2011.10.18
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体験型科学教育の指導者を育成(vol.1) 体験から納得・応用まで得られる指導法を習得する―NPO法人体験型科学教育研究所「リアルサイエンスマイスター養成講座I」― 前編

体験型の科学教育は今、注目すべき教育法だ。新学習指導要領・理科の改善点にも、観察・実験や自然体験、科学的な体験を一層充実させ、知識や概念の定着、科学的な見方や考え方を育成することが示されている。NPO法人体験型科学教育研究所では、この教育法を実践する達人指導者を「リアルサイエンスマイスター」と呼び、人材育成を行っている。今回、前編として7月のある週末、東京で行われた養成講座の模様をリポートする。

講座リポート

五感をフルに使った体験型授業の実際に触れる

名称: リアルサイエンスマイスター養成講座I(全コース3日間)
目的: 新学習指導要領に沿った、体験に基づいた科学的・論理的な思考力を育成し、話し合い活動やグループワーク・説明発表を通して表現力を養う授業を創る指導方法の習得
本時の内容: (1)プログラム体験 (2)多様な教え方(「自由探求型」「構成的探求型」「概念提供型」など)を比較して、体験型教育の良さを知る
講師: 品川 明(学習院女子大学 国際文化交流学部 日本文化学科・環境教育センター 教授)

2種類のシジミ汁を飲んだ体験から考察する

リアルサイエンスマイスター養成講座1日目、午前中にラーニングサイクル(課題→導入→探究→概念化→ふりかえり→応用、という学習サイクル)や、教師が「教えない」で、子ども自身にまず体験させることの大切さについて、主に座学で理解を深めた受講者たち。午前のプログラムの最後に講師の品川さんから
「教室の後ろに2種類のシジミ汁を用意したので、昼休みに両方飲んでみてください」
 と言われて休み時間に入った。そして午後のプログラム。まず題材として使われたのがこのシジミ汁だ。

「2種類のシジミ汁、飲んでみて何か気がつきましたか?」
 と品川さん。受講者からは
「貝の色が薄い方が汁の味を濃く感じた」
「色の黒いシジミの方が大きめ」
 など、さまざまな意見が出される。

その後品川さんが、2種類のシジミの産地はそれぞれ、青森県の十三湖と日本海の境目あたり(A)と、岩木川と湖の境目あたり(B)であることを説明し、
「では皆さん、どちらのシジミがどちらの場所でとれたものか、考えてみてください」
 と課題を出す。受講者はまずペアになってそれぞれが感じたことを話し合い、次に4~5人のグループ単位でそれら意見をまとめ、発表した。
 天敵との関係や生息地への順応性など受講者たちのさまざまな考察に対し、品川さんは
「なるほど」
「素晴らしい!」
 と答え、一つも否定しない。この「考えを肯定する」「褒める」という対応が普段の授業でも大切で、子どもは教師から肯定されることにより「どんどん考えを言っていいんだ」と意欲を刺激され、授業の雰囲気が活発になるという。

4つのグループの発表がすべて終わったところで、品川さんが種明かしをした。産地Aは海に近いため、河口付近の流れが強く、潮通しがよい。よって貝の色が薄くて小さいシジミがA。産地Bは水の流れが滞留し、よどんでいる。温泉成分の硫化水素を多く含む水質のため、貝の色が黒く大きいシジミがB。
「私は現地に行ったからこのことを知っていますが、皆さんは自分でシジミ汁を飲食した体験から、味覚、嗅覚、視覚などの五感をフルに使い、それぞれのシジミの生息地を考察しました。普段の授業でもそこがとても大切です。子どもたちにまず、五感をフルに使って体験をさせる。そしてそこから考察させていく(概念化させていく)こと。それが体験型の学習です」
 とまとめた。

未知の液体を突き止める方法を考える

次に、2リットルのペットボトルに入ったAとB、2種類の液体が何であるか、「混ぜずに」「なめずに」、ミルソー・牛乳瓶・インク・氷を使って自由に実験して考える、という課題をグループごとに行った。制限時間は30分。指示書A「自由に研究してみよう」が配られ、そのルールに従って行う。30分後、どのような実験を行ったのか、その結果、液体を何であると考察したのか、グループごとに発表した。
実は指示書にはA以外にB・C・Dの計4種類ある。最初に配られたAは前述の通り、液体が何であるかを知らせず、自由に実験をして考えるというもの。Bは実験方法が具体的に書いてあり、それに沿って実験ができるようになっている。Cには液体の正体(真水と塩水)がすでに書かれており、それを知るためにはどのような実験をすればよいか? と問いかけている。そしてDは、実験の方法、結果、そして真水と塩水の特徴などがすべて細かく書かれている。

「体験型科学教育では基本的に、Aの指示書を渡して子どもたちに自由に試行錯誤させます。しかし、Aで実験を始めている時に、何かの拍子で止まってしまった子には、たとえばBの一部分を使って助言すると、きっかけをつかめ前に進める可能性もあります。子どもたち十人いれば十色、みんな違いますから、教師はA・B・C・Dの4種類すべてのアプローチ方法を準備しておくとよいでしょう」
 と品川さん。この養成講座ではそうした方法を体系的に知ること、そして受講者自身が実際に体験することが重要視されていた。

受講者の先生方に本講座の感想を聞いてみた。
 愛知県東海市の中学校・理科主任の仲澤壮平さん(教師歴9年目)は、
「どうしても詰め込み型になってしまいがちな中学校理科の授業を改善できないかと、今回受講しました。“これが答えです”と決めつけるのではなく、受講者同士が自由に話せる雰囲気の中で、一緒に答えを探していく授業が印象的でした」
 とのこと。同じく東海市の小学校教諭の小島将弘さん(教師歴3年目)は、
「これからの課題は、学習指導要領に沿った授業の中で、どれだけこうしたプロセスを実行できるかを考え、取り組んでいくことです」
 と話した。

記者の目

高校時代、必修の生物の授業でカイコとカエルの解剖をした。当たり前だが、図表で見るよりもずっとリアルで、驚くことが多かった。こうした授業は、生徒にとってはとても貴重な経験になるが、一方で準備段階から教師の労力がとても大きい。体験型授業をさせたいと思っていても、忙しい中でどのように準備し実践していくのか、悩んでいる先生方も多いのではないだろうか。そうした方々に具体的なヒントを与えてくれるのがリアルサイエンスマイスター養成講座だと思った。

取材・文:菅原然子/写真:言美歩

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