2026.03.04
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悪口に参加しない勇気を持とう--子どもの自己肯定感を守るために

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。新学期が始まり、子どもたちの人間関係も新たな局面を迎える季節です。今回は「悪口に参加しない勇気を持とう」をテーマに考えました。

悪口が盛り上がるのは「優越感」がほしいから

なぜ人は悪口を言い合うと盛り上がるのでしょうか。それは、悪口を言うことで優越感を味わって、自分の価値が高くなったような気がするからです。人の欠点を指摘することで、なんとなく自分が相手より上になったような気持ちになれるのです。特に、自己肯定感が低い子どもは、自分の価値を高めようとして、悪口をいうことでちょっとした快感を覚えてしまうことがあります。

もう一つの理由は、共通の敵を作ると仲間意識が生まれるという集団心理です。「あの子、嫌だよね」と言い合うことで、グループの結束が強まったように感じるのです。

一部の悪質なケースでは、人を分断して支配しようとする心理が働くこともあります。あの人にはこう言って、この人にはこう言ってと使い分け、自分が中心になってコントロールしようとするのです。一緒に悪口を言わないと、仲間に入れないような空気を作ることもあります。

最近はインターネットの普及で、悪口が以前よりも気軽に交わされるようになったと感じます。ひと言ふた言のコメントや、誹謗中傷を含む投稿のシェアで簡単に誰かを攻撃できてしまいます。心配しているのは、こうしたやり取りが低年齢化していることです。友達同士のSNSで「うざい」「キモイ」といった言葉が飛び交うこともあります。冗談のつもりで軽い気持ちで書いたことでも、言われた側は深く傷つくのを忘れてはいけません。

悪口に参加しない勇気を持とう

特につらいのは、本当は参加したくないのに、参加しないと仲間外れにされてしまうという状況です。「私はそう思わないんだけど」と言いたくても、「あなたもそう思うでしょ?」と同意を求められたら、どう答えればいいのかわからない。そう思わないと言ったら、もうこの子たちと遊べなくなるかもしれない。そんな不安を抱えている子どもは多いのではないでしょうか。

私自身、悪口の輪に入れないことで苦労した経験があります。皮肉を交えたブラックユーモアについていけず、一人だけ浮いてしまうこともあります。それでも、私は「人の悪口を賛成しないと仲間にしてくれないのなら、まあ別にいいか」と思うようにしています。悪口を言う人は、他人から信頼されないと思います。そうすると本当の友達を作ることは難しくなります。

私は自分の子どもたちに「悪口には参加しない」と教えてきました。「参加しなければ友達にしてあげない」と言われたら、「それならいいです」と答える勇気を持つこと。自分のスタンスをしっかり持つことが大切なのです。

そして、親自身も気をつけなければなりません。食卓でお父さんやお母さんが人の悪口を言っていたら、子どもへの教えが台無しになってしまいます。「悪口を言わない、聞かない、参加しない」、これを家族全員で守ることが大事です。

悪口に負けない心のよりどころをつくる

「やることが遅いんだ」「臭いから仕方ない」など、悪口を言われる人にも問題があるという意見を聞くことがあります。たとえその人が自分の価値観に合わないとしても、悪意を持って、人の悪口を言ってはいけないと思います。悪口は、人を傷つけるという点で暴力とよく似ています。自分が殴られたくないのなら、人を殴らないこと。自分の悪口を言われたくないのなら、人の悪口も言わないことです。

悪口を言って盛り上がっている人たちは、実は心のどこかで満たされていない部分があるのかもしれません。自分に自信がなかったり、何かにイライラしていたり、もっと違う自分になりたいという気持ちから、他人を攻撃しているのです。でも、人を傷つけることで一時のうっぷんを晴らしても、そんな自分のことがさらに嫌いになるだけです。

聖書にこんな話があります。罪を犯した女性に石を投げようとした人々に、イエスが「罪のない者だけが石を投げなさい」と言ったところ、誰も投げられなかったという話です。完璧な人間はいません。私たちはみんな弱さや過ちを持っています、本当は人をつついたり批判したりする資格などないのです。

親として大切なことは、「自分のことを愛している人がいる」と、子どもが思い出せるようにしておくことです。「君は生まれてきただけで宝物なんだよ」「あなたはかけがえのない存在なんだよ」と、日頃から愛情を言葉にしてください。それが、「悪口を言われても私の価値は下がるわけではない」と、子どもの心を支える言葉になります。

そして、悪口を言う子たちと過ごす世界は、人生のほんの一部にすぎません。その世界がすべてではないのです。もっともっと素敵な未来が待っています。そして、いつかは必ず気の合う仲間ができる日が来るのです。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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