2004.09.14
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未来は自分でつくる 慶應義塾大学の高校生体験講座

「高校生のための体験講座~未来は自分でつくる~」が慶應義塾大学にて開催された。各学部の現役教授陣による特別講義に受験前の高校生たちは何を学び、考えるのだろうか。考古学、経済学など14種類全17コースのひとつをレポートする。

 
 


今年度は考古学、経済学など全17コース

■現役教授陣による特別講義を体験

 記録的な猛暑となった今年8月2日、慶應義塾大学では、同大学入学センター主催による「高校生のための体験講座~未来は自分でつくる~」が行われた。これは全国の高校2年生を対象に参加者を募り、実際の校舎を使用して、各学部の現役教授陣による特別講義が体験できるという企画で、受験前の高校生に「大学の授業とはどんなものか」「大学とはどういうところか」「自分が本当にやりたいことは何か」を実体験を通して認識してもらおうという意図がある。今年度の開講は、考古学、経済学、心理学など14種類、全17コース。そのなかから、商学部助教授の吉川肇子先生による講座『体験的に学ぶ組織心理学』の模様をレポートしよう。

 講座は、昼休みをはさんで午前と午後の二部構成で、学生たちはその両方に参加するシステムになっている。この日、吉川講座に参加したのは約20名で、うち男子は3名と、教室は圧倒的に女子学生で占められた。

 午前の部では、吉川先生が心理学という学問について簡単に概観した後、その一分野である組織心理学の概要を説明。特に、進路や職業の決定はどのように行われているのかを、詳しく解説していく。夏休み期間中ゆえか、制服での参加者はごくわずかで、それぞれがなかなかに個性的なファッション。見た目には、通常のキャンパスと変わりない。グループ参加も少なく、ほとんどが初対面の様子で、携帯メールで休み時間を過ごす姿が印象的だった。







 


慶應義塾大学商学部
助教授 吉川肇子先生





 


「美」「伝」「体」などと書かれたカードを集める








カードを得たり、棄てたりして職業を選択していく

■グループ分けは誕生日順、だけど・・・

 そして13時からスタートした午後の部。組織心理学を体験的に学ぶべく、全員参加のゲームが行われるのだが、まだよそよそしい教室の雰囲気を払拭するかのように、冒頭、吉川先生が全員に机を片づけるよう指示。中央にスペースができると、今度は「言葉もアクションも使わず、一日の狂いもなく正確に、1~12月まで誕生日順に並びなさい」との難問が! これには20名の高校生たちもしばし呆然……。そのうち足で床に数字を書く者が現れる。すると、「足で書いてもだめ。手と一緒でしょ!」と先生が一喝。再び、全員が固まってしまうが、間もなく一人の女子がイスを手に12個並べ始めた。それが「12ヶ月」をさすと気づいた学生たちは、各々、イスを数えながら誕生月順に並び直す。しかし「生まれ日」の問題がまだ残っている。“さて、どうしたものか”と眺めていると、教室のどこからか、手拍子の音が聞えてきた。その音をヒントに、あちらでもこちらでも手拍子が響く。「1日生まれなら1回」「30日生まれなら30回」手を叩くことで、同じ生まれ月のグループ内で前後を確認しているわけだ。すべてのグループの並び替えが終わったのを見計らって、先生は誕生日順に一列に並ぶよう指示を出す。そして、1月生まれから口頭で誕生日を言っていくと、20名の高校生たちは一人の違いもなく、見事に誕生日順に並んでいた。

 その誕生日順をベースに、3班のグループに振り分けられた彼らが次に挑戦したのは『職業適性検査テスト』。これは一般にも流通しているプリントを使い、列記されている160個の職業を「好き→○」「嫌い→×」「知らない→無記入」とマーキングすることで、最終的に自分の職業興味や傾向を具体的に割り出していくというものだ。このテストを経て、現在の自分自身の職業(進路)適性が見えてきた様子の学生たち。そして、最後に控えていたのが、「シュミレーションゲームを使って、自分の人生プランについて考えてみよう」という講座のメイン・イベント『キャリ・ゲー タイムカプセル』だった。

■20年間を仮想体験『キャリ・ゲー タイムカプセル』

 このカード・ゲームは、「美」「体」「伝」「星」「旅」……といった文字が書かれたさまざまな種類のカードを集めて、職業に就くというもので、それを通して35歳までの人生を仮想体験していく。そして35歳になったら、自分(ゲームの中の架空キャラ)の人生を振り返り、みんなで同窓会を開くのである。今回は3つのグループ別に、そのなかでさらにニ人~三人一組ずつのチームとなって対戦した。

 まずグループごとにカードをよく切り、それぞれのチームに、職業カード4枚と学校カード1枚、それと16歳から35歳までの年齢と、得たカード・棄てたカード・職業をメモするためのキャリア・シートという紙を与えられる。残ったカードはテーブルの中央に山としておかれ、それを順に一枚引いては、不必要なカードを一枚棄て……を繰り返し、カードの揃い方から職業を選択。さらには修業を積んでポイントを稼いだり、たった一度だけ使用できる学校カードで欲しい種類のカードと交換してもらいキャリア・アップを計ったりと、35歳までの職業人生を豊かにする知恵も盛り込まれている。全員が一巡したところで1年経過。それぞれが35歳になるまでゲームを続けていくのである。

 

 


キャリア・シートに35歳までの職業人生を記入する

 









完成した物語を
「同窓会」として発表する


 どのチームも16歳のスタート時はまったくバラバラだったカードが、20歳、25歳を過ぎるころには形が見えはじめ、34歳にもなると新カードを引く気が失せていく。なかには27歳の時点で職業が安定してしまったチームもあり、ゲーム中、ちょっと退屈そうな表情が、“職場のベテラン”を彷彿させて面白い。一方、ギリギリになってもカードが揃わず、右往左往してる転職組も……いる。

 そしてゲーム終了。チームごとにキャラクター名を考え、キャリア・シートをもとに職業人生を振り返り、物語を完成させると、それを「同窓会」の近況報告として発表し合う。例えば、16歳から順調にカードを揃えていった仮称「デヴィッド・ベッカム」さんの場合。『学生時代からヴァイオリンを習っていた僕は、さらに専門的に学ぼうと音楽学校に進学。卒業後、楽器店を開き店主をしていたが、この店がなかなか業績よく、国内外にチェーン展開していく予定』というキャリア物語を発表。ゲーム中盤から盛り返した「山田花子」さんの場合は、『中学卒業後、ウエイトレスとして働いていたが、20歳のとき学校に再入学し、ファッション・デザイナーに。そして34歳で伝説のカリスマ店長に就任。これまで仕事一筋だったので、この先は結婚相手を探したいと思います』という具合。各々カードに書かれている言葉の意味を感じとりながら、職業人生を語っていくわけである。
カードの神の采配とはいえ、その物語は妙にリアルで興味深い。

 最後に吉川先生が問いかけた。「みんなは人生でカードを引くことある?」すると学生たちは「受験もそうだし、これからの人生選択で引くことはあると思う」との答え。
「でもこのゲームをして気づいたことがあるかな? 実は、学校カードは、『夢』カードと『本(能)』カード、この2種類とは交換できないんです(笑)。夢や本能(魂)は学校ではなく自ら得るもの、持っているもの。今回のシュミレーションゲームを参考に、これから自分の進路と向き合っていって下さい」と先生。

 正直、ゲーム中は、目の前のカードを揃えることだけで精一杯、言葉の深意まで気が回らぬ様子の彼らだったが、ゲームを終え、徐々にその奥にある意味を理解しはじめたよう。講座の感想を尋ねるとみな一様に「面白かった!」と答える。高校2年生の熱い熱い夏休み、人生の指針と刺激を得た彼らは充実の面持ちでキャンパスをあとにした。

(取材・執筆/寺田 薫)


※午後の部で使用したカードゲーム『キャリ・ゲー タイムカプセル』は、日本シミュレーション&ゲーミング学会会員、ゲームデザイナーの網代剛氏他によるグループのオリジナルゲームです。詳しくはこちら→http://www5a.biglobe.ne.jp/~t-az/

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