『黒牢城』 密室となった城で起こるミステリー

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。
今回は、戦国時代を舞台に、織田信長に反旗を翻した荒木村重と、牢に囚われた黒田官兵衛を軸に描く時代ミステリー『黒牢城』をご紹介します。織田軍に囲まれた有岡城で起こる不可解な事件の数々。謎解きの面白さに引き込まれながら、戦乱の世を生きる人々の葛藤や、命の重さについても考えさせられる作品です。
有岡城で起こる不可解な殺人事件

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
『黒牢城』は簡単に言えば、戦国時代を背景に起こる不可解な事件の謎解きを描くミステリーだ。
舞台となるのは織田信長に反旗を翻した武将、荒木村重(本木雅弘)の城・有岡城(伊丹城)。村重はこの城の中に籠城し、外は織田軍が囲んでいる。ある種、密室状態ともいえる城内だ。
城の中には味方しかいないはずなのに、そこでさまざまな事件が起きる。最初に起きたのは、織田側に寝返った安部二右衛門の息子で、人質として有岡城に置かれていた自念(じねん)が矢によって殺されたという事件だ。
最も頼りとなる5人の家来、通称“五本鑓(ごほんやり)”が警護にあたっていたというのに。しかも、矢傷があるのに矢自体はなくなっており、庭には雪が積もっていたのに、犯人も含めて誰の足跡も全く残っていなかった。
さらに、有岡城の目と鼻の先にある湿地帯に陣を敷いてきた織田方の大津伝十郎に、村重たちの部下が夜襲をかけたこともあった。その結果、敵の大将の首と思われる首が4つもあがるが、どれが大津の首か分からず、手柄が判明せずに城内で家来同士の対立が深まることに。
そんな中で、高山大慮(渡辺いっけい)がとった若武者の首が凶相(不吉な運勢)を帯びた首とすげ替えられる事件が発生。周囲は祟りの兆しだとおののき始めてしまう……。
こんなふうに奇々怪な事件がいろいろと起きていくのだ。果たして城内に織田勢と通じている者がいるのか。犯人の目的とは何なのか⁉︎
エンタメとしても歴史モノとして楽しめる

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
そんな事件が起こるたびに、村重は謀反を止めるよう説得に訪れた織田方の軍師であり、今は城内の地下牢に繋がれている小寺官兵衛(後の黒田官兵衛、演じるは菅田将暉)のもとへ行き、謎を解かせようとするのだ。
大型時代劇が突然として安楽椅子探偵モノに早変わり……というわけで、俄然興味が湧いてくるではないか。
もちろん城内で起きるさまざまな事件はあくまでも作家が考えたフィクションだ。だが、実際に荒木村重は存在しているし、織田信長に対して謀反を起こして一年ほどの籠城をしたのも事実だし、黒田官兵衛が牢につながれて、そのせいで足を悪くしたという記述が残っている。
つまりエンタメとして面白く味つけられているけれど、ベースはしっかり歴史に由来したものだ。歴史モノとしてもきっちり楽しめる作品となっているので、勉強にもなる。正直、本当に頭の中にすんなりと戦国時代が浮かび上がってきたのである。
恐ろしすぎる女性たちの打首事件

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
実際、謀反を起こす前、織田信長に仕えていた頃の村重が描かれるシーン。信長が見せしめとして女性の首を次々とはねていく場面だったが、芝居だ映画だとは分かっていても、身の毛がよだつような感覚を覚えた。
ちょっと機嫌を損ねただけで打首とは! なんと恐ろしい男であろう。信長と言えばワンマンで有名だが、この態度はいくらなんでもひどすぎる。もし彼が天下人となっていたら、はたして日本はどうなっていたのか。そんなことをも想像させてくれるのだ。
また2つ目の謎の事件、凶相の首へのすげ替え事件が起きた時、戦国の世では「首改め」という作業(得た首を見直して誰であるかを確認する作業)が日常的に行われていたことを初めて知った。
そりゃそうだ。写真も何もない時代。討ち取った生首以外確認のしようがないのだから、こういうこともあるだろう。それにしても嫌な役目だ。これでは怨霊などの話や妖怪などが、まことしやかにささやかれるのも当然だろう。こんな不気味な確認を戦ごとにしていたのかと思うと空恐ろしい。
歴史をしっかり学べる作品

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
歴史を学ぶのは、別に受験用に年号を覚えるとか、どんなことが起きたかを知って漢字などをちゃんと書けるようにするとか、そういうことではない。過去を知る、つまり人間が犯した過去の過ちや過去の成功体験、彼らの日常や非日常を知ることで、今の自分たちの生活、人生をより良いものにするための参考例なのだ。
学び取ることが大切なのである。そういう意味ではネタバレができないから詳しくは語れないけれど、今回の謎を呼ぶ怪事件の糸を引いていた犯人の理由も、いろいろと考えさせられるポイントとなっている。
生きるとは、死ぬとはどういうことなのか。人生とは何のためにあるのか。この作品を観ていると、本当にいろんなことを考えさせてくれるのだ。
そしてこれを観ると、「戦国」という時代がとんでもない時代で、また魂というものが安かった時代なのかもよく分かる作りとなっている。
それらが四角四面な解説ではなく、ちゃんと心に響いて分かりやすいし素晴らしい。ぜひとも大きなスクリーンで観ていただきたい快作だ。
- Movie Data
監督・脚本: 黒沢清
原作:米澤穂信
出演: 本木雅弘、菅田将暉、吉高由里子、青木崇高、宮舘涼太、柄本佑、ユースケ・サンタマリアほか
6月19日より、全国ロードショー
- Story
荒木村重は暴虐な織田信長のやり方に反発し、籠城作戦を決行。城は織田軍に囲まれて孤立無援になる。
村重は血気盛んな家臣たちを抑えながら、妻・千代保を心の支えに城と人々を守ろうと苦心していた。そんな中、城内で少年が殺される事件が発生。その後も怪事件が次々と起こる。容疑者は、密室と化した城内に居る家臣や身内の誰かで、城外は敵軍、城内は裏切り者という状況に誰もが疑心暗鬼になっていく。追い詰められた村重は牢屋に囚われた天才軍師・黒田官兵衛と共に謎の解決に挑んでいくことに。果たして事件の驚きの真相とは⁉︎
文:横森文
※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)
映画ライター&役者
中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。
2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。
「教育エッセイ」の最新記事













教育つれづれ日誌
アグネスの教育アドバイス
震災を忘れない



この記事をクリップ
クリップした記事










