調べ上げた研究成果を多くの人の前で発表「科学教育連携シンポジウム2005」 第1部 高校生シンポジウム
科学を学ぶというと、どうしても難しいものと考えてしまいがちだが、全国の教育現場では、子どもたちに科学を楽しんで学んでもらうために、様々な取り組みが行われている。こうした科学教育の成果を発表し、意見交換を行うための場を設けようと、8月23日(火)から25日(木)の3日間、東京・お台場の日本科学未来館を会場に「科学教育連携シンポジウム2005」が開催された(主催:日本科学未来館、学びの場.com)
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初日となった8月23日は、第1部「高校生シンポジウム」として、学校の外に飛び出して科学技術について研究を行った埼玉県立浦和第一女子高等学校、東海大学付属望洋高等学校、東海大学付属高輪台高等学校、埼玉県立川越高等学校、埼玉県立川越女子高等学校、嘉悦女子高等学校の6校の高校生が、ポスターセッションや代表発表を通じて、その成果を披露していった。 液体窒素などを使った驚きの実験の数々~科学実験教室~ 午前中は、それぞれの学校が調べてきた結果をまとめてポスターセッションという形で発表。このポスターセッションは、午後から行われる代表発表のリハーサルも兼ねていたが、研究の内容について、来場者から質問されても、スムーズに答えられるなど、調べてきたことを、きちんと理解し、自分のものとしていることがうかがえた。 このポスターセッションと並行して行われたのが、「科学実験教室」と「未来の教室」の2つのイベント。「科学実験教室」は不思議な現象が起きる実験を見てもらうことで、科学の楽しさを感じ取ってもらおうというもの。23日の講師をつとめたのは神奈川県立柏陽高校の青木隆道先生。心を読み取る実験ということで、2人の子どもに前に出てもらって、4枚のカードを見せる青木先生。もう1人の子どもに見せないように1枚だけカードを選んでもらって、見ていない子どもにメガネをかけさせると、見事に選んだカードを当てることに成功。実は、このメガネには偏光フィルムが入っていて、指定したカードを青木先生が90度回転させると、他のカードのマークは見えなくなり、指定したカードのマークだけが見えるという仕掛け。まるで手品のような実験に、見ていた子どもたちは大喜びだった。 さらに、液体窒素を使って、マイナス196℃の超低温の世界を、実際に目の前で見せていたが、テレビでは見たことはあっても、瞬時に凍っていくハーブの葉やゴムボールを、目の当たりにすると思わず驚きの声があがっていた。 |
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青木隆道先生による科学実験教室。液体窒素を使った実験に視線が集中! | |||||||||||||
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ニワトリの頭を立体で映し出し解剖の指導~未来の教室~ 科学実験教室と交互に行われた「未来の教室」では、近い将来、教育現場に導入されるかも知れない最新の設備を使った授業が紹介された。23日は「見てわかる 立体3D 理科実験」ということで、医療・看護の現場などでの活用が進む、立体視ディスプレイシステムを使って、学校でどのような授業が行えるかの具体例が、芝浦工業大学柏中学高等学校の奥田宏志先生によって紹介された。 奥田先生の指示で、ちょっと変わったメガネをかける参加者たち。このメガネをかけるとディスプレイに映し出される画像が立体に見えるようになる。まず、DNAのらせん構造やコマルハナバチの画像が3Dで映し出されていくが、様々な角度から見ることができるので、まるで本物を見ているようである。人間の頭部の断面図など、普通ならば見ることができないような画像を、見ることができるという利点もある。
奥田宏志先生による未来の教室 続いて参加者は、鶏の頭部の解剖を体験することになったが、その前に鶏の全身を想像で描いてみることに挑戦。本物の鶏を見る機会も無いので、足や羽の様子を思い出せずに苦労している様子がうかがえた。そして、奥田先生が手本として、鶏の頭部から脳を取り出していったが、その手元がディスプレイに立体で映し出された。こうして一度に多くの人に、実験や解剖の様子を見せることができるのが、このシステムの最大の特徴。ディスプレイで見た奥田先生の手順を参考に、参加者は手際よく解剖を進めていった。 |
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科学館や大学を訪れた体験を研究に生かして
~代表生徒発表~ 浦和第一女子高等学校は、クリスマス・レクチャー(毎年、クリスマスの時期に英国王立研究所で開催される科学実験講座で、日本では半年遅れで開催)で聞いた南極の話をヒントに、どうして南極の魚が凍らないのかを調べていった。それは魚の体内にある不凍タンパク質によるもので、これを食費や医療に応用できるのではないかとテーマを投げかけた。 東海大学付属望洋高校は、日本科学未来館、かずさDNA研究所、千葉県立現代産業科学館の3か所を訪れ、DNAの研究を進めていったが、千葉県立現代産業科学館では、バイオ食品作りということで、チーズやヨーグルト作りも体験したという。 東海大学付属高輪台高校は、SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)活動の取り組みを紹介していったが、理科以外の分野でも、英語コースと数学コースで活動を取り入れているということで、理科で学んだことを英語で発表したり、統計学で実験結果の関係性を割り出したりしているそうだ。 川越高校は「SPPで学ぶ物理学の最前線」ということで、早稲田大学で超電導の実験、東京大学でプラズマの実験を観察したという。そうした外部機関の協力がなくては実現不可能だった貴重な体験の感想を語ってくれた。 川越女子高校の生徒は、最初は科学技術が人間にとって、あまり良くないものと考えていたそうだが、日本科学未来館を見学し、温暖化の影響を正しく学んだことで、科学技術は悪いだけのものではないことを理解し、温暖化解決に向けて私たちができることは何かを考えているという。 嘉悦女子高校もクリスマス・レクチャーに参加したことがきっかけで、南極について調べることになった。南極では大きな昆虫が見かけられるが、それは水の粘性が高いことと、多くの酸素を体内に吸収することに原因があると発表していた。
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お互いの発表を見て感じたことは~意見交換会~ そして、高校生シンポジウムの締めくくりとして行われたのが、お互いの発表内容について話し合う意見交換会。司会の方から活動を通じて感動したことは何かとの質問に、「日本科学未来館などで、最新の科学技術に触れることができた」、「訪問先の研究員の人の解説で、研究の大変さを実感した」といった答えが返ってきた。将来、研究者になりたい人はと聞かれると、約半数の生徒の手があがった。中にはロボット工学の分野に進みたいとする生徒もいるなど、研究者の卵たちの将来が楽しみに感じられた。
そして、総評として日本科学未来館の美馬のゆり副館長は、今回の活動を通じて参加した生徒たちには、「知らないことへのアプローチの仕方を学んだ」、「学校では教わらない内容に触れることで、将来の選択肢を広げることができた」、「プレゼンテーションを行うことで、自分がやってきたことを振り返ることができた」などのメリットがあったと評価した。そして最後に、美馬副館長自身が高校生の時に、校外学習で企業を尋ね、初めて見たコンピュータに感動したことから研究者の道に進んだ体験談を披露してくれた。 (取材・文:田中雄一郎)
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