2026.06.15
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意外と知らない"学力調査と合理的配慮"(第2回) CBTにより、「特別扱い」を「標準機能」へ

前回(第1回)は、従来のPBTPaper Based Testing...紙媒体での試験)における合理的配慮の現状と課題について紹介しました。 PBTでは、拡大文字の問題用紙を作成したり、別室受験のために監督者を確保したりと、個々の生徒のニーズに応えるために学校現場が多大なリソース(時間・人手)を割いてきました。また、生徒自身にとっても「自分だけ違う用紙を使っている」「別室に行かなければならない」といった心理的なハードル(スティグマ)が、配慮を申請する際の壁となっていました。

2回となる今回は、こうした課題を解決する可能性を秘めた「CBTComputer Based Testing...コンピュータを使用した試験)」における合理的配慮について解説します。

GIGAスクール構想とテストのデジタル化

そもそも、なぜ今「テストのCBT化」なのでしょうか。背景にあるのは、文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」です。児童生徒に1人1台端末が整備されたことで、日常の学習だけでなく、テストの場面でもデジタル端末を活用する土壌が整いました。

紙の制約から解き放たれたCBTは、単に採点が効率化されたり、問題冊子・解答用紙の印刷・カウント・梱包・配送などの手間を削減するだけでなく、障害や特性のある子どもたちにとっての学びのバリアを取り除く、インクルーシブ教育の観点からも大きな注目を集めています。

CBTで実現できる配慮

CBTの最大の特徴は、デジタル技術を活用することで、これまで「特別な対応」として行われてきた配慮の多くを「標準機能」として提供できる点にあります。PBTと比較しながら、具体的にどのような配慮が可能になるのか見ていきましょう。

配慮のカテゴリ PBTでの課題 CBTでの解決策 CBTのメリット
視覚的・テキスト的配慮 事前の拡大印刷や拡大鏡の持参が必要。用紙の色変更は物理的な制約が大きく、個別の細かなニーズ(光過敏の程度など)への即時対応が困難。 画面上でフォントサイズ、行間、コントラスト(白黒反転やパステル背景)を、受験者自身がリアルタイムで調整可能。 疲労や読み飛ばしを防ぎ、読解力等の本来測りたい能力の測定を妨げないようにできる。
聴覚的配慮 代読は、読み手の速度や抑揚による誤差が生じやすく、また別室確保などのリソース負担も大きい。 TTS(Text-to-Speech音声読み上げ)機能を標準実装。イヤホン使用により通常の教室で一斉受験が可能。速度や声質のパーソナライズも容易。 文字解読の困難さを評価から切り離し、純粋な内容の理解力を測定できる。
解答に関する配慮 代筆受験や別室でのワープロ使用は、受験者の意図が正確に反映されているかという「解答の真正性」に課題が残る場合がある。 キーボード入力やタッチパネル操作に加え、視線入力装置などの支援機器(Assistive Technology)との接続も基本機能として提供可能。 「書く」という運動機能の困難さを、「答える」という思考の評価から切り離すことができる。
かつては準備に数ヶ月かかっていた配慮が、CBTでは個々の端末設定を変更するだけで、多様なニーズに即座に対応できる点が大きな強みです。

日本における事例

日本国内でも、文部科学省を中心に国レベルでのCBT化への移行が進められています。

① 全国学力・学習状況調査のCBT化

文部科学省は、全国の小中学生を対象とした「全国学力・学習状況調査」について、段階的にCBTへの移行を進めています。来年2027(令和9)年度からは全面的にCBTで実施される予定です。これまでの紙のテストでは、通常版の問題冊子に加え拡大文字問題など各種配慮版冊子の作成・配送に膨大なロジスティクスが必要でしたが、CBT化によりこれらのコストや手間が大幅に削減されることが期待されています。

CBTによる全国学力・学習状況調査でも、従来と同様、各学校の判断により、当該生徒の障害の種類や程度に応じた配慮が可能です。加えて、各学校において以下のような配慮をすることも考えられます。

  • 必要に応じて、付添者が、端末画面に表示されている文字を音読し、生徒から解答を聴き取り代理入力するといった対応(口頭解答をするため別室で実施)。
  • 必要に応じて生徒が日常使用している入出力支援装置、端末のアクセシビリティ機能(音声読み上げ、ピンチ操作、反転・リフロー表示、フォント・コントラスト変更等)の活用。

過去にCBTによる出題を行った、中学校3年生対象の、令和5年度調査うち英語「話すこと」、令和7年度調査のうち理科についてCBT配慮版問題プログラムの使用実績を以下にまとめています。令和5年度から令和7年度にかけて、特に拡大文字プログラムとルビ振り問題プログラムを中心に、配慮版の需要が高まっており、またCBT化により様々な配慮問題プログラムを柔軟に配信・利用できるようになったことがうかがわれます。

また、点字問題冊子の利用者数はかなり少ないことがわかります。自治体の学力調査の規模では利用者が1~2名となり、用意できないことが考えられます。

主な対象 調査資材 令和5年度「話すこと」受検者数 令和7年度理科受検者数
視覚障害のある生徒 拡大文字問題プログラム 120 370
点字問題冊子 40 20
聴覚障害のある生徒 スクリプト表示問題プログラム 246 -
発話に困難さがある生徒 代筆解答プログラム 46 -
肢体不自由・病弱等 その他の障害のある生徒 時間延長問題プログラム 169 115
日本語指導が必要な生徒 ルビ振り問題プログラム 1431 10,949
上記以外 通常問題プログラム 903,318 892,074
合計 905,370 903,528

しかし、配慮版の問題セットを通常版と別で用意するという点ではPBTと同様であり、これまで行われてきた配慮を通常版の中に「標準機能」として組み込むという点に今後の課題があると考えられます。

② AXESシステムの研究開発

大学入試センターは、障害受験者への合理的配慮を達成するための研究を行っており、2015年度からタブレットデバイスで動作する障害のある受験者のための試験問題読み上げ・閲覧アプリ(通称AXES: Accessibility eXtended Examination System)の開発・検証を行いました。

AXESの技術的特徴 概要
試験問題の音声読み上げ NHK放送技術研究所による独自技術 高速化しても聴きやすい音声を生成
画面表示の柔軟な調整 文字や図の拡大 フォントや画面配色の変更

海外における事例

CBT化で先行する海外では、さらに踏み込んだ取組が標準化しています。

米国:デジタルSATと「Bluebook」アプリ

アメリカの大学入試などで用いられる共通テスト「SAT」は、2024年から完全にデジタル化されました。ここで使用される試験用アプリケーション「Bluebook」は、まさにインクルーシブな設計の好例であり、主に以下のような機能が内蔵されています。

機能名 概要
テキスト読み上げ (Text-to-Speech) 問題文や選択肢を音声で読み上げる機能。速度調整も可能。
ズーム機能 画面全体やテキストの一部を拡大表示する機能。
ハイコントラストモード 背景色と文字色のコントラストを調整し、視認性を高める機能。
ラインリーダー 読んでいる行以外をグレーアウトさせ、視線の迷子を防ぐ機能。
ストライクスルー機能 明らかに間違いだと思う選択肢に取り消し線を引く機能。

Bluebookのテキスト読み上げ (Text-to-Speech)機能イメージ図

特筆すべきは、テキスト読み上げ以外の機能は、申請不要で利用できる点です。全受験生が使う「標準アプリ」の中に組み込まれており、自分の端末でこれらの機能をシームレスに利用できます。周りの生徒と同じアプリ画面を開きながら、自分だけの設定で受験できるため、スティグマを感じることがありません。また、点字ディスプレイといった外部の高度な支援機器との互換性も確保されています。

② OECD:PISA(学習到達度調査)の変遷

OECDが実施するPISA(学習到達度調査)の歴史的変遷も象徴的です。かつてPISAには、障害のある生徒を「調査対象から除外」することを許容する規定(最大5%まで)が存在しました。これは、障害のある生徒が受験することでデータの比較可能性が損なわれる懸念や、そもそも紙の試験では物理的に受験が困難であるという事情がありました。

しかし、近年では方針が大きく転換され、「インクルージョン(包摂)」が最重要テーマの一つとなっています。

現在の方針は、「除外」から「可能な限り多くの生徒を含める」方向へシフトしており、その実現のためにCBTが重要な役割を果たしています。視覚障害や注意障害のある生徒を対象とした代替的な試験形式のパイロット調査なども行われており、「すべての生徒の能力を正しく測る」ためにテクノロジーを活用するという国際的な潮流が確立しています。

まとめ:「恩恵」から「権利へ」

2回にわたり、学力調査における合理的配慮について見てきました。

第1回で見たように、かつて合理的配慮は、本人にとっても学校にとっても特別な負担を伴う「恩恵」のような側面がありました。しかし、CBTの普及は、その景色を大きく変えようとしています。

CBTにおける合理的配慮の最大のメリットは、「特別扱い」を「標準機能」へと変えられる点にあります。

文字を拡大したい子も、音で聞きたい子も、背景を変えたい子も、みんなと同じPC画面やタブレット端末に向かい、それぞれの最適な設定で試験を受ける。そこには、かつてのような「自分だけ違う」というスティグマは生まれません。

CBTは障害の有無にかかわらず、すべての子どもたちが「自分の持っている力を正当に評価される権利」を行使するための強力なツールであり、配慮を受けることが特別ではない未来に向けて、今後より重要になってくると予想されます。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 大野和仁

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