2026.04.01
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「自分には価値がある」と感じられる子にー親子で育むウェルビーイングー

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。新年度を迎える春、新しい環境への期待と不安が入り混じる季節です。ユニセフの調査によると、日本の子どもの身体的な健康度は世界トップクラスですが、精神的な幸福度は決して高くありません。今回は「子どもの幸福度」をテーマに、親子でできることを考えました。

子どもが「自分には価値がない」と感じてしまう理由

ユニセフの調査によると、日本の子どもの身体的健康は36カ国中1位と世界トップですが、精神的幸福度は32位と、低い水準にありました。体は元気なのに、心が満たされていない子どもたちがたくさんいるということです。

今の子どもたちをみていると、たくさんのプレッシャーがあるように感じます。親や周りからの期待、そしてインターネットで見る「理想の姿」。あらゆる方向から比べられて、圧力がいっぱいで、とても達成できるものではありません。その結果、人生に意味を感じられなくなったり、夢を持てなくなったりして、「毎日がつまらない」と思っている子どももいるのではないでしょうか。

テレビやインターネットで目にするアイドルやインフルエンサーは、完璧にきれいでかっこよく見えます。そうした完璧さが基準になってしまうと、子どもたちのプレッシャーはますます大きくなってしまいます。そして、SNSで目にするキラキラした生活と比べて、「毎日、親は勉強しろって言う」「友達もあまり作れない」「学校には嫌な子がいる」と、自分の人生をつまらなく感じてしまうかもしれません。

そして、子どもが幸せを感じられない理由のひとつに、「自分がいない方が、みんな幸せなんじゃないか」と思い込んでしまうことがあります。自分の存在に、意味や価値がないと思ってしまうのです。

もし子どもに「あなたは勉強だけしてればいいよ」と伝えていたとしたら、勉強ができることだけが、その子の価値になってしまいます。テストで100点が取れないときに、「自分には価値がない」と感じてしまうかもしれません。でも、成績だけで人の価値は決まりません。容姿や成績やお金で比べ始めたら、きりがないんです。いくらきれいでも自分よりきれいな人はいるし、いくら勉強ができても、もっと難しい学校に進む人がいます。「人は人。自分は自分」と、耳が痛くなるほど伝えていくことが大事です。誰かと比べる必要はまったくありません。生まれながら、すでに生きる価値、幸せになる権利があるのです。自分の好きなことを一生懸命やっていれば、それで十分。それが、一番幸せの近道だと思います。

誰かの役に立つ経験が、心を強くする

子どもを幸せにしたいと思うと、つい「何かを与えてあげよう」と考えがちです。でも、本当に子どもの心を強くするのは、子ども自身が「誰かの役に立った」と実感できる経験なのです。

私は香港で、問題を抱えた少年たちと関わるボランティアをしていた時期があります。そこで知った取り組みの一つに、少年たちが警察犬の訓練を手伝うプログラムがあります。警察の人たちと一緒に訓練をすることで、再犯率が下がったと聞きました。自分が必要とされている、何かを達成できた、犬が自分に懐いて喜んでくれるという経験が、心を強くする大きな薬になったのです。

私たち大人がそういう機会を作ってあげることが大事です。人のためにドアを開ける、席を譲る、お年寄りがいたら荷物を持ってあげる。そうしたことは、大人が気づいて「やってみようか」と一緒にやってみることが子どもにとって、大切な体験です。

「今よかったね」と一緒に振り返って、相手からお礼を言われたときに、自分がやったことの価値を実感します。そういうチャンスを、どんどん与えてあげることで、自分の実力を感じ、心が強くなっていきます。私自身も、ボランティア活動を通して自信がつき、強くなりました。誰かに頼られることは、自分の価値を感じるきっかけになるのです。

「生きているのは楽しい」と自然に伝わる家族の習慣

 

 

そして、子どもが小さい頃から、家庭の中で「生きているのは楽しい」と日常の中で感じられることも大切です。一年を通じて、子どもに期待と楽しみを与えられるような、家族の文化や伝統をつくっていくのです。たとえば、ママの誕生日には必ずみんなでケーキを焼く、パパの誕生日にはマフラーを編むなど、理由は何でもいいのです。「毎年必ずやらなければいけない」「やったら楽しい」ということが生活のサイクルの中にあると、子どもは「生きてるのは楽しい」と感じられるようになります。家庭の中で、そうした必要感を積み重ねていくことが大事だと思います。

期待がいっぱい、楽しさがいっぱいの毎日を過ごしていると、子どもは孤独感を感じることなく、心が豊かになります。

体を動かすことで前向きに

そして、体を動かすことは人間にとって生理的に必要なことです。動かずにただ座っている、人と関わらずにいると、脳の働きが停滞して、気持ちも落ち込みやすくなってしまいます。子どもが自分の世界に閉じこもってしまう前に、外に連れ出して動かす。「散歩に行こう」と誘って、30分でも歩いて、アイスクリームを食べて帰ってくる。それも一つの、いいことなのだと思います。

「君がママの子になってくれてありがとう」「君は君のままでいいです。人と比べる必要ない」

そういう言葉を照れずに伝えることもおすすめします。
子どもの心が病んでしまう前に、親ができることはたくさんあります。自己肯定感の高い子どもを育てましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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