引っ越しで子どもの世界は変わる。親ができる準備と心のケア

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。
転勤や家庭の事情で、新しい環境に飛び込む家族も多い季節です。
今回は「引っ越しで子どもの世界は変わる。親ができる準備と心のケア」をテーマに考えました。
学校が変わることは、子どもにとって大きなストレス
環境が変わる、それも頻繁に環境が変わるというのは、子どもにとって大きなストレスです。特に学校が変わるというのは、中にはうまくなじめる子もいるでしょうけれど、やはり不安だと思います。
私は小さいとき、よく引っ越しをしました。香港では少しでも経済的に余裕が生まれたら、より良い環境へ移るという習慣が人々の間にあるのです。ただ、私の場合、引っ越しをしても学校は変わりませんでした。ですので、引っ越しといっても通学時間が変わったり、乗るバスが違ったりするくらいで、たいしたことはありませんでした。でも、学校そのものが変わってしまう子は大変だと思います。
できれば、学校を頻繁に変わることがないように、子どもの年齢に合わせて引っ越しを考えたほうが理想的です。でも、みんながみんな、子どもの事情に合わせられるような人生ではありません。仕事の都合で、どうしても遠くに引っ越さなければいけない場合があります。だからこそ、もし引っ越しを避けられないのなら、子どもが受けるストレスをできるだけ減らすために、あらかじめ準備をして臨むことが大切です。
新しい環境に「いきなり」出さないための、丁寧な準備
たとえば新しい土地に移ることになったら、転居先の学校をまずは見に行きます。そして、担任の先生に「これから引っ越してくる予定なのですが」とあいさつして、事前に友達を紹介してもらえないか相談してみます。
何が得意な学校なのか、どういう部活動があるのか、制服はどういうデザインなのか、そういったことを子どもと調べて、心構えができたうえで引っ越すことをおすすめします。最初の日からひとつでも知っている顔があったら、子どももきっと安心できると思います。
また、引っ越し先の商店街や学校に通う道を一緒に歩いて、新しい生活への期待を高めるのもいいです。子どもがいきなり知らないところに連れてこられたと感じないようにするためです。インターネットで、「この辺りはこれがおいしいらしいよ」「ここにこういう場所があるみたい」「この図書館、良さそうね」と、事前に調べて伝えてあげることも大切だと思います。
大変さを楽しみに変えて、家族の絆を強くしていく
仕事の都合で転勤しなければいけないときに、どちらかの親だけが単身赴任する場合もあります。子どもも一緒に引っ越すか、悩む家庭も多いでしょう。「子どもの学校のために、単身赴任を選びました」という話もよく聞きます。
私は子どもの意見も聞いて、家族会議で決めるのをおすすめします。転校することと、親と一緒に住めないことのどちらが子どもにとって大変なのか、よく相談して決めてほしいと思います。
単身赴任の家庭では、子どもが大きくなったときに、離れて暮らした親との間に距離ができてしまうケースもあります。私がこれまで聞いた話では、案外、大変でも家族みんなで転居した家庭のほうが、後から振り返るとよかったと感じていることが多いようです。特に思春期の子ども、とりわけ男の子がいる場合はその傾向が強いようです。
だから、引っ越しを大変な作業と思うのではなくて、家族の楽しみとして「この土地にはこんな魅力があるよ」と、盛り上がってほしいのです。それによって、引っ越し自体は大変でも、結果として家族の絆が強くなっていきます。きちんと準備すれば、必ずしも悪いことではありません。
子どもにとって、友達との別れは大きい

実は、私自身の子育ての中でも、今でも反省している引っ越しの経験があります。東日本大震災のときのことでした。当時、三男がまだ中学生だったのですが、震災後の先行きが見えない不安の中で、兄たちのいるアメリカへ急遽留学させたのです。そもそも留学する予定でしたから、それなら早めに行かせたほうがいいかなと思って編入させたのです。
でも、それが三男にとっては大きなショックでした。彼は通っていた中学校を卒業したかったのです。子どもにとって、友達とのつながりは親の想像以上に深いものです。それがいきなり断ち切られるというのは、自分の一部が削られたような感覚になってしまいます。幸い、彼は新しい学校に入ったその日から友達ができて、気持ちも落ち着いたようでした。事前にきちんと話し合わなければいけなかったなと思っています。
私たちは長く生きているから、数年の別れなんて人生のほんの小さな一部に感じてしまいます。でも、彼らはまだ短い人生しか生きていません。その何年間かで一生懸命に築いた友達関係というのは、彼らの人生にとって本当に大きなものなのです。たとえば2、3歳の子どもにとっては、引っ越すというのは自分の人生の半分を一緒に過ごした友達と別れることを意味します。
別れというのは難しいです。でも、人生の中でいずれは経験しなければいけないことでもあります。離れたくないと思うほど大切な友達がいたということは、その子にとってある意味ではとても幸せなことだと私は思うのです。幼いころから、人生は別れの連続です。家族の中でコミュニケーションが取れていたら、どんな困難でも乗り越えられます。その大変な変化を家族みんなで前向きな気持ちで迎えて、事前の準備をしっかり整えて、子どもの心に寄り添いながら新しい一歩を支えてあげてほしいと思います。

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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