2026.06.15
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意外と知らない"学力調査と合理的配慮"(第1回) PBTと合理的配慮

みなさんは「合理的配慮」と聞いて、何を思い浮かべますか。街中でよく見かけるものとしては、点字ブロックや車いす利用者のためのスロープやなどが思い浮かぶと思います。今回は合理的配慮の中でも、特に学力調査の現場でどのような配慮が行われているのか、学校でのテストから大規模調査、海外での事例など様々な視点から2回にわたって紹介します。第1回は、PBTPaper Based Testing...紙媒体での試験)で行われてきた合理的配慮について、その歴史も含めて確認します。

合理的配慮とは

2006年に国連で採択された障害者権利条約(障害者の権利に関する条約・日本は2014年に批准)では下記のように述べられています。

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

簡単に説明すると、合理的配慮とは、障害のある人の人権が、障害のない人と同等に保障され、教育や就業等の社会生活において、それぞれの特性による困りごとを解消するための配慮だということが分かります。

PBTにおける合理的配慮

普段の授業を受けることに困難さを抱える子どもたちへの配慮は、「弱視のこどもの席を一番前にする」「集中が途切れやすい生徒を先生の近くに座らせる」といった形で、先生方の裁量に委ねられている側面が強く、以前から学校現場での工夫によって行われていたと考えられます。

大きな転換点となったのは、日本においては2016年4月に施行された「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」で、学校は障害のある生徒から配慮の申し出があった場合、その生徒の状況に応じて「過重な負担」にならない範囲で、必要な合理的配慮を提供することが法的義務となりました。

文部科学省では文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の 解消の推進に関する対応指針において下記のように定めています。

不当な差別的取扱い、合理的配慮等の具体例

○入学試験や検定試験において、本人・保護者の希望、障害の状況等を踏まえ、別室での受験、試験時間の延長、点字や拡大文字、音声読み上げ機能の使用等を許可すること。

これに関連し、日本の教育現場ではPBTでの試験において、次のような配慮が行われてきました。

配慮方法 障害の状況 配慮の内容
試験時間の延長 読み書きに時間がかかる(ディスレクシアなど)、解答に時間がかかる。 ・試験時間を1.3倍や1.5倍などに延長
問題用紙・解答用紙の変更 弱視、白黒のコントラストが眩しい。 ・問題用紙や解答用紙の拡大(例:A4→A3へ拡大)
・用紙の色変更、白黒反転コピーの使用
別室受験 聴覚過敏、周りの視線・物音が気になって集中できない。 ・静かな別室での受験の許可
解答方法の変更 肢体不自由、書字に困難がある。 ・PC(ワープロソフトなど)での解答入力の許可
・解答代筆(生徒が口頭で答えたものを先生が記入する、など)
読み上げ・補助具の使用 上記全般 ・試験問題の読み上げ(別室で試験監督者が読み上げ、読み上げ機器の使用)
・ルーペ(拡大鏡)や、問題文の特定箇所のみをハイライトする補助具(リーディングトラッカーなど)使用

PBTにおける配慮事例

全国学力・学習状況調査において、特別な配慮が必要な児童生徒への対応として「点字問題」、「拡大文字問題」及び「ルビ振り問題」を作成しています。

調査環境の配慮については、各学校の判断により、当該児童生徒の障害の種類や程度に応じて、以下のような配慮が可能となっています。

点字学習者 問題読取・解答困難 解答困難 肢体不自由 病弱
解答方法 点字・代筆・墨字 自筆・代筆 代筆 自筆・代筆
調査時間 最大1.5倍 最大1.3倍
調査場所 別室
調査内容 一部点字用にアレンジされた内容 通常の調査問題と同じ内容
使用するもの 点字問題用紙、点字用解答用紙 拡大文字問題用紙 (通常の問題・解答用紙)
その他事項 付添者の同伴可 視覚補助具等の使用、付添者の同伴可 車椅子や杖の仕様、付添者の同伴可

また大学入学共通テストの受験上の配慮の利用者数と全志願者数の推移は、グラフのようになっています。 2015年から2024年にかけて、全志願者数は少子化等の影響により55.9万人から49.2万人へと12%減少する一方で、受験上の配慮利用者数は、2372人から3963人へと67%増加しています。

このように、PBTの時代から、年々高まっていく配慮版への需要を背景として、個々の生徒が有する困難さに応じてその能力を公平に測るための工夫が積み重ねられてきました。しかし、これらの配慮は、拡大問題用紙の準備や別室監督者の配置など、学校現場の多大なリソース(時間・人手)によって支えられてきた側面も否定できません。

受験時に合理的配慮を受けるための手続き

試験当日に合理的配慮を受けるためには、ただ要望するだけでなく、適切な時期に所定の手続きを行う必要があります。ここでは、代表的な「大学入学共通テスト」と「高校入試」について、それぞれに必要な手続きとその内容を以下に示しています。

手続き 内容
大学入学共通テスト 早期の申請 ・一般の出願受付よりも早い時期(例年夏頃開始)に「受験上の配慮申請書」等の提出が必要。
継続性の証明 ・申請には医師の診断書に加え、在籍校が作成する「状況報告書」等の提出が必要。
・状況報告書…「普段の授業や定期試験でどのような配慮を受けているか」を証明するもので、入試における配慮決定の重要な判断材料となる。つまり、入試の時だけ特別な対応を求めるのではなく、「普段通りの力を発揮するための環境」を整えるという考え方が基本にある。
高校入試 ・中学校との連携
・教育委員会や志望校と事前相談
・まずは担任や特別支援教育コーディネーターなどの先生に相談し、申請の意思を伝える。
・自治体によっては、入試の数ヶ月前から教育委員会との事前協議が必要な場合があり、お住まいの地域の制度を早めに確認することが大切。

こうした手続き制度は整いつつありますが、利用にあたっては課題も残されています。

一つは手続きの複雑さです。診断書の取得や申請書類の作成には、受験生本人と保護者、そして学校側に相応の労力がかかります。

もう一つは、心理的なハードル(スティグマ)の問題です。診断書を取得するために医療機関を受診すること自体が、本人に『自分は特別に配慮が必要な存在なのだ』と強く自覚させ、それが心理的な障壁(スティグマ)の一因となる側面もあります。当事者にとっては、配慮を受けるメリットよりも、「特別扱いされていると思われないか」「偏見を持たれないか」といった不安や、周囲からの差別的な視線(マイクロアグレッション)を恐れ、申請を躊躇してしまうケースも指摘されています。

合理的配慮は「恩恵」ではなく「権利」ですが、その権利を行使するためのハードルをどう下げていくかも、今後の重要なテーマと言えるでしょう。

第2回では、この学校現場の大きな負担や課題を解決するという問題を解決する手段として、「CBTにおける合理的配慮」について解説します。

構成・文:内田洋行教育総合研究所 主任研究員 大野和仁

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