2021.01.18
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深い学びを追求する体育科学習(前編) 「主体的・対話的で深い学び」を実現するソフトバレーボールの授業

2020年12月4日に大阪府の大阪市立南住吉小学校6年3組にて「主体的・対話的で深い学び」の単元構想に基づく、ネット型ソフトバレーボールの授業が実施された。

一般的な体育の授業における学習とは異なる、対話を取り入れた、気づきを促す授業とは一体どのようなものなのか。今回は同授業の様子をリポートする。

授業概要

学年・教科:小学校6年生 体育

単元:「ボール運動 ネット型 ソフトバレーボール」(全8時間・本時は8時間目)

授業者:丹羽功 教諭

使用教材・教具:ソフトバレーボール、バドミントンネット(バドミントンコートの広さを使用)、デジタルタイマー、ホワイトボード、ワークシート、筆記用具

まずは「めあての確認」と準備運動

「めあての確認」で作戦を見直していく

始業のチャイムが鳴る前から、体育館に子どもたちが次々と現れる。バドミントンネットを張り、ソフトバレーボールを出し、ホワイトボードを運ぶ。ホワイトボードや壁に作戦表やアタックのコツの書かれた紙を貼っていく。誰に言われることもなく、自発的に協力しながら授業の準備を進めていく。

「礼!」チャイムが鳴ると、30名の子どもたちが一斉に礼をして、授業は始まった。一般的には、出席確認と準備運動へと移るはずだが、本授業は大きく異なる。まずは体育館内のホワイトボードに各チームが貼り出した作戦を見直す「めあての確認」から始まる。ここでは、チームのめあてだけでなく、個人のめあても確認する。チームの作戦に基づいた個人のめあてを設定すること、さらにそれをチームの仲間と共有することが、より対話的で深い学びにつながる。教師が「見る」ことの重要性を説いていく。ゲームをよく見ている人からの声かけが多いチームは、点数も多くとっていたという前時の振り返りに、うなずく子どもたち。

その後、各チームを代表して子どもたちが1人ずつホワイトボードの前に出て、「アタックを上から強く打つ」「パスをするときに名前を言う」など今日の作戦を発表。発表が終わるとすぐに、各チームでの話し合いが始まった。作戦集のプリントを参考に、「自分は今日何を頑張るのか」を1分間で決める。主体的にテキパキと動き、決めていく姿が印象的だった。

作戦をまとめると、すぐに準備運動へ。全員起立して手の指を動かし、首回しを終えたらジャンプを10回。なお、新型コロナウイルス感染症対策のため、マスクは着用したままだ。

次は10分間のチャレンジタイム。レシーブ、トス、アタックなど、課題にあった練習を進めていく。先ほど確認したチームや個人のめあてに沿っているため、子どもたちはねらいをもって練習に取り組んでいる。また、チームの特徴を生かしたものになるように考えられていることもポイントの一つだ。5人ずつの合計6チームそれぞれが、課題にあった練習を進めていく。子どもたちの楽しそうな笑い声が体育館中に響いていた。

対話を深めるゲームタイム

教師が適宜アドバイスを行う

チャレンジタイムを終え、いよいよゲームがスタート。体育館の中にコートは3つ。すべてのチームが一斉にゲームに集中する。1チーム5人のうち、コート内でプレーするのは3人。残りの2人は得点表の管理や声かけを担当、チームのメンバーをサポートしていた。

実際にプレーしている子どもたち同士だけでなく、コート外の子どもたちも積極的に声をかけていく。授業の最初、「めあての確認」のときの教師の一言が思い出される。ゲームをよく見て、声かけが多くなれば、チームの点数につながるはず。「左!左、空いてる!」「こっち!パス!」と、どう動けばいいのか、アドバイスの声が響き渡っていた。

5分ぴったりでタイマーが鳴り響く。すぐに休憩に入るのかと思いきや、各チームの子どもたちがすぐに集合して話し合いを始めた。作戦集を見ながら、何ができていないのかを確認し合う。「アタックはちゃんと狙わなあかんで」など、点数をとるためにはどのような動きが必要か、それぞれの意見を出し合っていく。教師がチームの話し合いに入って「声かけが大事!パスするときはきちんと名前を言おう」とアドバイスをすると、子どもたちはしっかりと耳を傾けて聞き入っていた。

2分ぴったりで再びタイマーが鳴り響く。メンバーチェンジをしてコートに戻る子どもたち。1ゲーム目よりも大きな声でコートにアドバイスが飛び交う。「パス!パス!」うまく連携プレーができたら得点につながり、わっと歓声が起こる。教師もコートからコートへとアドバイスをしながら声かけをしていく。「みんなちゃんと声出して!」教師の存在に頼もしさを感じるのか、ボールを打つ手にしっかりと力が入って得点へと結びついていた。

5分のゲームの後、タイマーの音が鳴るのと同時に二度目の作戦会議が始まった。さっきの作戦はうまくいったのかどうかを報告し合う。「もっと上からアタック打たなあかんのちゃう?」「パスつなげるの難しい」うまくいかなかったのであればどうすればよいのかを話し合う。次のゲームが今日の最後になることもあり、子どもたちの目からは真剣な表情が伺えた。

タイマーの音で再びゲームがスタートした。今日の授業のラストゲームということもあり、さらに大きな声が体育館全体に響き渡っていく。「はーい!」「こっち!パス!」声かけをしながらチームの一体感はどんどん強まっていくようで、子どもたちが笑顔いっぱいでプレーしているのがマスク越しからでもわかるほどだ。「後ろ、空いてる!」「アタック打って!」レシーブでつないで相手のコート内にボールを落としていく。次々と得点を重ねていき、チーム内の熱が高まり続けている中、ゲームが終了した。

チームで再度集合し、個人の振り返りが始まった。「だいぶ声出てたで」「アタックするとき、狙ったけど難しかった」など、どれだけ作戦通りに動けたか、目標は達成できたか、どんなところがよかったか、どんどん意見を交換していく。ゲームの熱気が冷めないまま、子どもたちの対話が進んでいく。途切れることなく次々と意見が出続ける中、振り返りは終了した。

全体の振り返りタイムで対話をさらに深めていく

全体での振り返りタイム

個人での振り返りは各ゲーム後に行ったため、今度は全体での振り返りをもって今日の学びの確認となる。チームとしての振り返りを紙に書き、ホワイトボードに貼っていく。発表の時間だ。

作戦どおりのゲーム運びができたかどうか、チームの代表が答えていく。「一発返してうまく点をとれた」という子どもの返事に、どうやって点をとったのかを教師が質問する。また、「アタックを使い分けた」という回答に対しては、どんなタイミングだったかを質問。ここで再び各チームで話し合いが始まった。1分にも満たない時間でチームの意見をまとめ、各チームの代表が1人ずつ丁寧に発表していった。

今日の経験をどうやって次に活かしていくか、何を意識すればよいのか。自分の頭で考え、気づいたことをチームで話しシェアすることで、子どもたちの中に深く落とし込んでいく。授業は終わりに近づき、最後のストレッチが始まった。

「礼!」合図で礼をし、授業は終わった。一斉に子どもたちが片付けに動き始める。女子児童は主に貼り出していた紙を回収し、ホワイトボードを片付けていく。男子児童はコートのバドミントンネットを外して体育倉庫へと運んでいく。テキパキと手際よく動く子どもたちに、教師からの指示は何も必要ない状態だった。

主体的に、そして対話的に学ぶことの意味

言葉によるコミュニケーションを繰り返す

今回の授業は、従来の授業の流れである準備運動の後に練習、ゲームと進む形ではなく、要所で話し合いの場が設けられることが大きな特長だった。新しいやり方で取り組んでは振り返り、改善しながら取り組んでは振り返る、といったフローを繰り返す。言葉によるコミュニケーションを重視した内容であり、これまでの体育科学習よりも、より「深い学び」を重視する流れだった。

チームとしていかに機能させるか。そのためには深い対話が必要なのである。このことは体育の授業だけではなく、他のどのような場であっても同じである。主体的に動き、対話的に学ぶ。子どもたちが状況をしっかりと把握し、気づくことができるように教師が導いていくことが丹羽先生のねらいであり、この単元の大きな特長である。

後編では、丹羽先生が取り組んでいる「主体的・対話的で深い学び」の単元学習指導について、インタビューする。

取材・構成・文・写真:学びの場.com編集部

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