話す≠伝える
以前の記事でも触れたことがありますが、私は授業を通して自分の考えを発信する力をつけたいと考えています。授業でつけた力は、行事や学校生活、さらには学校以外の様々な場面でも通用するようになってほしいと思っています。
他方、「話すこと」と「伝える」ことは別で、「話したはずなのに伝わっていない」ということもよくあります。
就労している生徒が多い定時制である本校は、基本的に宿題は出さないのですが、夏休みにだけ「生活体験作文」を課しています。休み明け、校内でその発表会が行われ、県や全国の発表会にも繋がっていきます。その指導を通して感じたことを書きたいと思います。
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭 山形県立米沢東高等学校 教諭 高橋 英路
生活体験作文とは?
内容はプライバシーに関わるものも多いので詳しくは紹介できませんが、定時制を選ぶに至った過去や、全日制の高校では経験できない就労での気づき、高校生活での自己変容などを、具体的な経験に基づいて書いたものが多くあります。現在の生徒からは想像もつかないような過去を書いているものもあり、読んでいてその変容ぶりに、良い意味で驚かされることも多々あります。
発表会の雰囲気
また、発表する側も、普段はなかなか話ができなかったり、大きな声を出せなかったりする生徒でも、最後まで自分の声で堂々と発表します。発表した後は、やり切ったという表情で、「発表しなきゃ良かった」という声は聞いたことがありません。かなりプライベートな内容を話す生徒も多いのですが、それは「本校の友達と先生の前なら…」という信頼関係・安心感があるからこそ話せるのだと思います。
想いを伝えるには?
文章の内容は、クラスの代表になるくらいですし、教員からの指導も受けているので、甲乙つけ難いものがあります。特に、「作文コンクール」でなく「発表会」なので、審査員は文字化された原稿を持っていない状態で、発表者の口から出てくる言葉だけを聞くことになります。そういう意味でも、発表者の文章を正確に比較して優劣をつけるのはなかなか難しいと思います。
一方、発表の仕方・態度については、比較的わかりやすいなぁと思って発表を見ています。もちろん発表の仕方についても練習をするわけなので、まったくダメという生徒はいません。ただ、その重きの置き方は指導する先生によって違っています。生徒と話しながら丁寧に文章を推敲する指導もあれば、生徒の書いてきた元の文章を生かして発表練習に時間をかける指導もあると思います。両方が大事ですが、夏休み明けからの時間も限られていること、日中は就労していて課外での指導時間も十分に確保できないという制約もあります。
ということで、私は文章については生徒の書いたものを尊重し、早めに発表練習を始めるようにしています。そのときに代表の生徒に常々話をしているのが、「あなたのやることは、一字一句間違えずに原稿を読むことではなく、自分の考えていることを伝えること」ということです。そのために、まずは原稿を堂々と読めるようになるのが第一段階。でも、そこで終わったら、相手に伝わりません。その後に、原稿から目を離し、抑揚をつけたり、視線や身体の動きなどを考えるようにしています。ここは生徒と話しながら文章を推敲するときと似ていて、「この文章はどういう気持ち?怒り?あきらめ?」などと聞きながら、声の大きさや表情、視線の置き方についても一緒に考えるようにしています。
ここまで指導できた生徒の発表は、聞き手に想いが伝わり、共感できるものが多く、結果としても好成績を収めることができました。もちろん、このようなスタンスでの指導がすべてではないでしょうし、文章の専門家でない私なりの一つの考えに過ぎません。ただ、様々な発表会を聞いていて、時間をかけて文章を推敲し、発表は原稿をきちんと読めるという段階で終わっていることが多いと感じていたので、このような記事を書いてみました。
また、今回はたまたま発表会を例にあげましたが、実生活でもおそらく同じことが言えると思います。同じことを話しているのに伝わらない…せっかく良い考えを持っているのに伝わらない…言い方が悪くて誤解された…そんなことにならないよう、「伝え方」にも重きを置きながら指導していきたいなぁと考えています。
高橋 英路(たかはし ひでみち)
前 山形県立米沢工業高等学校 定時制教諭
山形県立米沢東高等学校 教諭
クラス担任と、地歴科で専門の地理を中心に授業を担当。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、p4c(philosophy for children)やKP(紙芝居プレゼンテーション)法などの手法も取り入れながら日々の授業に取り組んでいます。
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