2011.11.15
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体験型科学教育の指導者を育成(vol.2) 体験から納得・応用まで得られる指導法を習得する―NPO法人体験型科学教育研究所「リアルサイエンスマイスター養成講座I」― 後編

前回、体験型科学教育の指導者養成講座をリポートした。後編は、この養成講座の講師、品川明さんと、主催するNPO法人体験型科学教育研究所 事務局長の新倉正幸さんに、養成講座のカリキュラムや、体験型教育の理論やメソッド、また同研究所の設立経緯などについてお話しいただく。

講師・主催者に聞く

体験型科学教育の達人指導者を普及させるために

体験を学習にまで発展させることが目的

学びの場.com(以下、学びの場) 体験型科学教育とはどのような教育なのでしょうか?

品川 明 氏(以下、品川) これまでの日本の教育は、どちらかというと教師が生徒に一方的に物事の概念を教える、という形がスタンダードでした。これでは、物事の大枠はわかったような気になっても本質まではとらえられません。体験型科学教育が目指すのは、教師が答えや概念を教えるのではなく、子どもたち自身が体験を通してそれらを見つけていく授業です。

学びの場 「リアルサイエンスマイスター」とは、そういう授業を行える人のことを指すのですか?

品川 そうです。私たちは、学びのプロセスを重視し、チームワークを育てられる。かつ自身も豊かな人間関係力をベースに前向きな生き方をしている人を「リアルサイエンスマイスター」と定義し、私たちが開催する養成講座を修了した人の中から認定しています。

学びの場 養成講座ではどのような授業実践を学ぶのですか?

品川 たとえば今回の講座のように(前編参照)、受講者に「シジミ」という一つの教材を提示して、シジミについて知っていることをどんどん言ってもらいます。その中で、受講者は知らないことにも気づき始めます。「シジミって何を餌にしているのだろう?」「どういう所に住んでいるのだろう?」「なんであんな形をしているのだろう?」というような問いを自分自身で設定して、探求し、わかったことを言葉に表していきます(概念化)。そしてそれらの活動を振り返り、応用につなげ、そこからまた新しい疑問を抱いて探求に入る。これを私たちは「ラーニングサイクル」(図参照)と呼んでいます。

学びの場 これまでも、学校現場の総合的な学習の時間で目指されてきたことと似ているように思います。

品川 そうですね。ただ、総合的な学習の時間は、体験だけにとどまり、学習まで発展させられなかったという反省がよく聞かれます。一方、ラーニングサイクルでは体験を学習にまで発展させることを目指しています。また、総合的な学習の時間だけでなく、普段の各科目の授業の中でこうした形を目指そうとしています。そしてこれは新学習指導要領で一層の充実が求められている、体験による学習活動にもつながります。

3つのステップで目指す達人指導者への道

学びの場 NPO法人体験型科学教育研究所の設立の経緯について教えてください。

新倉正幸 氏(以下、新倉) 設立は2008年です。もともとは、アメリカのカリフォルニア バークレイ校にあるLawrence Hall of Science(ローレンス科学教育研究所)が開発した、20年以上の実績のある「GEMS」という体験型科学教育プログラムがあります。このGEMSをもっと日本の教育の形に合ったものに発展させて、より広く普及させることを目指して設立したのが体験型科学教育研究所なのです。2008年の設立時から株式会社東芝から協賛いただいており、体験型科学教育を広めるための活動を支援いただいています。東芝社員の方も養成講座に参加され、本教育への理解を深めてくださっています。

学びの場 養成講座はどのようなカリキュラムになっていますか?

新倉 大きく3つのステップがあります。まず、「リアルサイエンスマイスター養成講座I」を受講し、ラーニングサイクルについて知り、実際にその授業を体験します。その際、受講者は自分たちで体験型の授業を実際に行い、講師や他の受講者から評価を受けます。東京で開催するときは3日間、地方では2日間のことが多くなっています。これまでにのべ150人が受講されました。小中高の教員では、30代~40代前半の方が特に多く参加されています。

養成講座Iの修了者はその後、月1回行われている「フォローアップ研修会」に参加し、実際に現場で自分たちが行った体験型の授業について情報交換を行ったり、新たなプログラムを体験したりします。そして、フォローアップ研修会まで参加している方の中から、事務局で「この方は」と思う方に「リアルサイエンスマイスター養成講座II」を受講していただき、ここでは教師を指導する側の講師を養成しています。養成講座IIは年間2回の開催を目指していますが、今年初めて第1回目を開催し、6人が受講されました。

学びの場 他にはどのような活動をされていますか?

新倉 全国各地でワークショップや教師向けの講演会を開いています。また、各地の教育委員会と連携し、学校への出張授業も実施しています。これらの活動への参加者を合わせると、これまで約2万人の方に体験型科学教育を知っていただいたことになります。

学びの場 養成講座の参加者からはどのような感想が聞かれますか?

新倉 「教師がリードするのではなく、生徒を主体とすることで学習意欲が高まることがよくわかった」、「表面上の言葉だけを知っていても、実感が伴っていなければ本当の理解には至らないと思いました」など、実際にご自分で体験型の授業を経験することで、その良さに気づいてくださっているようです。

記者の目

「マイスター」とは、ドイツ語で最高位の職人のこと。リアルサイエンスマイスターは、体験型科学教育を実践できる職人たちとも言えるだろう。日本では教師から児童・生徒への一方的な授業がスタンダードであったが、その中でも双方向の授業を実践してきた教師もたくさんいる。そうした取り組みがこのNPOの活動を通してより多くの人たちに広まれば、子どもや保護者、教師が、学校生活のみならず生活全般を、体験を通して豊かにするきっかになるのではと感じた。

取材・文:菅原然子/写真:言美歩

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