教室がアトリエに変わる瞬間 ~授業の「感性のきらめき」を叙情的に描く~
学級通信で授業の様子を伝える際、思考のプロセスを事実としてクリアに伝えることはとても大切です。しかし、ときには事実の報告だけではすくい取れないことがあります。
今回は、図画工作や国語の物語文などで子どもたちが自分の世界に深く没頭している尊い姿を、あえて叙情的に描き出し、保護者の心へ真っすぐに届ける筆遣いについて深掘りします。
山口大学教育学部附属山口小学校 有村 竜希
事実だけでは伝わらない授業の瞬間
前回は、学級通信における「叙情」と「叙事」の使い分けについてお話ししました。
しかし、日々の授業の中には、単なる事実の報告では到底すくい取れない、特別な瞬間が存在します。それは、子どもたちが感性を働かせて、自分の世界に深く没頭している瞬間です。
なぜ「作品」ではなく「姿」を叙情的に描くのか
図画工作科などで表現活動に向き合っているとき、教室の空気は一変します。しかし、「〇〇を作りました」「こんな作品が完成しました」という結果の報告だけでは、そのときの教室の熱量や、子どもたちの指先からあふれ出るような創造性は、保護者には十分に伝わりません。
本当に伝えたいのは、作品の「うまい・下手」という評価ではありません。真っ白な画用紙や粘土を前にして、自分だけの世界に入り込み、試行錯誤しながら何かを生み出そうとしている、そのひたむきな姿そのものの尊さです。何かに夢中になっているプロセスを価値付けるためにこそ、感情や情景に訴えかける叙情的な言葉の力が必要になるのです。
教室が「小さなアトリエ」に変わるとき
では、実際にどのように言葉を紡ぐのか。今年度の3年生の図画工作科「ねん土マイタウン」を取り上げた学級通信を紹介します。
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「ねん土マイタウン」に向き合う教室は、1人1人が夢の世界を創り出す、熱を帯びた小さなアトリエへと変わりました。(中略)子どもたちは、心の中にしか存在しなかった景色を、現実の世界へとそっと引っ張り出していました。指先を真っ白に染め、小さな窓の形を整え、曲がりくねった小道を丁寧になぞる横顔は、情熱を宿した、小さな芸術家そのものでした。(学級通信 第33号より抜粋)
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ここで意識しているのは、以下の3つのポイントです。
①ただの「教室」ではなく「熱を帯びた小さなアトリエ」と表現することで、読者(保護者)の頭の中に、特別な集中力に満ちた空間をイメージさせます。
②子どもたちを「小さな芸術家」と呼ぶことで、彼らの真剣な眼差しや指先の動きがいかに尊いものかを際立たせます。
③単に「粘土をこねて町を作った」という事実ではなく、「心の中にしか存在しなかった景色を、現実の世界へとそっと引っ張り出していた」と表現することで、子どもたちの内面で起きているドラマを言葉にしています。
他の教科にも潜む「叙情」の種
図画工作科に限らず、授業を叙情的に描くチャンスはあらゆる場面に潜んでいます。例えば、国語科の物語文「春風をたどって」の学習で、物語の結末に添えられた1枚の挿絵について考えたときのことです。
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とりわけ教室の空気が優しい静寂に包まれたのは、物語の最後に添えられた1枚の挿絵に思いを巡らせたときです。(中略)子どもたちは、挿絵を描いた人の密かな願いを受け取るように、教科書のページを行きつ戻りつしながら、本文の叙述の中に確かな手がかりを探し求めました。(学級通信 第17号より抜粋)
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「静かになりました」「教科書を読み直しました」と事実のみで書くこともできますが、あえて「優しい静寂」「密かな願いを受け取るように」と叙情的に描くことで、子どもたちが物語の世界に深く没入し、心が揺れ動いている美しい瞬間を、そのままの温度感で保護者に共有することができます。
感性のきらめきを届ける最高のプレゼント
授業中の何気ない姿を叙情的な言葉で紡ぐことは、教師自身が子どもたち一人ひとりの感性のきらめきを逃さずキャッチしようとする眼差し(レンズ)を鍛えることにもつながります。
そして何より、学級通信を読んだ保護者にとって、「うちの子、学校でこんな素敵な顔をして学んでいるのだな」と、成績表には表れない我が子の内面の豊かさに気付く最高のプレゼントになるはずです。
事実を伝える叙事の間に、ふと心を揺さぶる叙情を織り交ぜる。そんなリズムを楽しみながら、次回の学級通信に、子どもたちのきらめく瞬間をつづってみませんか。

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