2003.08.12
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さまざまな視点から海を学ぼう/財団法人シップ・アンド・オーシャン財団

水族館などの施設を利用して授業を行いたいと思う先生も多いだろう。例えば、自分が水族館で授業をするとしたらどんなプログラムにするだろうか?

■水族館、あなたならどう使う?

2回目の講師 中村元さん

6月に行われた2回目のワークショップは、『博学連携を含めた取り組みや課題』と題し、江ノ島水族館アドバイザーの中村元さんが登場。中村さんは元鳥羽水族館副館長で、就任時に数多くの体験学習プログラムを実施した経験をもつ。

聞き出したプロフィールを披露!どこまで聞き出せたかな?

まずは『他己紹介』でアイスブレーキング。これは、ふたり一組になり、組んだ相手からプロフィールを聞き出して、他の参加者に紹介してあげるというもの。参加者たちはパートナーとなった相手から必死に話を聞きだし、相手のプロフィールを披露した。ぎこちないペアの紹介も笑いを呼び、和やかな雰囲気になった。

次に、「どのように水族館を使えばいいのか?その切り口を考える」と題し、中村さんが考える日本の水族館の現状や、水族館という施設をいかにして利用すべきかを話した。中村さんは「私は“水族館”という媒体を作りました。先生方も水族館を媒体にすればいいと思います。やりたいこと、使える技があれば、ジャンルを問わないはず。水族館はその点で使いやすい施設。使わない手はないでしょう」と話し、自然文化を伝えたい中村さんが実施した理科分野以外での水族館の利用例を挙げた。例えば、絵を描いたり、フィギュアを作ってみる。よく観察することで自ずと科学的なことが見えてくるはずだ。また、魚は何匹いるか、群れている魚を面積から考えてみたり、水面に上がってくる回数を数えてみるなど観察の中から、普段習っている算数の公式に結びつくかもしれない。他にも食べられる魚探しや、見つけた魚の調理法を考える、・・・など。遊んで学ぶ体験型の学習「あそびまなび」が「生きる力」に結びつくこと。その中から、子どもたちの多様性を引き出してあげることが大事だと中村さんは話した。

  • 水族館でこんな授業をやってみたい・・・

  • 事前準備や当日のスケジュール、必要な物も考えなきゃ

  • アイデアを付箋メモに書き出しては貼って・・・

  • グループごとに考えた授業を発表

最後に「水族館を利用したプログラム作成」を行った。先ほどの他己紹介から得た情報を元に中村さんが参加者を3つのグループに分け、各グループの参加者が得意とする分野を活かしたプログラムを考案し、発表した。例えば、「マリンスポーツ系」グループは『本物に学べ、ぼくの私の自由形』と題し、水が苦手な子どもにも楽しんでもらうために“泳ぎの専門家”である水族館の生き物を観察することから泳ぎ方を学び、5種目、6種目の泳法を探してみよう、というもの。「自分たちの得意分野を使うことによって、水族館の利用法が広がり子どもたちの世界も広がる。今後は水族館を自分たちのフィールドだと思って活用したい」とまとめた。

■環境問題は「記述式の応用問題」

関東近県の先生方が中心に集まった

翌月行われた3回目のワークショップは、トイレや下水道から海を考えるという、変わった試み。始めに同財団海洋政策研究所の研究員福島朋彦さんからお話を聞く。

海洋政策研究所の福島朋彦さん

国内で発生した公害の事例を振り返る。熊本県の水俣病、富山県のイタイイタイ病など高度成長期に発生したこれらの公害は法律の整備、行政の努力、それと近年の技術開発によって改善されてきた。だが、このような対策をとっても依然として解決されない問題が残っている。その代表的なものが赤潮・青潮である。また、1990年代以降、地球温暖化、酸性雨、砂漠化などの地球環境問題に注目が集まっている。これらの解決には行政や技術革新だけではなく、国際協調や貧困対策などの複雑な対応が求められている。そして現在、沿岸域の新たな問題として挙げられているのが「オイルボール」である。下水管に付着した油分が大雨などの増水時に洗い流され、白い塊となって沿岸域に漂着したものだ。塊の大きさは大小さまざまであるが、原因は下水に混入する油であり、これを垂れ流しているのは人間である。

また、私たちが排泄する「うんち」も問題となっていることをご存知だろうか。流行している低カロリー飲料に含まれる難分解性成分を含むもの、飽食がもたらした油まみれのもの、通常医療がもたらす抗生物質を含むもの、これらの物質は現在の下水処理施設の処理を難しくしている。

このように、環境問題と言ってもその原因や解決法はひとつではない。それはまるで「記述式の応用問題」であり、その答えを探す努力をするための環境教育が必要であると、福島さんは話した。

■あなたは毎朝、見ていますか?

「うんぴ・うんにょ・うんこ・うんご」

唐突かもしれないが、これはうんこの種類をあらわしている。あなたは毎朝、どんなうんこが出たかチェックしているだろうか?排泄物は人間の健康状態のバロメーター。見れば、おおよその健康状態がわかる。

アクトウェア研究所の村上八千世さん

「毎朝、うんこを見ている人?」参加者にそう尋ねるのは、アクトウェア研究所代表の村上八千世さん。村上さんはコンフォート(快適空間)スタイリストとして活躍する一方、財団法人日本トイレ協会が行う「トイレの出前授業」では講師として子どもたちの前に立つ。この出前授業では、「学校でうんこをするのは恥ずかしい」という子どもたちに対し、排泄は恥ずかしい行為ではないという心理面のフォローや、前述したようなうんこが健康のバロメーターになること、正しいトイレの使い方などを指導している。

今回も同じように「今朝のうんこは“うんぴ”だった?」と村上さんはどんどん参加者に問いかける。こんな風にネーミングされていたら、親子や友だちとの会話でも気軽に話せるかもしれない。実際、今まで自分のうんこを見たり、話しをすることに嫌悪感を抱いていた子どもが出前授業の後、「ボクのは“うんご”だったけど、野菜を多く食べるようにしたら“うんこ”になった」と喜んで報告するようになった例もあるという。

私たち人間は毎日“うんこ”を出して生きている、地球生態系の一部。その“うんこ”を通じて自分の身体・健康に関心をもったり、出された“うんこ”がどのように処理されて川や海に流されるのかを調べて環境へ話を広げる。江戸時代のトイレはどんなもので、どのように処理されていたのか?世界各国のトイレはどんなもの?トイレットペーパーとティッシュペーパーの違いは?トイレットペーパーのない国はどうしてる?など幅広く学ぶことができ、総合的な学習の時間のテーマとしても適しているのでは、と村上さんは提案した。

■下水道から河川、そして海へ

水処理専門家の清水透さん

話はトイレから下水道へ。次に登場したのは水処理の専門家である清水透さん。「下水道あれこれ」と題して、下水道が敷設される前の汚水処理のしくみについてや、世界各国の下水道事情、下水道の種類、処理方法の変遷、現在の問題点について話した。

かつて日本ではし尿を畑の肥料にするという安定したリサイクルシステムが確立していた。やがて都市の形成、人口の過密化に伴って衛生状態が悪化し、下水道の整備が必要となった。

下水道は家庭や工場などから排出された汚水を処理場へ運ぶ設備。運ばれた汚水は処理場にて上澄みと汚泥に分離され、上澄みは河川へ、汚泥は無害化もしくは再利用される。だが、昨今の汚水は先に福島さんが述べたような油や難分解性成分を含む排泄物をはじめ、重金属など有害物質を含んでおり、完全に浄水することは極めて困難だ。水処理の方法や、汚泥処理の技術革新が進んでいるにもかかわらず、十分に対応できていないのが現状だ。下水処理は万能でないことを踏まえ、発生源対策を中心にした新しいライフスタイルを提案しなければならないだろう。清水さんは下水処理における今後の課題を話した。

■全ての源“海”と未来を担う子どもたち

最後は講師への質問タイム

いま海洋が抱える諸問題は、様々な要因が複雑に絡み合って生じている。
「“海”は全ての源(メインエンジン)。太古の昔から私たち人類は”海”の恩恵を受けながら生きてきた。そしてこれからも人類が地球上で生きていく限り、海との共生、海から受ける恩恵を維持していかなければならない。だからこそ未来を担う子どもたちには、自分と”海”とのつながりを自然に意識できる、より広いスケールでの視点と思考を身につけて欲しい。こんな思いから“海”を総合的に体感できる学習を提案したいと考えるようになった。”海”をテーマにした学習は、そんなこれからの時代に必要な物事の捉え方や、問題解決へのプロセスを学ぶには良い題材だと思う。しかし、”海”というのは複雑系テーマなので、取っ付きにくいのも事実。そこで、”海”をもっと学びやすくするためにはいま何が欠けているのか、ワークショップという場を提供させていただき、学校の先生と一緒に考えながら、それを補完する効果的な方法を見出していこうと思う」そう話すのは同財団海洋政策研究所の研究員酒井英次さん。

今まで副読本やパンフレットを作成・配布しても、現場ではなかなか利用してもらえない。その内容が学校や先生にフィットしていなかったのではないか?という反省から、平成13年度、14年度に調査を行い、その結果”教員”と”教材”と”場”をセットでサポートする事が重要とだ気付いた。そこで、”教員”と協働で現行の教科書・システムでも実施可能な“教材”を考える”場”を提供しようと、2回のフィールドワークも含めた全6回のワークショップを実施するに至ったという。

取材・構成:学びの場.com

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