2002.07.02
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新座っ子ぱわーあっぷクラブ「サイエンス」 新座市立東野小学校

手動発電機を作り、子どもたちに豆電球が光る様子を示すのは、町内会長の高橋準一郎さん。埼玉県新座市立東野小学校での、土曜日のサイエンス講座の一コマだ。

学校の完全週5日制に伴い埼玉県新座市では、毎月第1、3土曜日に、市内各小学校で、「サイエンス」「昔の遊び」「写真教室」「算数博士」「体育チャンピオン」などの講座を開催する。今回は、新座市立東野小学校で、行われたサイエンスの講座を取材した。



 6月15日、埼玉県新座市立東野小学校で、「新座っ子パワーアップくらぶ」がスタートした。これは、学校の週5日制に伴い、子どもたちの週末の過ごし方の「選択肢のひとつ」として、新座市教育委員会の「各中学校区ふれあい連絡協議会」が主催するもの。中学校の学区単位で内容が検討され、活動が行われる。

 東野小学校は新座市立第二中学校の校区にあり、同じ校区の他の2つの小学校とともに、保護者
にアンケートを取って、サイエンス、写真、算数王、昔の遊び・阿波踊り、体育チャンピオン、バドミントンの6講座の開催が決定した。東野小学校は、サイエンスと写真の講座の会場となっている。

高学年では手回し発電機づくりに挑戦!ちょっと難しそう。

■ 講師は町内会長さん

 午前9:30、理科室には、3つの学校から集まった小学校1年から6年まで、44名の児童と、約20名の保護者が詰め掛け、満員御礼の盛況ぶり。

 講師を勤めるのは地域の町内会の高橋準一郎氏。

「昔、物理化学専門だったのと、ボランティアで子供に算数を教えた経験があるので、それを生かしたいと思って。ノートをとったり難しい話をするのではなく、実験や制作など実体験を中心に、遊びの中から学んでもらおうと思っています。とにかくサイエンスが好きになってもらえればいいんです」

 毎月第一、三土曜日で一年間、「電気の一生」というテーマで、講義を行う。「電気がどこでどうやって生まれるのか、最後にはどうやって家庭にやってくるのかを遊びながら勉強しようと思います。できれば、発電所の見学にも行ってみたい。今、電力会社に交渉中です」と意欲満々。

 最初の30分は、1年間でどんなことをするのかを説明し、その後、電気のおもしろさに親しんでもらうために、低学年には太陽電池でオルゴールが鳴るキットが、高学年には、ぶんぶん発動機という、手動で電気を起こし、豆電球を点灯させるキットが配られた。

低学年では太陽電池で鳴るオルゴールづくりに挑戦!

見学のお父さんも、思わず身を乗り出して…。

施行錯誤する児童に助言を与えるのは、手伝いに来た、地域の女子大生たち。

完成!太陽電池でオルゴールが鳴った!

■お父さんも思わずハマる!

 歓声をあげて、袋から部品をとりだす児童たち。しかし、組み立てるには細かい設計図を見なければならないし、工具も必要だ。なれない作業に格闘する子どもたちを見かねて、教室の後ろで見学していた保護者たちも手伝いに。授業参観風にだった会場は、一気に親子入り乱れて和気あいあいとした雰囲気に。子どもの席にどっかりと腰をおろし、制作に夢中になるお父さんの姿もあちこちで見られた。

 近所の私立小学校に通う二年生の児童のお父さんに感想を聞いてみた。

「子どもは私立に通っていますが、こういう催しがあると聞き付けて、参加を申し込みました。学校では、1年から6年まで一堂に集まって勉強できる機会は普通はないので、今日のように高学年がやるような勉強を、低学年もいっしょになってやれるのは、貴重な体験だと思います。低学年の子は、今はよくわからないと思いますが、きっと何か感じ取っているんじゃないでしょうか」


 今回、ボランティアで東野小学校の先生たちも手伝いに駆け付けたほか、アシスタントとして、地元にある跡見女子大から、3名の学生も参加。

 東野小学校で理科を教える栗原克彦先生は、
「講師の高橋さんは、専門的な知識はとてもお持ちですが、何十人もの子どもに講義をするということには慣れておられない。進行面で何かお手伝いができれば、と思って参加しました。1年から6年まで、しかも他校の児童も混ざっていますから、どうなるかと思いましたが、うまくまとまって良かった。みんな、自ら希望して集まった子どもたちだから、意欲が違いますね。」と満足そう。

■ねらいは、「地域の教育力」

 ところで、主催の各中学校区ふれあい連絡協議会(ふれあい連協)には、東野小学校校長 金子広志氏も副会長として参加している。金子校長に、「新座っ子パワーアップくらぶ」が実施に至った経緯をうかがった。

「この事業のねらいはふたつあります。ひとつは、土曜日の子どもの受け皿づくり、もうひとつは、地域の教育力をつけようということ」

 土曜の子どもの受け皿ということでは、隔週週5日制がスタートした時点から、まず、現状どのような受け皿があるのか、ふれあい連協で調査を開始した。その結果、公民館、児童館などで行われるイベントは、ほとんど大人向けのものしかない。そこで、子ども向けの映画会や料理会などのイベントを増やしていったのが第一段階。しかし、完全週5日制になると、まだまだ受け皿は足りない。そこで、学校の施設を利用した「クラブ活動」が検討された。内容については、アンケートを取ったが、問題は、それを指導する講師がいるかどうか。

「学校で、先生が指導して行う方が簡単なのかも知れませんが、それでは"地域の教育力"は生まれない。学校は黒子に徹して地域主体でできる方法を考えないと。町内会、婦人会、商店会、公民館など地域の公共施設で行われているクラブ活動など、リストをかき集めて、地域にどんな人材がいるのか徹底的に調べました」
今回の「サイエンス」を担当した高橋氏とのつながりも、そういった活動の中から生まれた。

■"教科"指導の場から"人として生きて行くための学び"の場へ

 さて、気になるのは予算。市から出るのは配付資料の印刷費程度。講師もほとんどボランティア。

「あとは、企業のスポンサーをいかに探してくるかです」と金子校長。
 今回参加者全員に配られたキットも、東京電力から提供されたもの。

「従来なら、学校が企業から協力をもらう、という発想はなかった。これができるようになったのは総合学習のおかげです。東京電力さんは、総合で、環境問題を学習する時に協力をいただいたことでできたつながりです。今後、企業だけでなく、大学とも連携していこうと思っています。最先端の技術や人に接することは子どもたちにとって、とても大事なことではないでしょうか」

「総合学習の導入や、週5日制など、一連の教育改革で、学校がどんどん外に開かれていることは、とてもいいことです。これによって"教科"だけでなく、"人として生きて行くための学び"というものを、学校がようやくつかみつつあるのではないでしょうか。3割削減、ということが問題になっていますが、子どもたちは3割以上のものを得るようになると思いますよ。」



(取材・構成:学びの場.com)

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