もうひとつのインターハイ2
昨年度は南東北(山形・宮城・福島)を会場に全国高校総体(インターハイ)が行われ、本県も開催県として大いに盛り上がりました。そんななか、定時制や通信制高校に通う生徒たちを対象に、「もうひとつのインターハイ(全国高等学校定時制通信制体育大会)」が行われていました。昨年度、卓球部の監督として参加し、感じたことを記事に書きました。詳細はコチラ↓です。
https://www.manabinoba.com/tsurezure/016105.html
さて、今年度は東海地方を会場としてインターハイが行われました。「もうひとつのインターハイ」の方は、昨年度と同じく東京都を中心に開催されました。私も昨年度に続き、監督として参加することができました。夏休み明けはインターハイの報告会などが行われ、話題になる時期だと思うので、「もうひとつのインターハイ」についても知ってもらいたいと思い、あらためて記事を書いてみました。
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭 山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路
働きながら学ぶこと
定時制高校の特徴と言えば、働きながら学べるということが挙げられるでしょう。全日制高校ではバイト自体を禁止している学校もあるので、むしろ就労を奨励しているというのは大きな特徴だと思います。ただ、定時制の課程が設置された当初のように、「勤労青年の学びの場」という雰囲気は薄れ、全国的に見ても毎日就労している生徒はさほど多くないのが現在の定時制高校です。
そんななかで、今回の大会に参加した私の勤務校の選手は全員が就労しているという状況でした。昨年度の記事と重なる部分もありますが、働きながら学ぶというのは言葉以上に難しいことです。さらに部活までしっかりやるというのは、中学を卒業して間もないような生徒にとっては体力的にも非常にハードルが高いです。
始業時間は17時ですが、日中の就労で何かトラブルがあれば憂鬱な状態で授業に臨まざるを得ません。体育や部活でストレス発散したいと思っても、翌日の就労を考えると、無理はできないなという気持ちが先行します。夏休み中の練習は、部員の就労時間帯を考慮して、なるべく多くの生徒が参加できる時間帯に設定しました。他方、炎天下で仕事をする生徒もいますし、夏休み中は就労時間が長くなっている生徒もいます。そうなれば、大会期間中に疲れを残さずベストコンディションで臨むため、軽めの練習計画を立てます。
また、大会期間中に就労を休むということは、その前後に休めないということになります。「大会前日だからゆっくり休んで・・・」とか「大会も終わったから、お盆はゆっくり・・・」といった言葉は通用しないのです。実際、参加した選手の多くが前日や大会翌日の朝から就労していたようです。
部活の意義
部活は何のためにやるんでしょう?競技力の向上や大会で優勝すること?仲間と切磋琢磨する経験?集団生活のスキル向上?・・・校種や種目、人数、競技経験など、様々な要素によって、いろんな目的があると思います。どれが正解ということはないでしょうが、学校の教育活動の一環としてやっている以上は、その学校の教育目標や目指す人間像に近づくような目的でなければいけないはずです。
さて、私の勤務校での部活の場合は、前述のように就労している生徒も多く、夜遅くの練習が難しい状況です。そうなれば、「〇〇大会〇位」といった目標以上に、大切にしたいものがあります。それはやはり「他者を受け入れてほしい」ということです。部員にもそれぞれ違った考え方や家庭環境、就労の状況があります。それを一律に「この部に入ったんだから、こうでなければならない」と接するのではなく、互いの状況を慮り受け入れてほしいと考えています。例えば、「翌朝からの勤務に支障があるので部活をせずに帰りたい」と申し出る生徒もいます。きちんと理由を説明し、自分の体力なども考慮した上で判断しているわけですから、何の問題もないわけです。が、「ずるい」とか「忙しいのは皆同じだ」といった意見が出れば、たちまち居づらい場所になってしまいます。
大会のときに駅で迷い集合時刻に遅れた生徒がいました。右も左も分からない状況ですから、だいぶ焦ってパニックになっていたようです。通話しながら誘導して無事に合流できましたが、その後の電車時刻を考えると焦りや苛立ちを感じていた生徒もいたかもしれません。しかし、遅れて何とか合流できた生徒に、別の生徒が無言で握手をしてあげていました。それを見たら、他の生徒はもう何も言えません。すごく微笑ましいなぁと思って見ていました。
またある日のこと、夏休み中の練習計画を考えていたときです。「〇日は練習ありますよね?」と聞きに来た生徒がいました。その日は地元の祭りがあって、同じ部の友人と出かけたいと話していましたが、時間帯的に練習に参加するのがギリギリなようでした。実は、就労している生徒たちの休みが合って一緒に遊ぶというのはけっこう難しいものです。また、前もってしっかり計画を立てているわけですし、そのために部活だけがネックになっているため相談に来ています。「いいね!その日は休んで気をつけて行って来たら?」と話すと、すごく驚いた様子で「え?良いんですか?」と何回も聞かれました。そのときに思ったのは、なぜこんなに恐縮するのだろう?ということです。これまで、そうしたことが一切許されない環境だったのだろうか?と考えてしまいました。単に部活に参加するより、こうした事情があったときに事前に相談に来るというスキルをつけることの方ははるかに大事だと思います。こういう力が、部活をやったからこそ身についたというのは素晴らしいことです。もちろん、毎日しっかり部活に参加していることを否定するものではありません。その学校や生徒の状況によって、様々なパターンが考えられるのだなということです。
全国的にはまだ夏休みが続いている学校も多いようですが、本県はもう授業が始まっている学校がほとんどです。心も体も少しずつ学校に慣らし、新たなスタートを切っていきたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
高橋 英路(たかはし ひでみち)
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。
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