「宇宙博2014 ―NASA・JAXAの挑戦」体験リポート 科学教育イベントで体感する宇宙開発の過去・現在・未来 ― 千葉・幕張メッセ ―
「宇宙博2014 ―NASA・JAXAの挑戦」が9月 23 日まで千葉・幕張メッセ(国際展示場10・11ホール)にて開催されている。本博は、アメリカと日本の宇宙開発の歴史や最新の活動を紹介する、この夏注目の大規模な宇宙イベント。国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟や火星探査車「キュリオシティ」の実物大モデル機、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星の微粒子サンプル(展示休止期間あり)等、子どもたちが見て感じて科学を学べる、見所満載の展示をリポートする。
展示体験リポート
人類の宇宙開発の歩みと最先端の取り組みを体感!
展示は「NASA」「JAXA・日本の宇宙開発」「火星探査」「未来の宇宙開発」の四つのエリアで構成されている。ここでは、子どもたちに特にお薦めしたい三つの展示エリアの見所を紹介する。
NASAエリア
NASAが挑んだ有人宇宙開発の歴史をたどる
メインエントランスを入ってすぐの所にあるNASAエリアでは、アジア初開催となるNASA(アメリカ航空宇宙局)公認の世界巡回展「NASA A HUMAN ADVENTURE」を見ることができる。ソ連との宇宙開発競争からISS(国際宇宙ステーション)に至るまでのアメリカの宇宙への挑戦の歴史が年代別にわかりやすく紹介されており、約300点もの実物資料とNASA開発のロケットや宇宙船の実物大モデルがズラリと並ぶ圧巻の展示となっている。
特に注目してほしいのは、人類初の月面着陸を成し遂げたアポロ計画の展示ゾーンにある「アポロ17号」司令船の実物大モデルと、その帰還時に宇宙飛行士が実際に使用したパラシュートだ。アポロ17号計画は1972年に行われた最後の月着陸ミッションで、間近に見る司令船のモデルはとても小さく、ここに3人の宇宙飛行士が乗り込んで遠い月を目指したという事実に驚きを禁じ得なかった。また、パラシュートは天井から吊るされているので、使用時の様子がイメージしやすい。ぜひ、宇宙飛行士たちを地上に運んだ当時の様子に思いを馳せながら見てほしい。
もう一つ見逃せないのが、貨物を宇宙に運んだ初の再使用型宇宙船「スペースシャトル」の展示ゾーンだ。ここには、2011年に最後のミッションを行ったスペースシャトル「アトランティス」の機首部分の実物大モデルが展示されている。機首部分と言っても、奥行き約9メートル、高さ約4.6メートルもあり、目の前にすると、その大きさがひしひしと感じられる。機首部分は2階建てで、1階には乗組員が生活するミッドデッキ、2階には操縦室のあるフライトデッキがあり、どちらも見学が可能。フライトデッキはアクリル板に覆われていて中に入ることはできないが、操縦席を間近に見ることで宇宙飛行士の気分が味わえる。
JAXA・日本の宇宙開発エリア
日本が誇る宇宙開発技術を知る
JAXA・日本の宇宙開発エリアでは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)を中心に日本の優れた宇宙開発技術とその進化の歩みが紹介されている。子どもたちがニュース等で耳にしたことがあるものも多く、楽しみながら科学に親しめる展示になっている。
ひときわ目立つのは、精巧に再現されたISSの「きぼう」日本実験棟の実物大モデルだ。中に入れるので、宇宙飛行士の若田光一氏がどのような空間で科学実験を行っていたのかを体感することができる。なお、宇宙飛行士たちが無重力空間で上下の感覚を失って気分が悪くなるのを防ぐために、きぼうの内部には天井と床を一目で区別するためのある工夫が施されているのだが、これは行ってみてのお楽しみ。こうした発見を通して、子どもたちの科学への関心も高まることだろう。
子どもたちにも人気の小惑星探査機「はやぶさ」の展示ゾーンには、はやぶさの本体やイオンエンジン、再突入カプセルの実物大モデルや、2014年12月に打ち上げが予定されている「はやぶさ2」の模型、さらには、はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワの微粒子サンプルの実物が展示されている。微粒子サンプルは電子顕微鏡で実際に見ることができるというので早速覗いてみたが、気の遠くなるほど遠い惑星の物体を目の前にするというのは、何とも不思議な体験だった。子どもたちにもぜひ、自分の目で確かめてもらいたい。(微粒子サンプルは8月31日(日)までの公開)
日本の宇宙開発の歩みを紹介する展示ゾーンでは、1955年に糸川英夫博士が開発した日本初のロケット「ペンシルロケット」から、現在、主力ロケットとして活躍するH-IIA、H-IIB両ロケットの最新型エンジン「LE-7A」の実物まで、その歴史を時系列でたどることができる。興味深いのは、1999年にH-IIロケット8号機の打ち上げに失敗した旧型エンジン「LE-7」の実物が展示されていることだ。海に落ちたこのエンジンを回収し、失敗の原因を明らかにしたことで、後継のLE-7Aが生まれたのだという。はやぶさがそうだったように、ここにもトライ・アンド・エラーを繰り返して成果をあげてきた日本の宇宙開発の姿を見ることができる。
このほか、国立天文台の展示では、国立天文台が米欧と協力してチリのアタカマ砂漠に建設した巨大電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」のアンテナ模型なども見ることができる。
火星探査エリア
火星探査の「今」を体感する
火星探査展示エリアでは、太陽系の惑星では地球に最も近い環境を備えた火星の謎に迫る最前線の研究を知ることができる。
目玉は、アメリカ国外では初出展となる火星探査車「キュリオシティ」(正式名称マーズ・サイエンス・ラボラトリー)の実物大モデル機だ。モデル機と言ってもNASAが製作した精巧なもので、本物さながらの迫力が感じられる。会場にはキュリオシティを囲むように螺旋状のスロープが設けられており、目線の高さや角度を変えて詳細を観察したり、大きさを体感したりすることができるようになっている。
キュリオシティの目的は、火星に生命が存在した痕跡があるか、生命を育むに適した環境であるかを調べること。その目的を達成するため、キュリオシティは今まさに火星で探査活動を行っており、搭載されたカメラや測定・分析装置等の高性能機器を駆使して得た膨大な量の観測データを地球に送り続けている。具体的には、レーザーを照射して岩石の内側を観測・記録したり、ドリルを使って採取したサンプルを分析したりしているのだそうで、その火星探査の様子は、会場で放映されているイメージ映像で確認できる。また、スロープの背後にはキュリオシティが火星で撮影したパノラマ写真のパネルが展示されており、赤茶けた砂や岩石で覆われた火星の様子がぐるりと見渡せるようになっている。
本博の学習ポイント
人類の宇宙進出の道のりをたどってほしい
本博の開催にあたり、総合監修を務めたJAXA名誉教授の的川泰宣氏と共に会場内を巡りながら、展示の見所や宇宙開発についての説明を伺う機会を得た。その中から、子どもたちに学んでほしいポイントや授業に応用できる点をピックアップしてお届けする。
宇宙開発の歴史を体系的に理解する
的川泰宣氏によると、人類が半世紀に渡って積み上げてきた宇宙開発の歴史が、これほど多くの実物資料やレプリカを交え、体系的に網羅されている展示は、これまでに例がないそうだ。それゆえ、本博は人類の月着陸をリアルタイムで見たアポロ世代や、スペースシャトルと同世代の人はもちろん、21世紀の宇宙時代に生きる子どもたちにとっても意義のあるものとなっている。
「若い方には私のようにリアルタイムという感覚はないでしょうが、この展示を順番に見ていただければ、人類がどのように宇宙に進出していったかという足跡を克明にたどることができます。アポロ計画については特にしっかりと歴史が網羅されていて、10年に及ぶ開発の歩みが数分間で見られるようにまとめられています。ある程度予習をしてからご覧になれば、もっとよく理解できるでしょう」(的川氏)。
展示での体験がさらなる学習に発展
展示されている実物資料や実物大モデルは、めったに見られない貴重なものばかり。スペースシャトル「アトランティス」の機首部分やISSの「きぼう」日本実験棟の実物大モデルは、ぜひ中を覗いて大きさや雰囲気を体感してほしいと的川氏は言う。
また、火星探査車「キュリオシティ」は実際に乗ってみることはできないが、実物大モデル機やイメージ映像を見て学べることもある。
「はやぶさが行ったイトカワのように重力が極めて弱い小惑星では、地面との摩擦がないので車輪が役に立ちません。そのため、小惑星の表面をジャンプしながら移動する探査車ミネルバを設計しました。一方、火星は重力が結構ありますから、キュリオシティは地上の車と同じような設計になっています。惑星や天体の環境によって探査車の形やメカニズムが変わってくるわけです」
的川氏はキュリオシティの形状と火星の環境との関わりをこう説明してくれたが、このようなことを理科の学習につなげることもできるだろう。
一方、小惑星探査機「はやぶさ」が回収した小惑星イトカワの微粒子サンプルも、子どもたちに様々な学びをもたらしてくれるはずだ。
「分析の結果、微粒子は45億数千年前のものだったということがわかり、はやぶさは太陽系の初期に何が起こっていたのかを初めて人類に示すという成果をあげました。ここにはイトカワの模型も展示されていますが、イトカワがなぜこのような歪んだ形になったのかということも、分析によって明らかにされています」(的川氏)。
こうした微粒子の分析結果はJAXAのホームページや雑誌などで発表されているので、これを調べることで子どもたちの学習を発展させることも可能だ。また、はやぶさの大気圏突入からカプセル帰還までのプロセスには、日本の町工場や中小企業の技術が反映されており、科学の分野における日本の優れたものづくりについて学ぶ機会にもなるだろう。
記者の目
特に子ども向けのイベントというわけではないが、子どもの興味を引く体感型の展示もあり、理科の学習に結びつける要素は少なくないと感じた。ただ、文字による説明がほとんどないため、的川氏も指摘していたように、子どもが予備知識なく見るにはややハードルが高い。宇宙博の公式サイトにある宇宙用語解説ページなどを使って予習するか、子どもの年齢によっては有料の音声ガイドを利用するのがいいだろう。また、会場は9,000平方メートルもの広さがあるため、会場で配布しているエリアマップをよく確認してからの入場をお勧めしたい。
取材・文:吉田 教子/写真:言美 歩
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