諭

―大阪市立南住吉小学校での体育科教育について伺います。「主体的・対話的で深い学び」の単元学習指導について、どのように取り組んでいらっしゃいますか?

丹羽功(敬称略 以下、丹羽) 本校での「主体的・対話的で深い学び」を実現する単元学習指導は、本年度7月にスタートしました。私は、6年生体育の「ボール運動 ネット型 ソフトバレーボール」の単元で公開授業・授業づくり研修会を行うことになり、学習・指導方法改善の研究に取り組みました。

新学習指導要領になり、これまでの授業よりも技能面だけでなく思考判断面や表現する力、めあてに向かう態度などが重視されるようになったと感じています。技能面重視の授業では、運動が得意な子どもだけが活躍し、運動が苦手な子どもにとっては体育の授業はただ苦手意識を強める時間となってしまうことがありました。そのせいで運動の楽しさや継続の重要性を伝えきれない結果になれば、体育の授業における本来の目的からは遠ざかってしまいます。このような課題に対して、「主体的・対話的で深い学び」を意識した授業構成が打開策の一つになると考えています。授業では子どもたちがどんな考えをもっているかを知り、振り返りを充実させることで、単元を通して身に付ける力を明確にした授業づくりを目指しています。

―「主体的・対話的で深い学び」とは具体的にどのようなものでしょうか?

丹羽 単元を構想するにあたっては、何をもって「深い学び」とするのかを考えるところから始まりました。運動が苦手な子が成長するだけでなく、運動の楽しさを理解するためには深い学びへと導く必要性があると気づきました。

私が考える「主体的な学び」とは、学ぶことに興味や関心を持つようにする、見通しをもって粘り強く取り組む、自己の学習活動を振り返って次につなげるといったことです。「対話的な学び」に関しては、子ども同士の協働を進める、人との対話や先哲の考えを手がかりに考える、自己の考えを広げて深める。そして、そこから導き出される「深い学び」とは、見方・考え方を働かせ、知識を相互に関連付けてより理解し、想いや考えを基に創造すること、ではないでしょうか。

主体的な学びと対話的な学びから深い学びへと導くために、ただ運動するだけでなく、状況をよく見て知ること、そこから得た気づきを対話へとつなげることを意識しています。それによって子どもたちがアドバイスし合ってスキルの向上につながるだけでなく、自分自身の役割を見つけることができるようにもなります。そうして運動に対する苦手意識をなくし、運動が好きになるきっかけになればと考えています。

授業作りのねらいと工夫

―旧学習指導要領時代の単元学習指導からの変更点や意識した点は?

丹羽 活動と振り返りのバランスですね。各ゲーム後を中心として振り返りタイムを何度も設けていますが、かける時間はどれくらいがよいのか、試行錯誤を重ねて工夫しました。話し合いばかりでは体を動かす時間が減り、体育の授業ではなくなってしまいます。しっかりと運動をしながらも十分に対話の時間をとるため、それぞれの時間配分についてはかなり熟考を重ねて決めています。もちろん、領域や種目によって時間配分を変えています。

―今回の実践研究にソフトバレーボールの単元を選んだ理由は?

丹羽 体育館でできること、チームプレーを身につけること、この両方を満たしているスポーツということでソフトバレーボールを選びました。当校は児童の人数が多いため、週に一度は運動場が使えず、体育館で体育の授業を行う必要があります。前回の単元ではベースボールを選んでいたので、その学びを活かせるスポーツとしてソフトバレーボールがぴったりだと考えました。

現在のコロナ禍で、チームプレーを学ぶ意味はより大きくなってきていると感じています。自粛期間中、家でゲームばかりして過ごしていた児童はたくさんいます。「集団対集団」というチームプレーは今の状況だからこそ意識して学ぶ必要があるのではないでしょうか。

子どもたちの変化、今後の課題

―子どもたちの変化や単元学習指導の効果は?

丹羽 まず、子どもたちが物事を関連付けて考えることができるようになりました。ゲームが終わるたびに振り返り、次に活かす。振り返りタイムを一度の授業で何度も繰り返すことによってそれぞれのゲームのつながりを感じ、総体的な学びへとつなげられるようになりました。

また、子どもたちが話し合うことで自分にできていることは何かを確認し、コツやアドバイスをもらったり、逆に与えたりできるようにもなりました。周りを見て気づく力も養われてきています。チームの中で自分の役割を見つけ、友達と一緒に学べる喜びに気付き、子どもたちが体育を好きになってきたという実感があります。

一度の授業で子どもたち全員と会話できないこともありますが、ワークシートに考えを記入させるようにしています。子どもたちは話すだけでなく書くことでも自分を表現し、私はそれを読んで子どもたちをより深く知れるようになりました。

―これからの目標や課題について教えてください。

丹羽 運動に苦手意識を持っている子どもに運動の楽しさに気付いてもらうことです。支援が必要な子どもは動きがぎこちなかったり、伸びが遅かったりします。そのような子どもも運動ができるようになる手だてを考えて、指導を続けていきたいです。

もう一つ大切なことは自分の年齢や体力に応じて「生涯スポーツ」を続けていける子どもに育てることです。大阪市には、公園を設置できていない校区もあり、休み時間や体育の時間しか体を動かせない子どももいます。そんな中で学校教育ができることは何かをしっかりと考え、体を動かす習慣作りに力を入れていきたいです。運動って楽しいね、と子どもたちに言ってもらいたいですね。

記者の目

子どもたちが声をかけ合いながら主体的に動き、授業が進んでいく様子がとても印象的だった。どの子どもも積極的に動き活躍していたので、運動が苦手な子どもがいないのではと思ったほどである。取材の中で話されていた「子どもを育てるためには授業者の意識が大事」という言葉には、単元学習指導に取り組んでいる丹羽教諭からの強い意志を感じた。授業で培った主体的、対話的な学びの姿勢は、授業の外でも活かして役立てることのできるものであり、生活の場で実践することで学習の効果も期待できるのではないだろうか。

取材・構成・文・写真:学びの場.com編集部

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