2002.05.21
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「いのちの森」で学ぶ子どもたち 千葉市立稲毛第二小学校 第2回全国学校ビオトープ・コンクール文部科学大臣賞受賞校

財団法人日本生態系協会主催による「第二回全国学校ビオトープ・コンクール」で、最高の栄誉「文部科学大臣賞」を受賞した千葉県千葉市立稲毛第二小学校を訪れ、伊藤節子校長に、ビオトープを作った経緯や今後についてお話を伺った。

 全国各地に広まりつつある「学校ビオトープ」。ビオトープ(BIOTOPE)とはBIO(生命の)とTOPE(場所)の2語のドイツ語からなる造語で、人間と自然の関係を考える社会的観点から、野生生物の生息環境を保護する「人と自然とが共生する場所」というものである。

 今回訪れた千葉市立稲毛第二小学校では、どのようなきっかけでビオトープをはじめたのか、どんな点に苦労したのか、子どもたちはビオトープによってどう変化していったのか、ビオトープの今後について伺った。


 


 




 

 


 

 

 








 

■「ビオトープ いのちづくしの たからばこ」

「ビオトープ いのちづくしの たからばこ」

 これは、財団法人日本生態系協会主催による「第二回全国学校ビオトープ・コンクール」で、「文部科学大臣賞」を受賞した千葉県千葉市立稲毛第二小学校の当時3年生の女児が作った俳句だ。ビオトープにはかけがえのない大切ないのちがあふれていることを上手に表現している。


■校庭の一画
に、いつか見た田舎の風景が

 校庭南側の片隅、広さ約350m2、全長約35mの細長い一画、それが稲毛二小のビオトープだ。

 小さいながらも校庭より数段高い丘をなしていて、頂上の泉からわき水が溢れ、それが小さな川となり、終点は水草が生い茂った、これまた小さな池となっている。周囲にはナズナやシロツメクサといった草花、そして、外来種に追いやられてすっかり見られなくなった純国産のタンポポもひっそりと咲いている。

 小川の中にちらほら見られるメダカの群れは、子どもたちが夏休みの間にひとりが雌雄数匹ずつ持ち帰り、繁殖させたものを放流したものである。夏には、螢も見られる。ちょっと昔の田舎ならどこでも見られた光景だが、今は、こうして人間が手をかけなければ、維持できない。それは残念だが仕方ないことでもある。ともあれ、子どもたちは、ビオトープ作りを通して、生態系といった難しいことはわからなくても、生命の貴さ、自然へのいつくしみを知らず知らずのうちに身につけつつある。

■ビオトープができるまで

 さて、稲毛二小のビオトープ、どういう経緯で作られたのか、伊藤節子校長にお聞きした。

 開口一番、「実は私、とっても怒っているんです」と伊藤校長。
現代社会における多くの不祥事や、増え続ける心痛ましい青少年犯罪に対する怒りである。

「こういった心痛む事件は、"人間として失ってはいけないもの"つまり、"価値あるものに気づく豊かな感性"を失ってしまったことが原因ではないかと思うのです。大人になっても失われることのない"豊かな感性"。この感性を磨くために、子どもたちが実際に体験すること、本物に触れること、五感を使って心の汗を流すことができるような"場の工夫"が必要です。ビオトープは、そのための活動の一つなのです」

 しかし、上から一方的に押し付けられたイベントではなく、子どもたちが、自分たちの希望で、自らやる気を持って参加してもらうためにはいくらかの演出が必要だった。

「全校生徒にアンケートをとったんですよ。『どんな稲毛二小にしたいかな?』って。そしたら、「やさしい学校」「メダカのいる学校」「お花がいっぱいある学校」「親切な学校」…、いろいろな意見が出てきました。その中に、ほんのひとりかふたり、『池や小川のある学校』と書いてくれた子がいた。それを『こんなことを書いてくれた子がいるよ』と、大きく取り上げて、ビオトープ作りへ子どもたちを導いていったんです」

 

 

 

 

ビオトープの着工とつまづき、そして地域ネットワークの広がり

 伊藤校長がビオトープ作りに着手したのは1999年。校庭に最初からあった防風林を伐採し、小川や池、泉を作った。2001年には水を張り、野草や水草を植え、メダカを放流した。子どもたちはもちろん、教職員、PTAの有志、地域ボランティアらが環境NGOの指導の下に、泥んこになって穴を掘り、粘土や田んぼの土で池を固めて作りあげていった。

 しかし、決してなにもかもが順調に進んだわけではない。途中、伊藤先生たちは、思わぬトラブルに見舞われた。池に水が溜まらないのだ。 元々、この土地は埋立地であるため砂地で水はけが良い。

「通常、人工的に池を作る際、ゴムシートを使用するらしいのですが、ゴムシートは使いたくなかった。自然に還らない素材ですから」

 そんな時、一級建築士であり、環境アドバイザーの横田耕明氏から、粘土質の田んぼの土を川や池の底に手で貼り付けるという「たたき粘土」という方法を伝授してもらう。その後は、横田氏の紹介によって様々な人が助っ人としてかかわるようになり、後の地域ネットワークへ繋がっていく。

 人と人とのつながりを大事にする伊藤校長は、地域の方々が出入りしやすいよう、普段から校長室を開放している。ビオトープ作りにおいては水張り式やメダカの放流など行事のたびに、それまでお世話になった地域の博物館の方や、ボランティアの方々を来賓として招いている。そんな学校と外部とのつながりも受賞の理由に挙げられたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■「せっちゃんマン、ミミズに触れる?」


「池を作る時の粘土と石灰はどのくらいの比率で混ぜ合わせればいいの?」

「メダカのオス・メスはどうやって見分けるの?」

「メダカとザリガニは一緒に池に入れてもいいの?」

 ビオトープを作りあげ、維持する過程において、子どもたちは通常の授業では体験できないようなことを学習する。

 夏休み中にメダカを孵化させた時には、ペットボトルでもできる飼育の仕方や、メダカの雌雄の見分け方などを教わった。100匹に殖やした子もいれば、すべて死なせてしまった子も。しかし、それは命の貴さを知る経験となった。

「ある時、『せっちゃんマン、ミミズに触れる? 』とミミズを両手に持って、走りよってくる子がいたんです」

 せっちゃんマンとは、稲毛二小での伊藤校長の愛称。

「今までミミズやカエルに触れなかった子が、『ミミズって、気持ち悪くないんだよ。土をきれいにしてくれるんだよ』って言って持ってきたんです。だから私も『触れるわよ、ほら』って。本当は気持ち悪かったんですけどね(笑)」

 他にも、総合的な学習の時間、生活科、体育など様々な授業でビオトープが登場する。なかでも面白いのは、国語。『ビオトープニュース五七五の時間です!』と名づけて、ビオトープを題材にした俳句を作るという授業を行った。
 冒頭の俳句はこの授業の中で生まれた。

 知識だけでない、五感を使った自然体験や人々との社会経験を通じて、命のすばらしさや、環境保護について学ぶ。このようなビオトープの教材としての役割。これもまた、受賞の理由のひとつだ。

 

 

これからのビオトープ、「いのちの森」

 稲毛二小のビオトープは、子どもたちによるアンケートによって『いのちの森』と命名された。この「いのちの森」は今後、伝統工法「上総掘り」によって井戸を作り、蛍が生息できる環境作りを行う予定である。他にも原っぱを作りレンゲを植えたり、田んぼを作ることも考えている。
 また、本年度(平成14年度)より、ビオトープの維持管理を「青少年育成委員会」へ引き継ぐこととなった。学校主体の運営が変わることはないが、より地域やNGO、行政との連携を強めていくこととなるであろう。

 「ビオトープは未完成のままでいいのです」

 
伊藤節子校長は言う。
「いのちの森」に終わりはない。 これからも「人」「自然」「生き物」の共存の場であり続け、学校だけでなく地域の「豊かな感性を育む場」としての「いのちの森」に期待したい。
 

 

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