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2016.12.08
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天笠 茂  カリキュラム・マネジメントを語る。

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

教科横断的視点と校長のリーダーシップで「チーム学校」をつくる

次期学習指導要領でカリキュラム・マネジメントが注目されている。文部科学省は学習指導要領の理念を実現するために必要な方策として「カリキュラム・マネジメント」を挙げる。同じく次期学習指導要領のポイントであるアクティブ・ラーニングを実践する上でも欠かせないという。一体、カリキュラム・マネジメントの何が注目されているのだろうか? 学校経営や教育経営を専攻し、中教審初等中等教育分科会臨時委員を務める天笠茂教授に、今求められるカリキュラム・マネジメントについてお話しいただいた。

カリキュラム・マネジメントには三つの柱がある

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

学びの場.comはじめに「カリキュラム・マネジメントとは何か?」からお伺いします。大変テリトリーの広い言葉で、具体的につかみにくい印象があるのですが。

天笠茂カリキュラム・マネジメントの三つの柱からご説明しましょう。詳しくは文部科学省の審議の答申を読んでいただく必要がありますが、大まかに説明しますね。

一つめの柱は、教科横断的な視点を持って教育内容を組み立てるということ。

二つめは、学校教育におけるPDCAサイクルを確立するということ。計画(PLAN)、実践(DO)、評価(CHECK)、改善(ACT)のサイクルを作ることです。

三つめは、教育活動に必要な条件整備をすることです。学校教育で必要なものは質の高い授業であり、しかも、ヒト、モノ、時間、お金のやりくりなど、運営面の環境を整えることで初めて教育目的が達成できます。これら運営、経営に関わる話は、ともすれば教育内容と別々に語られがちですが、教育活動はこれらに下支えされて行われるわけですから、教育内容と一体に考えるべきです。

これらカリキュラム・マネジメントの概念は新しいものではありません。ただ次期学習指導要領の、特にアクティブ・ラーニングとの関係におけるカリキュラム・マネジメントとは何か。この点が注目されているのですね。先生方の目は今まさに、アクティブ・ラーニングを実践するために授業をどのように工夫していけばいいのか、改善していけばいいのかに向けられていることと思います。ここで当然ながら、アクティブ・ラーニングのための環境を整えていく必要が出てきます。その環境を整える手立てとして、カリキュラム・マネジメントという考え方が有効なのです。

各科目の教員に求められる「教科横断的」な視点

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

学びの場.comアクティブ・ラーニングの環境を整えるとは具体的にはどのようなことでしょうか。

天笠 茂まずカリキュラム・マネジメントの一つめの柱、「教科横断的な視点」が必要になってきます。これは特に教科の専門性が高まる中学、高校の教員にあてはまることですが、今、ほとんどの教員はそれぞれに自分の授業内容を工夫し、組み立てていると思います。各教科の教員が自分の教科をしっかり組み立て、授業を行えばよい、そういう考え方が主流ではないかと思います。もちろん、それはその通りなのです。そこが抜けたら、いい授業はできませんから。その上で、教科横断的な視点で学習内容を問い直してみようというのが、カリキュラム・マネジメントの視点です。

どの教科でも先生の立てる授業計画は、各教科の年間指導計画やシラバスが基になっていると思います。では、その年間指導計画とはどのように作られているのか? これを丁寧に読み解いていくと、自分の教える教科以外の教科とのつながりが見えてくるはずです。理科と数学の授業のつながりはイメージしやすいと思いますが、他にも例えば社会ではどうでしょう。歴史を学習する上では統計的な素養がないと史料を読み取ることはできません。つまり数学的な能力が求められる。歴史の授業にも数学の授業とのつながりがあるわけです。こうした視点で授業計画を組み立てていくと、どの教科にも他の教科との脈絡が生まれてくると思います。そこを踏まえて授業計画を組み立てることで授業に広がりが生まれ、子ども達の深い学びにつながります。

教科を超えた校内研修は教員にも子ども達にも大きなチャンス

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

学びの場.com教科横断を実行していく上で、校内の研修はどのようにするべきでしょうか。

天笠 茂私は、先生方が授業を見学し合い、意見を交換するのが校内研修の基本スタイルだと思います。例えば国語の先生が数学の授業を見学する。文章題が解けない学生が多いとしたら、もしかしたらそれは国語の読解力が不十分だからかもしれない。あるいは理科の実験リポートがうまく書けない学生が多いとしたら、それは作文力が不十分だからかもしれない、と国語の先生が気づかれる点もあると思います。それが授業の組み立てを考え直すきっかけになるはずです。

だから私は、教科横断的なカリキュラム・マネジメントは、中学、高校の先生方にとっていい機会になるんじゃないかと思いますね。まさに生きる力、コミュニケーション能力の開発に直結するカリキュラムにつながる可能性があります。子ども達の資質能力の開発は、特定の教科よりむしろ教科を横断したところで生まれてくるからです。例えばコミュニケーション能力は特別な教科の中で養われるのではなく、各教科の中で少しずつ培われていくものでしょう。課題解決のために必要な思考力、判断力、表現力というのも、それぞれの教科の中で追究できる部分と、教科をつなぎ合わせる中で育まれる部分の双方が相まって深まっていきます。それを考えると、教科を超えた校内研修は、新しい授業の開発も含め、様々な可能性が期待できます。

校長に期待されるプロデューサーとしてのリーダーシップ

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

学びの場.com校長先生の役割はどのように変わりますか?

天笠 茂ひと言で言うならプロデューサーとしての働きが求められます。これまでは、それぞれの教科の先生の自主性を尊重し、どうぞ自由にやってくださいという態度が、良きリーダーの姿だったかもしれません。それぞれの先生がそれぞれに軒を張って努力される、それで何となく学校の調和が取れていた、そういう時代が、確かに長いことありました。

しかし、それではもう、うまくいかないことがはっきりしています。個々の先生ではなく、先生方がチームを組まなければ解決できないトラブルが続々出てきました。となると、先生達同士もっとコミュニケーションを深めていきましょう、協力していきましょう、といった働きかけが必要になります。ここでリーダーの在り方が問われてきます。チームワークを作り出し、相乗効果を生み出し、あるいはフォローアップしていく。教員達の協働を生み出していくマネジメント能力が求められるのです。カリキュラム・マネジメントの視点をもって、学校という組織をどう機能させていくか。教育課程、学校目標、これらを実現するにはどうマネジメントしたらいいのか。それを自ら問いかける校長先生を期待したいですね。

地域に開かれた学校をつくっていく上でも、キーパーソンは校長先生になるかと思います。地域の方々と共に学校を作っていく、そこにまた別のマネジメントが求められます。地域と連携した学校づくりはまだまだ道半ば。学校と地域、お互いの理解を深め合う試みを、焦らず地道に継続していく必要があると思います。

教育現場にPDCAサイクルを取り入れ、目標の達成を図る

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

学びの場.comところで一般の教員からは学校教育にはまず学習指導要領があり、教科ごとの目標、学校ごとの目標とあって、これらが有機的につながっていないという声も聞かれます。

天笠 茂ええ、わかります。学習指導要領、学校教育目標、教育課程、各教科年間指導計画……。自分の授業とこれらの関係は把握できても、学校全体として相互にどうつながっているのか整理しきれない、というのが実態ではないでしょうか。ここで必要になってくるのが、カリキュラム・マネジメントの二つめの柱、PDCAサイクルの確立です。教育課程を編成(PLAN)し、実施(DO)し、目標が達成されたかどうか評価(CHECK)し、達成していないのであれば改善していく(ACT)。このサイクルを学校の中に組み立てていく必要があります。

学びの場.com学校組織の中では特にC、チェック機能が難しいのではないでしょうか。

天笠 茂そうですねえ。でもこの10~20年、評価の部分で学校は随分、頑張ってきましたよ。身内の振り返り作業だけでなく、地域の人の視線や、保護者や学生の視線を取り入れるようになってきました。制度上もどんどん変わりましたからね。ある意味、学校側はまだそれに応じて切れていないという状況かもしれませんが、着々と改善されていると思います。

天笠 茂 カリキュラム・マネジメントを語る。

学びの場.com一般の教員にもカリキュラム・マネジメントの意識が求められるということですね。

天笠 茂そうです。まず取り入れていただきたいカリキュラム・マネジメントは、はじめにお話しした教科横断の視点です。これまでは数学の先生、理科の先生と、各々が一人で切り盛りしてきたとすれば、これからは学校が組織として、チームとして切り盛りしていく体勢が必要になってきます。

例えば理科の先生と数学の先生が共同で授業を計画してみる。時間も場所もやりくりしなければなりません。カリキュラム・マネジメントの三つめの柱、条件整備の必要も出てきますね。一つの方法として総合的学習の時間を利用するのもいいと思います。今までの所、総合的学習の時間は体験的なものに使われている学校が多いと思いますが、カリキュラム・マネジメントの視点から教科横断的な内容を取り入れることもできるでしょう。そして先生方一人ひとりがPDCAサイクルの視点を持って検証する。自分の授業が全体の目標の中でどのように位置づけられているのか、この視点を持つことが次の授業計画につながります。それがまさにカリキュラム・マネジメントなのです。

天笠 茂(あまがさ しげる)

天笠 茂(あまがさ しげる)

千葉大学 教育学部特任教授
1950年生まれ。川崎市立子母口小学校教諭、筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。学校経営学、カリキュラム・マネジメントを専攻。千葉県教育委員長などを歴任。中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会臨時委員、文部科学省教育研究開発企画評価協力者会議委員。主な著書に『学校と専門家が協働する--カリキュラム開発への臨床的アプローチ』(第一法規 2016年)、『カリキュラムを基盤とする学校経営』(ぎょうせい 2013年)など。

インタビュー・文:佐藤恵菜/写真:言美 歩

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