カレーの店「ふくしんず」 【食と暮らし】[小1・給食・生活科]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十九回目の単元は「カレーの店『ふくしんず』」です(2005年、高知市立横浜小学校での実践より)。
福神漬には何が入っているのかな?
給食でカレーライスを食べている子どもたちに、カレーの中に入っている野菜は何かたずねてみると、
「ニンジン」
「ジャガイモ」
「タマネギ」
と、返事が返ってきました。カレーライスは家庭でもよく食べられている料理であり、野菜の姿もわかりやすいのでしょう。
そこで今度は、福神漬に入っているのは何かたずねると、子どもたちは急に「?」と沈黙し、福神漬を観察し始めます。細かく刻まれた断片を見ても、元の姿を想像することはできません。
「何が入っているの?」
とギブアップした子どもたちは、答えを教えてと訴えてきましたが、
「お家で調べておいで!」
と答えを言いませんでした。
何日か経って、子どもたちは、福神漬の原材料をメモしたり、空き袋を持ってきたりしました。そこには、「ナス、キュウリ、ナタ豆、ダイコン、ニンジン、ゴマ」などたくさんの野菜が書かれています。カレーライスにいつも少しだけ添えられる福神漬の中に、こんなにたくさんの野菜が入っていることに、子どもたちはびっくりしました。
材料の野菜を育てる
さて、子どもたちに出会わせたいと思っていた食材の一つは「ナタ豆」です。ナタ豆は近年の健康茶ブームで知られるようになってはきたものの、子どもたちにはほとんどなじみのない豆です。生長したさやは30cmほどの長さになり、その形が「ナタ」に似ていることからその名前がついています。
私自身もこの豆の存在を知った時、福神漬の中に入っている一番おもしろい形をしているのがナタ豆の若いさやを輪切りにしたものだと聞いて驚きました。「ナタ豆を育てて、特製福神漬作りに挑戦!」。1学期、教室の南側に作った緑のカーテンには、ナタ豆がぶら下がりました。できた若さやを塩漬けにして、出番が来るまで待ってもらうことになりました。
「わぁ! これダイコンだって!」
と大喜び。自分たちが育てているダイコンの未来の姿を給食で見られ、これからの励みになったようでした。
福神漬作り
福神漬の作り方
【材料の野菜(分量は本実践でのもの)】
・ダイコン(約4kg)……いちょう切り
・ニンジン(中4本)……いちょう切り
・レンコン(1節)……皮をむき、いちょう切りしてから酢水にさらし、熱湯でさっとゆでる。
・キュウリ(3本)……いちょう切り
・ショウガ(1かけ)……皮をむき、千切り
※以上の野菜を分量の4%の食塩に2日間漬ける。
・ナス(6本)……いちょう切りにし、焼きミョウバンを少量合わせた食塩(分量の4%)に2日間漬ける。
・ナタ豆の塩漬け(20本)……輪切り
【漬け液材料】
・しょうゆ:3カップ
・みりん:2カップ
・水あめ:600g
・砂糖:200g
※以上の調味料を大鍋に入れてひと煮立ちさせ、冷ます。
【手順】
(1)材料の塩漬け野菜を水洗いし、塩出しをして水気を絞る。ここで半日ほど干す。
(2)大型容器に野菜と漬け液、細切りの昆布(適量)を入れ混ぜ合わせる。
(3)重石をのせ、冷暗所に置き、1日1回混ぜる。1週間ほどで出来上がる。
カレーの店「ふくしんず」
1月末の日曜参観日で子どもたちがカレーの店を開きました。その名も「ふくしんず」。カレーの店なのに、この命名をした子どもたちの福神漬に対する思いを感じました。そして、カレーの中に入れるのは、もちろん切り干し大根です。乾燥していたダイコンを水で戻すことで、何倍にも膨れ、柔らかくなったことにも、子どもたちは興味津々でした。切り干し大根とツナ缶を使って作ったカレーライスに、特製の福神漬をたっぷり添えてお客さんに食べてもらいました。
下記に紹介する歌は、お店のオープンに向けて子どもたちが作った「ふくしんずカレーのうた」です。アニメ映画『となりのトトロ』の収録曲「さんぽ」のメロディーに合わせて、大成功のお祝いに皆で歌いました。
「ふくしんずカレーのうた」
みんなのカレーはふしぎなカレーやさいパワーがいっぱいつまった
だいこん なたまめ にんじん れんこん
なす きゅうり ちょっぴりからいしょうが
みんなそろって ふくしんず
おいしくなあれ おいしくなあれ
じゅもんをとなえて いただきます
子どもたちの感想(日記より)
子どもたちの感想を日記より抜粋します。
「今日はカレーやさんをやりました。おかあさんとおとうさんとおとうとがカレーをたべにきてくれました。ふくしんずカレーをおいしいといってたべてくれました。あとでたべたら、すごくおいしかったです」。
「おかあさんたちはカレーのことをおいしいおいしいといってくれました。いっぱいおきゃくさんがきたので、つかれました」。
「ぼくたちのカレーはすごくおいしくて、ごはんつぶ一つものこさなかったです」。
授業の展開例
- 野菜や果物を切ってみるとどんな形になっているか調べてみましょう。縦に切った時と横に切った時はどんな違いがあるかな?
- 七味唐辛子には何が入っているのでしょうか。福神漬と同じように調べてみましょう。
汲田 喜代子(くみた きよこ)
高知県いの町立川内(かわうち)小学校 教諭
「カイコをそだてよう」では、桑茶や桑ケーキを作り、育てたカイコが作った繭から糸を採り織物に。「ピザのたねをまこう」では、小麦、タマネギ、ニンニク、トマトを育てピザやスパゲティー作りに挑戦。「ふくじんづけパーティーをひらこう」ではナタ豆を育て、塩漬けにした他の野菜と一緒に福神漬を作るなど、「どきどき」「わくわく」がいっぱいの食農教育に取り組んでいます。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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