2012.03.29
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「最先端のデジタル」と「従来のアナログ」を上手に組み合わせた算数の授業 子どもたちの理解を深め、豊かな発想を手助けするために ―東京都中央区立城東小学校・中村隆之 主幹教諭―

東京駅八重洲口の目の前に建つ、中央区立城東小学校。大都会のど真ん中ゆえに児童数は70名と少ないが、平成20年に「中央区フロンティアスクール」として全教室に電子黒板や校内LANが整備されたほか、平成21年から2年間は株式会社内田洋行とインテル株式会社の協働プロジェクトである"児童一人に1台のPC"プロジェクトの実証実験に協力。今年度は、デジタル教科書教材協議会(DiTT)実証実験校として、タブレットPCやデジタル教科書などの授業実践や研究を積み重ねている。今回は、その公開授業を取材した。

授業リポート

さまざまな教材でイメージをつかみ、発想する 「立方体の展開図を考える」授業

学年・教科: 4年生算数(児童9名)
単元: 直方体と立方体(全14時間)
本時の学習: 立方体の展開図を考えよう
ねらい: 立方体の展開図から完成図を予想したり、構成要素の関係を考えたりして、立方体の展開図をパソコン上でつくる。
指導者: 中村隆之 主幹教諭(学級担任)
使用教材・教具: タブレットPC、デジタル教材(ワークシート)、デジタルテレビ、紙のワークシート、木製立方体、マグネット式展開図(黒板掲示用)

まずは“紙”から始める

“児童一人1台のタブレットPCを整備した先進校の公開授業”と聞くと、授業の最初から最後までタブレットPCをフル活用した授業を連想しがちだ。しかし、中村隆之先生はまず、従来の“紙の教材”から授業をスタートさせた。手作りした立方体の展開図を黒板に三つ貼り、「どの展開図が立方体になるかな」と問いかけたのだ。

「(あ)と(い)は立方体になるけど、(う)はならない」
 と、即答する子どもたち。しかし、中村先生が
「どうして?」
と聞き返すと、みな言葉に詰まってしまった。

うまく説明できないもどかしさを子どもたちに感じさせた上で、中村先生は次の教材を配った。これも、“紙”の教材だ。黒板に掲示したのと同じ展開図を一人ひとりに配布し、展開図を実際に折らせてみる。手を動かして折ったことで、子どもたちは説明する言葉を発見した。
「(う)は、一つの面が重なってしまって、立方体になりません!」
と、今度はしっかり説明できるようになった。

タブレットPCならではの良さとは?

「では、もっと他の立方体の展開図を作れないか、考えてみましょう」
と、いよいよ本時のメイン、タブレットPCで展開図を考える活動へ。
中村先生が教員用端末を操作すると、無線LAN経由で子どもたちのタブレットPCに教材が瞬時に配信された。方眼紙の背景画面の上に、正方形のタイルをドラッグ&ドロップして立方体の展開図を描く、ワークシート教材だ。内田洋行の「スクールプレゼンターEX」を用いて作られている。

「ご覧になってわかるように、これは昔からある活動です。以前は紙のワークシートに展開図を書いていたのですが、タブレットPCに置き換わっただけです」
と授業後、中村先生は説明する。そして、紙にはなかったデジタルならではの良さがあるとも。
「紙のワークシートでは、線を書いたり消したりの作業に時間と手間がかかります。線を上手に書けなくて立ち止まり、展開図を考えるところまで進めない子どももいました。でもデジタルなら、展開図を書く作業は誰でも簡単にできます。その結果、本来の目的である『いろいろな展開図を考える』活動に、全員が多くの時間を割けるようになったのです」
と中村先生。さらに、紙のワークシートでは、何度も書いたり消したりしていると紙が破れたり汚くなってしまうが、タブレットPCならその心配もない。試行錯誤がしやすいのだ。

机間指導でも、“デジタル”の効果は出ていた。全員のタブレットPCの画面を、中村先生が持っている教員用の端末(iPad)で常に見ることができるのだ。
「一覧表示もできるので、誰が今、何をしているか、どこで困っているかが一目でわかります。つまずきを早期発見できるので、適切な指導や支援をすばやく行えるようになりました」
とのこと。

学びの共有にも効果あり!

学びの共有も、“デジタル”が得意とするところだ。この日の授業でも、子どもたちが考えた展開図をデジタルテレビに映し出し、自分の考えた展開図と同じか、どこが違うかなどを観察させていた。
「今までは、黒板に書いて発表したり、ノートを実物投影機で映して、学びを共有していました。しかし黒板に書くのは時間がかかりますし、キレイに書くのもたいへんです。実物投影機で映せば黒板に書くよりは短時間ですみますが、鉛筆が薄かったり、消し跡が汚かったりすると、よく見えないことがあります。図形のイメージをつかむためには、ハッキリ鮮明に見えることが大事。“デジタル”なら、正確な情報を、スピーディに、みんなで共有できます」。

デジタルとアナログを併用する理由

中村先生は、デジタルとアナログを、適切かつ効果的に使い分けている。タブレットPCで展開図を考える活動中にも、こんな光景を目にした。手が止まっている子どもがいることに気づいた中村先生が、
「これを使って考えてみて」
と木製の立方体を配布。さらに
「まだわかりにくい場合は、紙を切って考えてみよう」
と、方眼紙も与えたのだ。
方眼紙を切ったり折ったり、木製の立方体を様々な角度から眺めたり、切った方眼紙を立方体に巻き付けたり……。子どもたちはさまざまな方法で立方体と展開図を結びつけ、イメージを膨らませていった。中村先生は、
「算数は、実物を見たり、触ったり、組み立てたりといった、手での作業がとても重要です。だからタブレットPC一辺倒ではなく、昔ながらの紙や木の教材も併用しているのです」。

ほかにも、国語で新出漢字を学習するときや、算数で図形やグラフを学習するときに、タブレットPCをよく使っているという。
「教科書に書いてあることを、よりわかりやすく学ぶために、タブレットPCを使っています。教科書の内容にマッチしたタブレットPC用の教材がもっと出てくれば、活用する機会はさらに増えると思います。タブレットPCだからと、身構える必要はない。今まで通りの授業でいいと思います。そしてノートや分度器やワークシートと同じように、文房具の一つ、教材の一つとして、効果を発揮する場面を選んで、使っていけばいいのではないでしょうか」
と、中村先生はタブレットPCの有効な活用例を挙げてくれた。

記者の目

一人1台のタブレットPCを導入した学校が、「どんな授業をすればいいのか」「今までの授業を一新しなければいけないのか」と悩む姿をよく目にする。近い将来、全ての学校にタブレットPCが導入されれば、多くの先生が同じ悩みに苦しむことになるのではと懸念される。
中村先生の実践は、そんな悩みを解決する処方箋となるだろう。今までの授業や教材を捨てる必要はない。今までの授業に、タブレットPCをうまく融合させればいい。活動内容は変えずに、タブレットPCが効果を発揮してくれる場面で、手段をアナログからデジタルに置換すればいいのだ。
最先端のICTと昔ながらの授業スタイルや教材が、仲良く共存した姿。これこそが、未来の教育のあるべき姿ではないかと感じた。

取材・文:長井 寛/写真:言美歩

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