2003.10.21
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教育セミナー「校長就任 半年を問う」 杉並区立和田中学校

教育セミナー「校長就任 半年を問う」

東京都初の民間出身の校長として、杉並区立和田中学校に就任した藤原和博氏、100ます計算でお馴染みの陰山英男氏がパネラーとして、作家の林真理子さんがコーディネーターとして参加するという、なんとも豪勢なイベントが10月11日に開催された。当日は、今話題となっている2人の校長の話を聞こうと、PTAや学校の先生など、多くの教育関係者が会場に足を運んだ。

 
 
 
 

藤原和博氏
 
 
 
 
 
 

陰山英男氏
 
 
 
 
 

林真理子さん
 
 
 
 
 
 
 
 

600名が会場に詰めかけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
作曲家の三枝成彰氏もディベートに参加!
 
 
 

堂々と意見を述べる生徒たち
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 

 今年4月、杉並区立和田中学校に東京都初の民間出身の校長として藤原和博氏が就任した。藤原校長は就任以来、中学生に生きた社会科を学んでもらおうと、[よのなか]科など特色ある授業を行うなどして注目を集めている。10月11日には、その和田中学校を会場に、藤原校長や同じく今年4月から広島県尾道市立土堂小学校の校長に就任した100ます計算でお馴染みの陰山英男氏がパネラーとなり、「校長就任 半年を問う」をテーマにした教育セミナーが開かれた。当日は、今話題となっている2人の校長の話を聞こうと、PTAや学校の先生など、多くの教育関係者が会場に足を運んだ。

 今回の教育セミナーを主催したエンジン01(ゼロワン)文化戦略会議は、幅広い分野にわたって、表現者や思考者たちが集まったボランティア集団。日本の文化を深めることを目的に活動しており、藤原校長も会員に名を連ねている。この教育セミナーは、今年3月に中央区立泰明小学校で開催されたイベントに続くものとなる。

■土曜日の休みは是か非か生徒達がディベート

 この日、会場となった和田中学校体育館に集まった参加者は学校の先生をはじめ約500名。壇上で語られる話を遠くから聞くのではなく、セミナーに参加しているという気持ちを持ってもらおうと、パネラーとの距離を縮めるため主催者側の意向で会場の床には畳が敷かれ、そこに座って間近で話を聞くという形がとられた。

 2部構成となるセミナーの第1部は、和田中学校の生徒とエンジン01(ゼロワン)文化戦略会議会員による集団ディベート。学校週5日制になって土曜日が休みとなったが、土曜日はこのまま休みで良いか、それとも授業を復活させるべきかについて討論がなされた。
 ディベートに参加した和田中学校の生徒は約20名。生徒と会員を、土曜日を休みにすべきという者と、授業を行うべきという者に分けて意見を戦わせたが、生徒の多くは土曜日の休みはこのままで良いという方に回り、授業を復活させるべきという考えは少数派となった。
 会員の中では、財務省理財局国庫課長の岸本周平氏、作曲家の三枝成彰氏、東京大学大学院総合文化研究科教授の船曳建夫氏、神経内科医の亀井眞樹氏が、土曜日は休みで良いという側に回り、作家の石川好氏、株式会社ドリームワン社長の王東順氏、作家の林真理子氏は土曜日の授業を復活させるべきという側に付いた。授業復活派に回った会員から、「日本人の習性として、休みが多いとろくなことをしないのではないか」(石川)、「1週間のうち6日間、友達と会う習慣を作ることが大切」(林)などの意見が上がると、休みにすべき派からは、「制度はどうであれ、勉強する生徒は自宅でも勉強する」(岸本)、「勉強する時間を増やせば、学力が付くというわけでは決して無い」(三枝)などの反論がなされた。

 そうした大人達に混じって、和田中の生徒たちも大人に負けず、しっかりとした意見を述べていった。「早起きしなくて良いので土曜の休みがうれしい」、「土曜日が休みになって自分の好きなことがでできるようになった」などの意見が、土曜日は休みで良いという側の代表的な意見。その一方で、授業を復活させた方が良いという側からは、「土曜日が休みだと平日の授業時間が増えるのがいやだ」、「土曜日が休みになって生活のリズムがくるってしまった」といった意見が上がった。
 また、生徒から、「これまでも土曜日の授業は、あまり重要とは思えない内容だった」という意見も出てきたが、それに対して陰山校長から、「完全週5日制に向けての移行期間は、隔週休みでカリキュラムが組みにくいなどの理由から、普通教科の授業が行われない学校も多かった」との補足説明がなされた。さらにディベートが続くうちに生徒達の意見は白熱し、「土曜日に家で勉強をした方がはかどる」といった意見が出ると、「そういった人は特別で一部の意見にしかすぎない」と、すかさず反論が上がるなど、それぞれの生徒が自分の考えを持っていることをうかがわせるディベートとなった。

 「このディベートにより、完全週5日制が是か非かの答えを出そうというものでは無い」と説明する藤原校長。こうして、それぞれ違った考えを持った者が意見を取り交わすことが大切だと語る。そして、まとめとして陰山校長が、「学力低下の問題以上に、朝早くに起きられないという子どもが多く体力低下の方が心配。しきりに学力低下と騒がれるが、その原因を探ることなく制度を動かそうとするのは危険なこと。事実に則って冷静な議論を交わすことが大事」と語り第1部が締め括られた。

■パネルディスカッション 陰山校長に問う

 休憩をはさんで行われた第2部は、林真理子さんをコーディネーターとした、陰山校長と藤原校長によるパネルディスカッション。まずは林さんから陰山校長に向けて、これまでの取り組みなどについて次々と質問がなされていった。
 「これまで、自分なりの校長論で展開してきたが、先生方は従来通りのやり方から抜け出すのに苦労したようだ」と語る陰山校長。生徒の学力向上に必要となってくるのは、生活習慣の改善だと力説し、そのためには家庭との協力がどうしても欠かせないものとなると語りかける。
 「教育制度を見直そうという考えがあるみたいですが」と林さんが話を向けると、「学校週5日制が始まったばかりで、正確なデータが抽出されていない。教える内容が削減されたと騒がれているが、何がどれだけ削減されたかも理解されないまま、議論されてしまうのは問題」と安易に制度を改革しようとする動きに警鐘を鳴らす。
 そして、政治家は本当に教育問題を重要なこととして捉えているのかと林さんが疑問を投げかけると、陰山校長は最重要視すべき教育問題が後回しにされていることを憂いつつ、「たとえ政治家でなくても、一人一人が自分のできるところから変えていけば良い、人任せにしてしまってはいけない」と熱く訴えかけた。

■2人の新任校長が語る、これからの学校教育 

 林真理子さんからの質問が終わると、続いて陰山校長と藤原校長の両校長による教育談義が展開された。

 まず、藤原校長が「学力低下の問題は社会問題で、学校だけで出来ることは限られている」と訴える。小学校も中学校も主要科目を習うのは時間にして1年間に400時間程度で、お父さんの通勤時間とほぼ同じだという。これで土曜日の授業を復活させたとしても、この数字は大きく変わるものでは無いと説明する。子どもの学力を伸ばすためには、学校に任せきりにするのではなく、家庭や地域での取り組みが重要になると語る。
 それに続き、陰山校長は土曜日が休みになったことの利点をあげる。それによると、疲れている子どもが体を休められるようになったことで、生活のサイクルを組み直すことが可能になったという。また、教師も土曜の休みでリフレッシュできるので、その結果が平日の授業に反映されていくとしている。

 また、杉並区では学校選択制がしかれているが、地域に開かれた学校づくりを行っているところが目に見えて改善されてきていると、藤原校長は語る。ここで、杉並区で保護者が主体となって進めている土曜学校について説明してもらうため、会場に来ていた学校教育コーディネーターの方が藤原校長から紹介された。その土曜学校でも、子どもが進んで来たくなるような場所づくりが行われているという。
 「杉並区では各学校の持つ権限が強まってきた。学校に残ってほしい先生がいた場合、異動を引き止めることもできる」と語る藤原校長。それに対して陰山校長は、「学校の権限が強まると、校長の力量が問われてくる。校長が判断を誤らないためにも、地域や家庭が目を光らせておく必要がある」と地域との連携を促す。

 最後にこれからの活動の話になると、「今後も子ども達の能力が伸びるカリキュラム作りにつとめる」と陰山校長は語り、「子どもを成長させることは親子のアプローチの一つ。自分の子どもが伸びていく姿は、親に喜びを与えてくれる。土曜日が休みになったことで、子どもが家にいる喜びを感じてほしい」と、家庭での教育の重要性を改めて強調した。
 そして、藤原校長が、「今日のセミナーのように、大人が学んでいる姿は、子どもにとって最高の教材となる。こうした機会が、もっと設けられるように外に開かれた学校づくりを徹底的に進めていく。セミナーに参加した皆さんは、批評家になるのではなく、一緒に参戦してほしい」と来場者に呼びかけてセミナーは幕を閉じた。

■今回のセミナーを振り返って

 セミナーが終了して、その感想を藤原校長に尋ねたところ、「多くの来場者を前にしながら、しっかりと自分の考えを発言する生徒達の姿を見て、着実に子ども達が成長していると感じた」との答えが返ってきた。生徒の発言の中には、教育改革における本質的な問題を含んだものもあり、その鋭い見方に驚かされたという。これは[よのなか]科などの特別な授業だけがもたらした成果ではなく、日頃の学習の積み重ねで論理性などが培われてきたことが、生徒達の発言にも現れたとしている。

(取材・構成:田中雄一郎)


【陰山英男】
 広島県尾道市立土堂小学校校長。『学力は家庭で伸びる』『本当の学力をつける本』などの著書がベストセラーとなる。科学的なデータに裏付けられた基本的な生活習慣の指導と、独自のプログラムに基づいた「読み書き計算」の徹底した反復学習で、子どもたちの学力を伸ばしている。

【藤原和博】
 東京都初の民間出身の校長として今年4月に杉並区立和田中学校校長に就任。シミュレーションやロールプレイングの手法を取り入れた総合的な学習[よのなか]科を提唱し、全国の中学校、高等学校で実践してきた。エンジンゼロワン01文化戦略会議会員。

エンジン01(ゼロワン)文化戦略会議ホームページ
http://www.enjin01.org/


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