2020.09.02
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オンライン授業のこれから

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験を基に、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「オンライン授業のこれから」です。コロナ禍により対面で会う機会は減少し、教育現場においても授業のオンライン化が進んでいます。避けては通れないオンライン授業との付き合い方についてお話しします。

実際に体験することの大切さ。

私個人としては直接会って教わることが一番で、対面での教育にかなうものはないと思っています。先生は勉強を教えるだけの存在ではないし、子どもたちも授業を受けるためだけに学校に行くわけではないんです。先生は「給食をちゃんと食べているかな」「歩き方はいつもどおりかな」と、細かいところまで様子を見て、親と一緒に子どもを育ててくれています。

子どもたちも先生と交流したり、友だちを作ったりすることで、感情面が成長し、社会性を学ぶことができます。これはオンラインではできない経験で、学校へ行くというプロセスも、社会参加の練習になっているんです。

フラットな画面からは得られないこともあります。小さな子どもは身体全体で体験しながら成長していきます。目で見るだけ、耳で聞くだけでは学べないことがたくさんあります。最近の研究では、赤ちゃんの脳のシナプスは画面を見るだけでは増えないということが分かっています。映像の花を見てもシナプスは増えないけど、本物の花を見ると増えるんです。脳細胞をつなぐシナプスが増えれば、脳の構造が複雑になって頭が良くなると言われています。人間の脳についてはまだ解明されていないことも多いですけど、私たちはいろんな感覚で触れて、さまざまな角度から立体的に見ることで学んでいくんだと思います。

すでに成長した大学生ならオンラインでの学びもよさそうです。我が家でも三男の通う大学がオンライン授業に切り替わり、自宅で講義を受けていました。以前からコンピューターサイエンスはオンラインでの授業が取り入れられていました。個人で集中して取り組むような分野はオンライン授業にむいているんでしょうね。講義を聞いたあと、プログラムやレポートを書いたり、絵を描いたりするような分野ならオンラインでも十分学ぶことができそうです。

オンライン授業を受ける時間帯にも気を付けて。

画面越しでは授業の面白さが伝わりにくいという欠点もあります。私も三男の授業の様子を見せてもらいましたが、映像授業ではなんだか気分が盛り上がりませんね。子どもたちの集中力が途切れないようにするのは先生次第です。これからは先生もYouTuberみたいにならないといけないかもしれません。私も電球の交換の仕方とかケーキの作り方とか分からないことはYouTubeで調べます。内容に合わせて字幕を入れたり、画面を切り替えたりして、分かりやすく面白く教えてくれる動画がたくさんあるんです。それもオンライン学習のひとつですよね。

授業を受ける側にも注意が必要です。オンライン授業には、録画した講義を好きな時間に見られる授業もあります。いつでも大丈夫となると、やっぱり夜更かししてしまいそうです。ついつい楽しいことを優先して、夜になってから、寝る前ぎりぎりになってから授業を受けるのでは、一番いい状態で学習しているとはいえません。脳の働きも悪く、結果的に教育の質が下がってしまうことが心配です。

学び方の選択肢が増えるメリット。

オンライン授業にもメリットはあります。実は私も中国の大学の授業をオンラインで受講しています。海外の大学や著名な講師の授業を自宅で受けられるというのは素晴らしいことですよね。ハーバード大学やスタンフォード大学など、アメリカの一流大学もオンラインで講義を公開していますよ。しかも、無料で!

学校に行けない不登校の子どもたちにとっても、学び方が多様化して、選択肢が増えるということはいいことだと思います。教室の雰囲気や人に会うことが苦手で勉強するチャンスがなくなってしまうのはもったいないことです。それがオンライン授業で解決するんだったら、ぜひ積極的に活用してほしいです。

今の環境に慣れていくために必要なこと。

結局、教育のオンライン化は時代の流れなので、慣れていくしかなさそうです。今は違和感や課題があっても、時間と新しい技術がなんとかしてくれると思います。慣れるまでは、オンライン授業のデメリットを解決するために、保護者によるフォローが必要でしょう。例えば先生に疑問を投げかけても、対面のようにすぐに返事がないかもしれません。先生の反応がなければ、質問をすることをやめてしまう子どももいるでしょう。どこが分からないのかも分からないまま進んでしまう可能性もあります。ですから、そばにいる保護者が子どもの疑問や理解度をサポートして注意深く進める必要があるように思います。

オンライン授業が上手くいくために、先生、生徒、保護者、みんなのスキルアップが必要です。これが未来の新しい日常になる可能性もあります。みんなで学びながら、子どもたちにベストな教育が受けられるように、頑張りましょう。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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